第296話 建国祭

「フィルってば建国記念日知らなかったのかよ!下手すりゃ非国民じゃねぇか!」

「ちょっと!王族のあたしの前でその言葉使うのやめてくれる!?」


 呵呵大笑するロスに、イリスが突っ込む。

 俺は久々にオラシュタット魔法学園に来ていた。ロス、イリス、アル、そしてクレア。あとついでに窓際でまどろむジェンド。いつもの面子。いつもの風景。

 つい最近まで魔物と大自然しかないところにいたので、信じられないくらい心が落ち着く。


「そう言えば、フィルは歴史の授業の時はクエストによく行ってたもんね」

「アル、それはわざとよ。フィルは何も考えてないように見えてサボりの天才だから、魔法の知識と実技以外の授業にクエストを当てていたわ」

「え、そうなの!?」

 クレアの言葉に驚き、アルがこちらを見る。


 首を振る瞬間、絹のような髪が光る。

 近くの席の女子が、頬を赤らめてアルをちらちらと見ている。

 おお、順調にモテているな、アル。ちなみにマイラブリーシスターのクレアもだ。ただし、エルフを恋人にすることは不可能なのでアイドル的な扱いらしいけども。

 ロスは男女共に好かれているらしい。イリスもそうだ。両性に好かれるというのは、王族ゆえのカリスマだろうか。

 俺?

 何故か、上級生の女子にマスコット的な扱いされてるよ?

 解せぬ。


「ちっ、ばれたか」

「ばれた、じゃないわよ」

 イリスがジト目でこちらを見てくる。


「大体、授業に出てないからって建国の日を知らないってあるの? カレンダー見たことある?」

「いや、ないな」

「日付をどうやって見てたのよ……」

「ギルドの張り紙を見てなんとなく」

「あぁ、あそこね……」

「あそこ、おおよそ文化的な生活してる人少ないから、確かに書いてなかったかもしれないわね」

 クレアが呆れる。


「おう。でも、魔物の種別大量発生の時期とか値が上がる採取クエストの時期とかわかりやすくまとめてたぞ!」

「王族の中でそれなりの地位についたら、建国の日をカレンダーに記載する義務でも発令しようかしら」

「それ、わざわざ王権発動してまですることか?」

 イリスの言葉にロスが呆れる。


「フィルは面白いねぇ。いろんなこと知ってるのに、変なところ知らないもの」

 アルだけが呆れずに爽やかに笑っている。


「アル。お前だけが俺の味方だよ。愛してるよ、アル」

 俺はアルの懐に飛び込み、頬を擦り付ける。


 体格差があるので、すっぽりと腕の中に納まってしまう。幼少期の同じ体格の時もよかったけど、これはこれで最高だぞ。あぁ~、全身がアルで包まれるんじゃ~。


「大体、どこかの誰かさんが建国祭の時に勇気を出してフィルを誘ってればこんなことにならなかったんだよなぁ」

「ちょっと」

「本当よね。意気地なしだわ」

「ねぇ、何よ!クレアまで!」

「別に~」

 ロスがニヤニヤ笑う。


「俺抜きで盛り上がるの、やめてくんない?」


 友達が少なかった前世思い出すからやめてほしい。いや、知り合いはたくさんいたんだ。俺が踏み込んで友達にならなかっただけであって。


「大丈夫よ、フィル。アルもわかってないわ」

「マジ?」

「う、うん……」

 クレアの言葉に俺の心は有頂天だ。


 やったぜ。もうアルと結婚するしかないわ。結婚したい。結婚しよ。今の俺なら女性に転生してもいいわ。異世界に転生できたんだ。性別くらい転生できるだろ。あぁ、でもアルを女性に転生させるのもありだな。きっとクレアくらい美人になるだろう、アルなら。見てみたいなぁ、ぐへへへへ。


