第248話 始まる最悪4

「姫様!」


 イアンさんが身を挺してエイブリー姫を庇った。

 火魔法がはじけ飛ぶ。


「ドルヴァ、貴様ぁああ!血迷ったか!」


 メイラさんが短剣で襲い掛かると、ドルヴァさんが一瞬にて後退してかわす。


「速い!」

「いつものドルヴァの動きではない!?」

 周囲の騎士達が叫ぶ。


 違う!

 ドルヴァさんの実力は変わっていない!魔力の消費量がでたらめだ!あの状態だと3分ともたずに魔力切れで絶命する!後のことを考えていないのか!?


「クレア!」

「フィル!? どうしてここに!?」

「話は後だ!」

 俺はクレアを背にドルヴァさんを警戒する。


 そのドルヴァさんがメイラさんの斬撃をかわして近くの衛兵を焼き殺す。


 けたたましくアラートが鳴る。この魔法のシグナルを俺は知っている!師匠の探知魔法だ!


「悪意探知魔法が作動したのか!」

「でもどういうことだ!ドルヴァ殿はずっとこの宮殿にいたのだぞ!」

 その場にいる貴族たちが叫ぶ。


 どういうことだ。意味がわからない。俺の魔力視の魔眼マギヴァデーレも、師匠の悪意探知魔法が正常に作動しているのは確認している。師匠の魔法は絶対のはずだ。ということは、ドルヴァさんは今この瞬間、魔王の手先になったということか!? でも、どうやって!?


「姫様、ご覚悟を」


 バルコニー近くの騎士が突然振り返り、風刃ウィンドカッターを飛ばす。

 まだ裏切り者がいたのか!?


「それはまずいのう」


 ヴェロス老師がその魔法をあっさりと弾き飛ばす。

 助かった!そうだ、この場には魔法英雄師団ファクティムファルセの最年長メンバーがいるのだ。


「そこな若き英雄よ。何を呆けておる。君の目ならば見えるはずだ」

 ヴェロス老師がこちらを見る。


「!」


 そうだ。この人の言う通りだ。

 この場で最も目がいいのは俺だ。見極めなければならない。この場にいる裏切り者の魔力の波長を。何かあるはずだ。師匠の探知魔法をかいくぐったからくりが!


「クレア、俺は索敵に集中する。自分の身を守れるね?」

「フィ……わかったわ。私は大丈夫よ。自分のことに集中して」

「助かる」


 ドルヴァさん、あんたが何故裏切ったかは知らない。でも、落とし前はつけてもらうぞ。


「そんな、ドルヴァ……。どうして?」

「姫様、お下がりください!」


 茫然自失するエイブリー姫を、肩を庇いながらイアンさんが下げる。


「イアン殿、治しましょう」

「ラクタリン枢機卿、かたじけない。で、お主は裏切り者ではないのだな?」


 すっと、イアンさんがラクタリン枢機卿に切っ先を向ける。


「……気が立っておられますな。後ろの姫様の為に必死と見えます。いいでしょう。私が怪しい動きをすれば、すぐに私の首を落としなさい」

 ラクタリン枢機卿が笑みを浮かべる。


 いつも見せる腹黒い笑みではない。聖職者然とした、静謐な表情だ。


「済まない」

「この状況です。仕様がありません」


 ラクタリン枢機卿が首元に剣を突きつけられたまま、イアンさんを治療する。

 これならエイブリー姫は大丈夫そうだ。


 後は、俺の仕事だ。

 ……見えた!

 黒い魔素がらせん状にドルヴァさんに絡みついている。どう見ても魔力が正規の流れをしていない。そして気づく。ドルヴァさんの魂の叫びを。苦しんでいる。助けを求めている。この状況は彼の本意ではないのだ!


