第281話 世界樹行こうぜ!世界樹!20(三つ巴戦2)

 猛然と突っ込み、懐へ入る。


 リーチは向こうが上。

 でもこちらは身体の小ささから的を絞られないというメリットがある。それに加えて浄化魔法も。相性はこちらがいいはず。


 下からかちあげるように紅斬丸を振るう。胸をそらしながら死霊高位騎士リビングパラディンがかわす。踏み込み、連撃を叩き込む。中距離はやつの距離だ。インファイトを維持しなければならない。

 振り上げた紅斬丸を袈裟切りに振り下ろす。やつは腰の関節をあり得ない角度にねじりながらかわす。その隙に眼前へ火球ファイアーボールを生み出す。生み出された火球に浄化魔法が混ざっているのに気付いたのか、やつが飛びのく。足元の重心を見て予測をつけていた俺は、同じ方向へステップを刻んで刀を横なぎに振るう。中段に構えていたはずのやつの長剣が真下に向いて剣撃を弾く。

 速さはこちら。パワーは向こうに軍配のようだ。

 紅斬丸が弾かれる。

 柄を必死に握りしめながら、浄化魔法が完成した火球をやつの胴体に射出する。

 バネ人形のようにやつが後ろへ飛びのく。

 ギリギリのところで火球をかわされる。


 が。

 上空から別の火球が撃ちおろされ、やつに連続で着弾する。

 ワイバーンだ。

 俺が切り結んでいる間に上空で火球を練っていたのだ。


「ギギギ、アアアアア!」


 死霊高位騎士が奇怪な悲鳴を上げながらどす黒い魔力を噴出する。


『呪いの押し付けか!』


 後ろに飛びのき、距離をとる。

 絡みつく根のように、粘りつく液体のように、黒い魔力が追いすがる。


『速い!闇魔法の練度も上がってんのかよ!』


 何だよその成長速度!少しは俺に寄越しても罰は当たらないと思うんだけど!

 紅斬丸に込めていた浄化魔法で呪いを断ち切る。

 上空ではワイバーンも慌てた様子で呪いとのドッグファイトをしている。逃げ切るまでは空からの後衛は期待できなさそうだ。


『でもその攻撃、上限付きだろう? 持久戦になったらこっちの勝ちだぜ?』


 やつと同じ中段で構える。持久戦、大いに結構。こちとら3歳児の時から少ない魔力量でそれをやってきたんだ。


 するとやつの動きが止まった。ゆっくりと俺から距離をとっていく。


『また逃げるのか?』


 構えをとかずに追いかける。やつはここで倒すべきだ。

 すると、やつは谷で浮遊していた死霊を鎧の手のひらで掴み、むさぼり始めた。

 その食事風景はとても生前が人とは思えなかった。猿が争うように手掴みで食べるような、野蛮な食し方。現世に未練を持ち苦しんでいる死霊が、一層悲痛な悲鳴を上げながらその体積を減らす。

 食事が終わることには、俺とワイバーンに飛ばした分の呪いを補給し終えていた。


『そっちだけ回復薬を現地調達できるの、ずるくない?』

「ギイイイアアアアアア!」


 さらに呪いを増幅し、やつが突貫してくる。


『あぁ、くそ!』


 誤算だ。

 ワイバーンが味方についた時点でこっちが有利だと思っていた。そうではなかったのだ。ここは死霊の谷。やつの、独壇場だ。

 火球が上から降ってくる。

 ワイバーンだ。

 やつはその火球を自身の魔力で無理やりキャッチする。


『何だそれ!力業すぎんだろ!』


 すぐさま火球に呪いを施し、上空へ打ち返す。


「ガアア!?」


 上空でワイバーンが逃げ惑う。

 もうあいつには期待できない。唯一の火魔法もやつに通用しなくなったのだ。

 どうすればいい? どうすれば有利な状況に引き込める? 考えろ。考えるんだ。俺は頭は悪いが、諦めの悪い人間だったはずだ!


『我が友!』

『!?』


 見ると、瑠璃がやつに突撃しようとしているのが見えた。大顎暴竜メントゥムドラゴンの姿だ。

 まずい!瑠璃は浄化魔法が使えない!

 慌てて浄化魔法を瑠璃へ飛ばす。


『食らえおろう!』


 瑠璃の頭突きがやつにさく裂する。

 俺とワイバーンに気を取られていたのだろう。鎧の関節をねじりながら吹っ飛ぶ。


『瑠璃!あぶないことするな!』

『何を言うておる。向こうのフィールドへ叩き込むぞ!』


 俺は瑠璃の鼻先をばっと見る。

 そこには森のエリアが広がっていた。

 本当の、エルフの森深層地点だ。

 不死鳥のいる火山を迂回しつつ、雪山、死霊の谷の抜けたその先。

 世界樹が存在する巨大な森。


『なるほど、あっちのエリアには死霊はいない!やつの弁当も無くなるってことだな!?』

『そういうことじゃ!』


 俺は瑠璃の背中に飛び乗り、浄化魔法を背中にかける。

 上空に手をかざし、同じ魔法を飛ばす。


「ガア!?」


 上ではワイバーンが混乱した声をあげる。俺に裏切られたと勘違いしたのだろう。

 だが、すぐ気づく。

 自分に浄化魔法の補助バフをかけられたであろうことを。

 俺は黙ってワイバーンを見上げ、森の方を指さす。

 すぐに理解したのだろう。

 ワイバーンが俺達の背後に周り、滑空する。赤い魔力がチリチリと背中を焼く。だが、敵意は俺ではなく鎧の方へ向いている。


『理解が早くて助かるよ、トカゲ君』


 ワイバーンと初めて戦った時は、この頭の回転の早さが憎かったけども。味方になると頼もしいね、ほんと。


『いくぞ、トカゲ君。いや、雌だから、ちゃんなのかな。やつをこのエリアから弾き出すぞ、トカゲちゃん』


 真下の瑠璃と、背後のワイバーンが一気に死霊高位騎士リビングパラディンへプレッシャーをかけ始めた。

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