「いきなり気色悪い顔で笑わないでくれる? アル、離した方がいいわよ。その小人」

「えぇ、でもフィルだし……」

 イリスの言葉にアルが苦笑する。


「というか、建国祭どうするよ? 皆で回るか?」

「あんたとあたしは王族としての責務があるでしょうに」

「少しは時間とれるだろう? そこでうまく落ち合おうぜ」

「賛成だな。俺はロスともイリスとも遊びたいし」

「決まりだな。クレアとアルはどうする?」

「私も巫女だからあまり身動きは出来ないかも」

「なるほど~。でも、フィルという護衛がいるだろ? どうせカイムのおっさんとかレイアさんも遠くで見守るだろうし。へ~きへ~き」

「あたし、同じ王族としてあんたの能天気さが羨ましいわ」

「誉め言葉、どうも」

「皮肉ってんのよ」


 ロスが笑う。イリスが渋面する。

 というかロス、カイムをおっさん呼ばわりしてんのか。見ないうちに打ち解けたなぁ。


「というか、お祭りする余裕あるのか? 魔王軍はあと一月もしないうちに到着するんだろ?」

「到着するからだよ」

 すっと、笑顔を消してロスが俺を見る。


「人によっては最期の思い出作りになる。俺の同胞達はできなかったことだ。それって、素晴らしいことじゃないか?」

 絵具の原色のような、赤い瞳が見つめてくる。


 あぁ、やはりこいつは強い。

 全て考えた上で陽気に振舞っているのだ。俺には出来ない。


「あぁ、素敵だな。とても、素敵だ」

「それに、意味がないことではないわよ」

 イリスも口を開く。


「戦争が始まれば、食中りの可能性がある生ものはあまり食べられないもの。特に生鮮食品の野菜や肉はね。塩や香辛料で保存してもいいけど、それは保存食に割きたいし。魔法で保存してもいいんだけど、魔法使いを戦い以外に無駄使いする余裕はないもの。だったら、気前よく戦いが始まる前に消費してしまえってことね。おじ様……国王の判断よ」

「……めちゃいい王様じゃん」

「あんた、相変わらず現金なやつね」


 今日はイリスのジト目をよく見るなぁ。

 いや、いつもか?


「ところであんた、パーティーメンバーはいいの?」

「何で?」

「建国祭、あの人たちなら一緒に過ごそうとか言いそうだけど」

「あ~」

「……忘れてたわね」

「相変わらずね」


 女性陣、俺に当たり強くない?

 酷い。俺、こんなに可愛いのに。


「しなをきらないで。この中で一番小さいのを利用してる魂胆が丸見えよ」

「ちっ、ばれたか」

「ははは。フィルが上級生に可愛い可愛い言われるのが嫌だったんだな」

「ロス。ここが校舎内で命拾いしたわね。外なら魔法が飛んでたわ」

「はい、すいませんでした」


 ロス、お前……。謝る姿が俺に似て板についてきたな。

 というか、あいつらのこと忘れてた。深層から帰ったらアルとクレアで頭がいっぱいだったわ。いや、忘れてたというよりも頭から締め出してたんだ。

 二年ぶりに会ったからか、怖いんだよ。

 トウツもファナも、監禁すらしそうな勢いだったし。


「忘れてたと言えば、あんた大丈夫なの?」

「何が?」

「お姉さまよ。生態レポート、頼まれてたんでしょう?」

「……思い出した。忘れてた。忘れていたかった。思い出したくなかった……」

「え、何か、ごめん」


 テーブルに突っ伏す俺を見て、イリスが謝る。

 面倒くさいんだよ、お前の従姉。魔法の話をするときは特に。相手する俺の身にもなってみろよ。私は貝になりたい。


「え、えっと、頑張ってね? フィル。お祭りは一緒に楽しもう?」


 普段から女神だけど、一層アルが女神めいて見える……。後光が刺している。不思議だ。男の子なのに。

 そうだ。そうなのだ。

 ここにいる面子は王族と巫女。多忙な身ばかりなのだ。

 つまり、パーティーメンバーさえ何とかすれば基本、アルを独り占めできるのだ。

 やるぞ。俺はやる。めくるめくデートプランを考えるんだ。

 俺のデートは、誰にも邪魔させない!


「やるぞー!」

「気味の悪いやる気を出したわね」


 言ってろ!

 俺は俺の幸せを掴んでみせるからな!

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