「イヴ姫!ドルヴァさんは洗脳されています!禁術指定の傀儡魔法です!」

「なんですって!」

 ぱっと、エイブリー姫が顔を上げる。


「他の暴れている騎士も同じです!」

「フィル君、こっちへ!」


 エイブリー姫に言われるがまま、俺はクレアと共に彼女の元へ行く。

 目前では、メイラさんがヴェロス老師の後衛援護を受けながら必死にドルヴァさんの猛攻を受けている。2人はタイプこそ違う者の、実力は拮抗していたはずだ。でも、今は国のトップの後衛の力を借りてやっとである。これが命をかけた近衛騎士の実力。


「どういうこと!?」

 桜色の瞳がこちらを見る。


 もう正気を取り戻したのか。この人もたいがい切り替えが早い。


「傀儡魔法です。リモートではなくオートでドルヴァさんは動かされています。恐らく、指令はシンプルなものでしょう。魔王にとって邪魔な存在を消せ、とか」

「そこに自身の安全は換算されていない?」

「そのようですね。ドルヴァさんは後2分もすれば魔力切れで死にます」

「っ……!傀儡魔法はずっとかかっていたの?」

「そんなわけがありません。ずっとかかっていたなら、もっと早く俺が気づいています。師匠の悪意探知魔法にも引っかかるはず。どう考えても、ついさっき発動したとしか思えません」

「発動のトリガーがあったのね……魔王か」

 桜色の瞳孔が狭まる。


 そうだ。はっきりとしたきっかけはそれしかない。先ほどの弁舌で、エイブリー姫は魔王の存在をほのめかした。民衆は最初信じていなかったが、巫女であるクレア、それを保証するラクタリン枢機卿、ヴェロス・サハム老師、レギアのトップの魔法使いジオン・ブリッスンの提言で「魔王が本当に現れた」と確信をもって周知されたばかりなのだ。


