第328話 魔軍交戦25 始まる強者達の戦い2
「やぁ、お三方」
ルーク・ルークソーンは、キサラ・ヒタールと共にウォバル達へ接触した。
「おぉ、勇者様じゃないか!」
「まだこの戦争で武勲を立てていない勇者様」
「フィンサー、やめなさい」
三者三葉の反応に、ルークが苦笑する。
挨拶代わりに皮肉を述べられたことに、後ろのキサラの方が憤慨している。
「はは。確かに僕はまだ活躍してないね」
「失礼な人達ね!ルークはここに来るまでに南西の魔物達を倒していたのよ!何百匹も!万が一壁が崩壊してもいいように、壁の外で魔物の数を減らしてたのよ!」
「勇者って役職、もしかしてブラックなのかい?」
「魔物の軍勢の中に、二人だけで潜伏してたのか? おっそろしい指令を出すもんだぜ、王族ってやつは」
「私は絶対になりたくありませんね」
三人の小言に、キサラが更に顔を真っ赤にして怒る。
戦況は押されている。良いニュースをもたらし、国民の士気を上げることが勇者の仕事である。壁が破壊される前、エイブリー・エクセレイから指令が下った。針の城のそばにある投石器を破壊する。そして、ベヒーモスと
今でも投石器は、
だが、投石器を攻撃するには城と都の距離が遠すぎた。
針の城が接近しきるまで、潜伏してひたすら魔物を倒していたのだ。
そして今、十分に城が近づいている。魔物達も、都へ殺到するために北西の崩壊した壁の方に意識が向いている。
チャンスだ。
そう思っていたら、何故か飛び降りて壁外にいる三人組のベテラン冒険者を見つけたのだ。
本当に何で外にいるんだこの人達……。
「貴方達の言う通り、僕はまだ勇者らしい仕事ができていません。ですから、手伝ってくれませんか?」
ルークが苦笑しながら、針の城を指さす。
指が示す方向が、
彼の意図することを分かったのだろう。
3人のおじさんたちは、にやりと笑った。
「おいおいおい。おいおいおいおいおいおい。そりゃ何か? 魔物の軍勢の間を突っ切って、あそこまでたどり着こうってことかい!?」
「正気ではありませんね。阿呆のすることです」
「やっぱ
三人は否定的な言葉を述べてはいるが、完全に表情が乗り気である。
お馬鹿結構。彼らは頭の悪いことが大好きなおじさんたちなのだ。
「乗ったぜ。頭の紐が何本か千切れた勇者様よ。攻められてばかりで腹が立ってたんだ。攻撃こそ最強の防御。やっぱ攻撃してこそドワーフの闘争よ」
「私は投擲斧で中、長距離の敵を薙ぎ払うので、キサラさんは長距離に専念してくださいね」
「え? あ、はい!」
「斧が最後までもつかなぁ」
ウォバルが得物の心配をし始める。
あまりにもあっさりと地獄の行進へ参列してくれるものだから、キサラは目を白黒させる。魔物の群れに飛び込むことに、ここまで躊躇がない人間はまずいない。
若い頃のヴェロス老師はよくやっていたらしいけども。
「良かった。アルクも南の防衛に行っちゃったし、ヴェロス老師も他の役割があるんだ。2人じゃあ心もとないと思ってたんだよね」
「任せてくれ。君をあそこまで送り届けよう」
ウォバルが手を出す。
それをルークががっしりと握り、握手する。
「よっしゃ行こうか!大物獲りじゃあー!」
「ゴンザ。ここは普通、勇者が音頭をとるところですよ」
などと小言を言いつつも、さりげなく近くの魔物をいの一番に斧で殺すフィンサー。
「えっと、面白いパーティーですね?」
「よく言われるよ」
勇者の苦笑に、ウォバルもまた苦笑で返した。
「あぁ、もう!」
レイミア・ヴィリコラカスは、憤りを隠さずに城へ帰り着いた。
消耗が激しい。
聖女ファナ・ジレット。問題行動が多い人物である代わりに、こと戦闘に関しては歴代最高とも名高い人物。というか聖女なのに戦闘専門って、意味が分からない。
わかってはいた。わかってはいたが、あそこまで強いとは思わなかった。相性差があるとはいえ、真祖に最も近い存在である自分が互角の戦いしか出来なかった。
屈辱である。
吸血鬼は誇り高い種族。
名誉挽回。汚名返上という言葉がある。
だが、そんな単純に傷ついた誇りは回復しないことを、レイミアは知っている。目撃者は忘れない。歴史は刻まれる。汚点は残されるのだ。それはどんなに磨いても、落ちることはない。その後の行いでいくら結果を出しても。仮に彼女が今後、種族として進化して真祖トゥルーヴァンパイアという存在に上り詰めても。
一人の人間に手こずったという記録が消えることはない。
「確実に殺すわ、ファナ・ジレット。次の夜まで、首を洗って待っていなさい」
仮眠用の棺に腰かけ、重厚な蓋を閉じようとする。
