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「ちょっと聞いてんの、美里ちゃん」

「え?」

「もう、真面目にやってよね。これ、見て」

「えー」

 拒否しながらも、叔母に提示された見合い写真を見遣る。スマホの小さな画面には・・・おっ、なかなかのイケメン。

 私の目の動きを見逃さなかった叔母が切り込んでくる。

「猪塚四郎さん、三十二歳。あ、しろうは四の郎ね、兄さんとは漢字が違うから」

 父の名前は史郎、夫の名前も四郎。もしそうなったら、なんだろう・・・地味に地獄。

「東京の人で、シイタケの栽培にエイアイを取り入れたて低コストで良質なものを栽培したいって、こっちに引っ越してきたひとなんだよ。志あるでしょ? 夢あるでしょ?」

 都会に馴染めなかった、社会性に欠けた夢見がちな理系のおたくか。

 それにしてもシイタケとはうまいところを狙ってくる。町の産業は農業が中心だ。そのなかでもシイタケは主力だ。

 そこをくすぐり、町の人々のこころをつかむとは。バカではないらしい。むしろ頭はいいのだろうが・・・

「でも、やだ、そんな頭がおかしくて心がゆがんでる人」

「頭がおかしい? 心がゆがむ? あんた、都会で傷つきすぎちゃったんじゃないの。その人、東大出てて真面目で、義兄さんやうちの旦那も気に入ってる人よ。とってもいい人。悪くないでしょ? 東京出身の男だよ~。美里の趣味にもあうでしょ~。結婚したら東京にまた行けるよ~」

 東大出に弱い。弱すぎる。田舎者はほんとに嫌だ。

 東京にいれば、東大出なんて驚かなくなる。東大より有名なアメリカの大学を出た男にだって会えるのだから。

「もう行きたくないもん」

 思わずとがった声が出る。

「そっか。余計なこと言った。ごめん。でもね、何もしない、何者でもないって状態もそのうち苦しくなるはずよ。だから、いまのうちに動きなさい」

「何者でもないって、私は別に・・・」

 何かになりたかったわけじゃない。ただ、東京に染まりたかった。馴染みたかった。居場所を作りたかった。

「人間、追い詰められたら選択を間違うの。あんたももう経験したでしょ?」

 叔母の目がいつもと違っている。黒目が強く、眼前に迫ってくる。

 叔母も追い詰められ、何かの選択を誤ったことがあるのだろうか。

 あのときは死んじゃうんじゃないかと心配したわよ。

 子供ができずに悩んでいる時期の叔母を思い出し、母がそう言っていたことを思い出す。

 いま、目の前に叔母がいることが急に価値あることのように思えてきた。

「叔母ちゃん」

「何事も早く。急いで。失敗するなら若いうちよ。再生力があるから」

「再生力って」

「とにかく、会うだけ、会ってみなさい。いい友達になれるかもしれないでしょ」

「それじゃ主旨が違うし」

「違ってもいいわよ。あんたに明るさが戻るなら」

 小さいときから嗅いできた叔母の化粧品の匂いが鼻をついた。懐かしさが柔らかい言葉を口から押し出す。

「わかったよ。会うだけね」

「ありがとー」

 叔母がぎゅっと体を抱きしめてくる。叔母の体から私を心配している気持ちが伝わる。ごめん、叔母ちゃん、心配かけて。

 どこか母にも似た、叔母の匂いがさらに強く鼻をくすぐった。

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