「こちらが魔王を認知した瞬間、傀儡魔法がオートで発動するということですか!? でも、それこそ師匠の悪意探知魔法に引っ掛かりますよ!」

「何らかの方法で魔法を凍結させていたとしか考えられないわね。傀儡魔法は禁術だから、マギサおばあ様の探知には引っかかる。でも、魔法を凍結する魔法であれば」

「悪意とは認識されない、ということですか!」


 でも、魔法を凍結する魔法なんて聞いたことがない。それこそ、師匠の書庫ですら見たことがない。


「この場で解決出来ることではないわね。問題はドルヴァにどのタイミングであの魔法が仕掛けられたかよ。ドルヴァと言えば……イアン!」

「はっ!」

「ドルヴァは少し前に国境付近の遠征に行っていたわ!確認して!今暴れている騎士は、ドルヴァと行動を共にしていたの!?」

「……姫様の言う通りです。今暴れている面子は、ドルヴァと共にレギア国境の遠征へ行ったメンバーです」

「決まりね。騎士総員に告ぎます!直近でドルヴァが率いた分隊メンバーを全て拘束!出来るだけ人命優先!抵抗が激しい場合は、殺すことも許可します!」


 エイブリー姫の指示に騎士達が一瞬うろたえる。

 が、一瞬だけだ。騎士達はすぐに行動を開始する。

 暴れている騎士をスリーマンセルで拘束していく。だが、拘束される騎士は魔力を使い切り、次々と絶命していく。

 最悪の魔法だ。こちらを道連れにするだけでなく、手駒にした味方を確実に死に至らせる魔法。


「ラクタリン枢機卿!あの呪いを解く方法はないのですか!」

「生憎、禁術を教会で研究することは神の教えに反します」

「くっ」

 エイブリー姫が顔をこわばらせる。


 迫っている。ドルヴァさんの命のリミットが。


「傀儡にされた者はもういないようですね。イアン、加勢しなさい」

「ですが、姫様の安全は!」

「大丈夫よ。小さい騎士がいるわ」

 桜色の瞳がこちらを見降ろす。


 瞳が震えている。

 リスクを踏んだんだ。王族である自分の安全を引き換えに、部下の騎士を救おうとしている。


「っ!フィル君、姫様を頼む!」

 イアンさんが猛然とドルヴァさんの方へ駆け出す。


「たぁいちょおおああ!死ねぇ!」


 ドルヴァさんが火球を飛ばす。

 イアンさんはそれを剣で真っ二つに切り裂く。


「正気に戻れドルヴァ!姫様の御前だぞ!貴族の誇りを見せろ!」

「何言ってんだ隊長!俺は誇り高き騎士だぜ!? 魔王様のなぁー!」


 全身鎧の甲冑組手をドルヴァさんが仕掛けるが、イアンさんがいなして地面にたたきつける。


「がはっ!」

「周りを見ろ!後はお前だけだ!動くな!」

「そうはいかないね」


 ドルヴァさんの魔力が爆発的に放出される。

 まずい!


「イアンさん!自爆するつもりだ!」

「何!?」


 イアンさんとメイラさんが慌てて飛びのき、エイブリー姫の前に立ち人盾になる。

 ……が、爆発が起きない。


「ど、どういうこと? フィル君」

「分かりません」

 独り言のようなエイブリー姫のつぶやきに、俺は返す。


「ごふっ」

 ドルヴァさんが吐血する。


 魔力の流れが落ち着いている?

 見ると、彼は自分の右の拳で、地面に置いた左の拳をたたき砕いていた。大理石ごと砕かれ、手のひらから血が飛び散っている。白い骨が数本、むき出しになっている。

 まさか、自力で傀儡魔法を解いたのか!? 何て精神力だ!


「たいちょぉ~」

「ドルヴァ、大丈夫か!?」

「大丈夫じゃねっす」


 まずい。また魔力の流れがよどみ始めている。また傀儡魔法が再発しそうになっているのだ。


「イアンさん、傀儡魔法がまた始まります」

「…………」

「たいちょぉ~」


 ドルヴァさんがうめく。


「殺してください、たいちょぉ~」

「何を言っているんだ、お前は」

「わかるんすよ。次意識を失ったら、俺多分、この場の全員殺しますよね? その前に俺を殺してください」

「何を言っているんだ!自力で呪いをはじき出すんだ!早く!」

「無理っすよ。隊長の根性論、嫌いじゃないけど、これは無理だ。根性でどうにか出来るもんじゃねぇ。この魔法、おかしいわ。存在のステージが違う。はは、魔王の魔法ってここまでえげつないのな」

 ドルヴァさんが膝を立てる。


 挙動が自然じゃない。身体が侵食されているんだ!


「傀儡魔法が戻りそうです!」

「ぐ」

「隊長!早くしろぉー!俺を騎士のまま死なせてくれ!」

「済まない」


 一閃。

 ドルヴァさんの首が飛んだ。

 ごとりと、綺麗に磨かれた大理石の床に、彼の頭が転がる。


 近くにいた貴族が「ひっ」と声を上げておっかなびっくり首を見る。


「……いい男であった。貴族至上主義だが、だからこそ貴族の仕事に強い誇りと責任をもっていた。主君の安全のため、最期まで騎士の本分を示したのだ」


 イアンさんはドルヴァさんの首に近寄り、見開いた目を閉じさせる。


「魔王とやら。私の部下にこのような死を選ばせおって。許さん、絶対に許さぬぞ」


 イアンさんの闘気に、その場にいる全員があてられる。

 これがエクセレイ最強の騎士。俺も思わず身震いする。


 すっと、エイブリー姫がイアンさんの隣に来る。

 テラ教の祈りを捧げ始めた。慌ててラクタリン枢機卿がそれに続く。その場にいる全員が、亡くなった騎士の為に黙とうする。


「……切り替えましょう。彼らは祖国のために死んだ。遺族にはそう報告を。最後まで魔王の呪いに抗ったと伝えなさい」

「はっ!」

 騎士の一人が外へ走り出す。


「ここ半年内で国境付近へ近づいた人間全ての身元調査をしなさい。他の都市には早馬を走らせて。都の中はすぐに調査を開始するわ。まずは王宮内部の人間を洗い出す。これ以上国を混乱させては国民が疑心暗鬼になるわ!今日中には終わらせて!早く!」