が、目端に人影を捉えた。
「魔王様」
「……何だ」
魔王が歩みを止める。
相変わらず、ガラス玉のような生気の抜けた目で自分を見てくる。いや、見ているのだろうか。この男は。
「どこへ行かれるのですか?」
「出撃する」
「お、お待ちください!」
レイミアが慌てて棺の蓋を開く。
「まだ早い!ライコネンがストレガを消耗しきってからでいいではないですか!」
「問題ない。勝算は完全に出来ている。我は負けぬ」
「危険を冒してはなりません!」
「くどい。何故、貴様が我に指図する?」
「それはっ」
貴方を愛しているからだ。
という言葉を彼女は飲み込む。
その言葉は、この男には関係がない言葉だ。意味のない言葉だ。響かない言葉だ。
もし言えば、この男は本当に自分への興味を失いかねない。
「いえ、何でもありません。ご武運を」
「あぁ」
ゆっくりと魔王が歩いてバルコニーに到達する。
ゆらりと蜃気楼のように彼が消えた。いつ消えたのか。どのタイミングで気配が消えたのか。どんな魔法で気配を絶ったのか。
随一の感知魔法の使い手であるレイミアでも、分からなかった。
「最悪ね。本当に最悪。私は完璧。ほとんど完璧な存在のはずよ。真祖でないことと、男の趣味以外はね」
レイミアは棺を閉じて、目を瞑る。
次に自分が起きた時が、エクセレイの終わりだ。
それが済んだら、まだしばらく自分はあの男と共に旅が出来る。それは殺戮の旅だが、上等だ。吸血鬼は元々そういう種族である。
彼女は結論を引き延ばしてきた。
あの男との関係性について。共犯者か。それとも、男に依存する哀れな女か。
そして恐らく、これからも引き延ばすだろう。吸血鬼という、長い寿命が続く限り。
「代わろう。幼児性愛者の兎女」
「何言ってんの? フィルは14歳だよ? 合法ショタだし」
ラクタリン枢機卿の申し出に、トウツが謎の反論をした。
「いや、でもあの少年は小人族だろう。身体は小さい。普人族のそういう変態が、小人族と恋仲になろうとするのはよく聞くぞ」
「そういう変態って、実は教会に多そうだよねぇ」
「偏見と濡れ衣だ!」
「いいから
2人のやり取りに、アルクが怒鳴り声を上げながら割って入る。
アルクが放った浄化魔法がヘドロを消すが、海の波のように新しい呪いが彼女達を襲う。
「良かったぁ~。やっと西の吸血鬼が撤退したんだねぇ。僕の魔法はあの骨に効かないから困ってたんだよ」
「ふざけるな。我々退魔師は徹夜明けだぞ!」
「ご苦労さんワーカーホリックさん」
「自分から
「いいから攻撃に参加してよぉ!泣くわよ私!」
半泣きになっているアルクに同情したのか、周囲の
女性の涙は社畜をも動かす。
「おやおヤ、困りましたねェ。吸血鬼どもは逃げたのですカ。骨のない連中ですねェ。私は骨だけだというノニ」
トトがディザ川に呪いを流し込む。
「水を汚染させるな!4班は水の浄化!2班は南西部に移動、横から叩け!11班は南東だ!1班は私の身を守れ!5班は遊軍。自ら判断して動け!他の連中は各教会の
ラクタリン枢機卿が矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「あのおっさん、教会で
「教皇に昇進するために、教会関係者ほぼ全員と交友をもっている人よ。恩は売っておいた方が得だから、経済的に厳しい教徒を隠れて支援もしてるわ。将来は全員自分の部下になるんだからと、教会の退魔師の部隊編成も完璧に把握してるわ」
「一周回っていい人なんじゃない?」
「腹黒だけどね」
アルクが苦笑する。
「戻りなさい、兎の獣人。あんたが本当にしたいことは、私と同じ種族のあいつを守ることでしょう?」
「そだねぇ」
トウツがちらりと、瑠璃の方角を見る。
ワイバーンが瑠璃の絶対防御を突破する様子は見られない。加勢は必要なさそうだ。
「お言葉に甘えるよ~。僕にも、大事な仕事があるからねぇ」
トウツが目を細めて、西の方を見つめる。
ぞわりと、アルクの産毛が逆立つ。
「……あんた、この戦争で何する気?」
「え? 正義の味方」
そう言って、トウツは走り出した。
少年が待つ王宮ではない。
今一番混戦しているはずの、西の方へ。
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令和3年9月8日の近況ノートに、ライコネン・アンプルールと獅子族の種族事情についてのあれこれを語っております。フレーバーテキストがお好きな方はご覧になってください。
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