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 美郷町は自然豊かな町だ。逆にいえば、それしかない。

 山と川と温泉と温暖な気候。トトロの世界だ。東京の人は羨ましがるかもしれない。

 でも、生まれたときからそれを手にし、それしか手にできなかったら・・・

 水と緑と温かい空気に幼い頃から囲まれ、それらに飽き飽きしながら私は育った。

 役場で働くこの町が大好きな父に、町と同じ読み名前、美里という名前をつけられて。

 年頃になると当然気持ちは都会へと向かう。

 心は東京一直線だ。

 偏差値の低い大学なら東京になんて出さない。

 父の言葉に奮起した私は、中学にあがった年から猛勉強をはじめた。目標は六年後の大学受験である。

 根気のない私によくあんなパワーがあったと思う。がむしゃらになんて十代に頃にしかなれない。

 こんなに情報があふれてしまって、夢を打ち砕く物語が浮揚しまくってる世の中では。

 頑張りが報われたことは良かったのだろうか。否、それが私にとっては不幸の始まりだったのだ。

 受験勉強の努力が報われた私は無垢なままだった。

 つまり、頑張っても、踏ん張っても追いつけない世界、届かないモノがあることを知らなかったのだ。

 真っ白なまま東京へ踏み出した私は、いいように周囲に弄ばれた。

 平たく言うと、大学の人間関係に躓いたのだ。

 私は西武新宿線が走る都心から離れた町の小さなアパートで、誰にも気づかれずにひきこもった。

 大学に近寄ることなく、バイトをするわけでもなく、日々が過ぎる。

 役場で安定した収入を得ている父からの仕送りは絶えることなく、ダメな娘へと届けられた。

 娘はそれを無駄遣いすることなく、大事に貯めた。今後きっとやってくる窮乏生活のために。

 娘の想像通り、大学からの連絡を受けた父は仕送りをストップした。

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