3-1
その夜、おかしな夢を見た。
寂しさと挫折についに狂ったか? だいぶ立ち直ったと思っていたのに。
田舎の美しい空気と水、どこか懐かしく温かい土のぬくもり、そういったものに触れてきたのに。
癒し効果さえないなら、田舎の価値はいったい何なんだろう。
「何をぶつくさ言っておるのだ?」
「え?」
「心の声が漏れとるぞ」
「・・・すんません」
「これはほんとにおまえが作ったのか?」
華やかな、でも明らかに現代のものではない衣服をまとった迫力のある美女が問いかけている、私に。
「あ、それ」
女が手にしているものは陶芸教室で作った唐花六花鏡もどきの代物だった。
皿や花瓶など、一通りのものを作り倒し、何か作るものがないかと思ったときに浮かんできたのが唐花六花鏡だった。
唐花六花鏡はこの地に逃げ来たと言われている百済の王、禎嘉王が持ち込んだ銅鏡だ。
町の唯一の自慢である正倉院のレプリカ建築である西の正倉院に保管されている。
あの六枚の花弁をつなぎ合わせて作ったような円を再現してみたい。
そう思って必死になって作り上げたお気に入りの作品だった。
女が手に持っている六花鏡もどきを改めて眺めてみる。
やっぱりいいじゃん。
自然と頬がゆるんだ。
「何を笑っておる?」
「いえ、別に」
「そうか。それにしてもよくできとるのお。あの鏡にそっくりじゃ。でも、これ、何も映らんぞ」
「陶器ですから」
「おかしいのお。ま、よしとしよう。懐かしいのお」
女が六花鏡もどきに頬ずりしている。
「ザラザラして、感触はずいぶんと違うが」
「だから、陶器ですから」
再現するっつっても限界があるっつの。
「ま、いいか。フォルムはよくできとるから」
「あ、ありがとうございます。で、あなた様は一体?」
「ん? 私か? 私は百済の王、禎嘉王の血を継ぐものじゃ。知っておるか、禎嘉王を? この地に流れついた有名人じゃ」
「いちおう知ってますけど」
ここで生まれた子供なら誰もが知っている名前だ。
百済王伝説と西の正倉院、そして王を祀った神門神社、王の墓の塚の原古墳、師走まつりに、あぶら田の川・・・
このあたりで有名なものは百済王に関するものばかりだった。
「そこの姫君じゃ。母が庶民だったから、それほど位は高くないが。そのせいで、ここに流れ着いた後は、土地の豪族に嫁がされてしまったのじゃが・・・」
ファンタジー、あんど、いきなり重い身の上話。なんなんだ、この女。
これが私の夢だとすると、これは私が頭のなかで作り上げた幻想ということになる。どうして、自分? なぜ百済王伝説? 無意識に興味を持っていたのか?
「偽物でもいいのお。この形、懐かしい」
「偽物ってわかってるんですか?」
「わかっておる。本物は西の正倉院に眠ってるおるではないか。ほんとはあっちを触りにいきたいんだが、なんだか不思議な結界が張られておって」
「結界?」
まんまラノベの世界じゃん。興味あったのか、私?
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