「はっ!」


 慌ただしく、騎士や衛兵たちが動き出す。


「何をしているの!貴族の調査は貴方達が!動けるものは全て働きなさい!」

「え、は、はい!」


 来賓で来ていたであろう、貴族たちが弾かれるように走り出す。


「イアン、私たちは王族を洗い出すわ。流石に遠出しているものはいないはず」

「というよりも、姫様が一番疑われるでしょうな」

「……そうね、私はついこないだまでエルドラン国へ行っていたもの。私ですら、私自身を信じられないわ」

「報告申し上げます!」

「今度は何!?」


 突然、一人の騎士が部屋へ飛び込んできた。

 ここへ最初からいた騎士ではない。外から来たものだ。

 イアンさんとメイラさんが警戒して剣に手をかける。


「ぼ、冒険者の一部が暴動を起こし、ギルドが強襲されています!」

「何ですって!?」

「報告申し上げます!」


 なだれ込むように次の騎士が部屋へ倒れこむように入ってくる。


「出どころ不明の植物型の魔物がオラシュタット学園を強襲しています!現在、教師や護衛が交戦中です!数名の生徒の死者が確認されています!」


 エイブリー姫がうつむき、髪をかき乱す。

 が、すぐに顔を上げる。悪鬼のように目を血走らせている。


「通達!メイラ!分隊を率いてギルドの応援!学園の護衛は……く、私兵が足りないわ!」

「わしが行こう」

「お願いします!」


 ヴェロス老師が名乗り出て、すぐにバルコニーから飛び降りる。


「私の分隊が離れれば王宮の護衛が手薄になります!ただでさえ今の戦闘でここは消耗しています!」

 メイラさんが異論を唱える。


「そこが魔王の狙いよ!エクセレイにとってここと並ぶ戦力があるのはギルドよ!失ってはならないわ!学園もそう!魔王は戦争が長引いた場合も考えて学び舎を狙っているのよ!理解しなさい!こと戦時中において、私達のような指揮役はいくらでも代えがきくの!戦力が尽きた瞬間が戦争の負けよ!」

「くっ、分かりました!」


 メイラさんは理解こそするが納得はしないとも言いたげな表情でこの場を後にする。


「私は竜人の自治区が心配です。この場を離れても?」

「構いません。行ってください」


 ジオンさんがエイブリー姫に目礼してバルコニーを飛び立った。


「報告申し上げます!」

「まだあるの?」

 エイブリー姫が疲れた表情で騎士を見やる。


「都中の河川や水路に毒が放り込まれています!犯人は不明!それと……騎士団の護衛対象であったタルゴ・ヘンドリック商会長と鍛冶師シュミット・スミス氏ですが、暗殺されたことを確認しました」

「は?」


 俺の口から、間抜けな声が漏れ出た。


 え、どういうことだ?

 何でそうなるんだよ。


 先んじて手を打ってたじゃないか。タルゴさんも、シュミットさんもエクセレイにとって要人だからって。騎士団がしっかり護衛してるって。

 どうしてだよ。

 シュミットさんなんて、ついこないだ会ってオリハルコンの話をしたばかりだったのに。

 タルゴさんだってそうだ。こないだコーマイから帰った挨拶をして、米と味噌を卸してもらったばかりなのに。

 あの人達が死んだ?

 意味がわからない。

 意味がわからない。


「両名、身体の半分が削られたように消えていました。どのような魔法による暗殺かは不明です。護衛の騎士も、全員同じように死亡しています。争った形跡はなし。完全に闇討ちアンブッシュにて殺されているようです。


 騎士の報告が頭に入ってこない。言葉としての情報が、ただ空虚に耳へと入っていくのみである。


 それはエイブリー姫も同じなのだろう。

 彼女は力なく歩き、椅子に座る。


「ご苦労。貴方は都の憲兵たちと協力し、警戒態勢を敷きなさい。民衆には川と水路の水を口につけるなと厳戒令を」

「はっ!」

 まるで弓矢のように騎士が飛び出ていく。


 都の市中は酷い有様なのだろう。騎士は必死な顔をして出ていった。


「……私が動かせる私兵ではもう、対処できる範囲ではありません。イアン、貴方が今の詳細を全てお父様へ説明。都内の騎士と憲兵を全て動かして対処する。私も一緒に行くわ」

「承知しました」

「フィル君、貴方はパーティーメンバーと合流しなさい。クレアちゃん、こちらへ。……いや、王宮は安全ではないわね。フィル君についていきなさい。もはや一番安全なのは、君のパーティーのところかもしれないわ」

「……分かりました」


 タルゴさんとシュミットさんのことで頭がいっぱいだが、悲観している暇すらない。

 俺にはクレアがいる。この子を守り抜く使命がある限り、絶望に時間を割いている場合ではない。


「エイブリー様」

「何?」


 クレアがエイブリー姫を呼び止める。


「この結果は、私のせいなの? 私が魔王の存在を巫女として宣言したから? そうなのよね?」


 俺と同じ、翡翠色の瞳がうつろに彼女を見る。唇が震えている。

 エイブリー姫はこちらへ歩いてきて、クレアを優しい目で見る。


「違うわ。貴女にそうさせたのは私よ。これは私の責任。今は自分の安全を優先して。生き残らなければ、後悔することすら出来ないわ。両親と合流なさい」

「……分かりました」

「行こう、クレア。カイムさんと、レイアさんの所へ」


 俺はクレアの手を力強く握る。


 駄目だ。この責任はクレアだけのものじゃないんだ。エイブリー姫のものでもない。俺のものでもあるんだ。この子だけに背負わせてはならない。


「クレア、行こう。生き残るんだ。生き残らないと、何も意味がなくなってしまう。生き残って先を見なければ、今日お前がやったことが正しかったのか間違ったのか、確かめることすら出来ない。違うか?」

「……違わないわ」


 クレアの目に火が灯る。

 そうだ。

 この子は自分の行動の結果を夢で見ているはずだ。今日のこの演説を昨日決めたのだろう。そして、俺ではなく自分が死ぬ未来を彼女はつかみ取った。

 イリスは言っていた。この子はずっと寝ているとき謝り続けていたと。


 俺は馬鹿だ。

 この子が生き残れさえすればいいと安心しきっていた。この子にとって、友人である俺が死ぬことも悲しい未来だったはずなのに。現実を見ていなかった。目と耳を塞いでいたのだ。

 他人の死の責任を、妹へ押し付けていたのだ。苦しめていたのだ。それも11年間も。

 最低な兄だ。

 何が転生者だ。何がいい歳した大人だ。俺はちっぽけだ。この子の兄を名乗る資格なんて、今の俺にはない。


「お前は俺が守る。必ずカイムとレイアの元へ送り届ける。わかったか」


 クレアは涙を袖でぬぐい、力強くうなずく。

 強い子だ。俺なんかよりも、数倍強い。


 急がなければ。

 クレアの安全確保が最優先。学園にはアルやロス、イリスがいる。ギルドも心配だが、まずはこの2つが最優先。


「よっと」


 黒い影が、バルコニーに軽やかに降り立った。


「お兄さん、早馬は必要か~い? ま、兎だけどねぇ」

「あぁ、丁度必要だったよ。あとお前、普通に王宮への不法侵入だからな」

「この状況でこのくらいの犯罪、誤差じゃない?」

「それもそうだな」

 乾いた笑いが口からもれる。


 ほんと、最悪の状況過ぎて笑うことしか出来ない。

 バルコニーの下では、瑠璃とファナ、少し遅れてフェリが駆け寄ってくるのが見える。


「動こうか。やることはたくさんある」

「お~け~い」


 俺と一緒に、クレアを抱えたトウツがバルコニーから飛び降りた。

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