第235話 城外戦2

「わらわらと出てきたわね」

「普通のゾンビと違って、あれは専門外だからお願いしますの」

「わかったわ」


 城の中から魔女の帽子ウィッチハットが飛び出てくる。虫人族ホモエントマの姿をしたゾンビばかりだ。


「スズメバチ族が多いですわね」

「あの連中、同族の判別能力が高いらしいから、城内のスズメバチ族は全員ゾンビでしょうね」


 フェリが爆撃に入る。

 全力で走り出すゾンビ達を絨毯爆撃で葬っていく。


「怪力ではあるけど、生前の魔法技能がないからこんなものかしら」

「でも不味いですわよ。一か所に固まるのをやめてますの」


 見ると、ゾンビ達が全方向へ散らばり始めた。


「いくらか王宮の敷地から出ようとしているわね。国民を守りながら戦えということね。性根が腐っている連中だわ」

「性根が腐っているから魔王の味方をしているのではありませんの」

「貴女の言う通りね」


 外へ行こうとするゾンビをピンポイント爆撃する。

 その横ではワイバーンになった瑠璃がゾンビ達を切り刻む。


「街へ行かれると不味いわ。一般人を殺してどんどんゾンビが増える」

「どうしますの?」

「まとめて爆破する」

「え」

魔法化合マギコンビネーション


 フェリが城の壁に手を当てた。ファナは気づく。壁につけたフェリの手は亜空間グローブで覆われている。そのグローブから、とてつもない勢いで素材が吐き出されている。

 だが、その素材は壁の中へ吸収されるのみである。

 混ぜているのだ。城壁と爆発する素材を。


「貴女、まさか」

「そのまさかよ。城壁を全部爆弾に錬金して、全てのゾンビを生き埋めにする」

「中の人たちは?」

「体が頑丈な甲虫族が多いから、何とかなる。いや、何とかしてもらうしかない。市街地にゾンビが飛び出るよりも何倍もまし」

「……仕様がないですわね。やりなさいな」

「言われなくとも。離れて。瑠璃も!」


 ファナと瑠璃がさっと城壁から離れる。


「発破」


 巨大な破砕音が聞こえた。

 城壁が土石流のように崩れ、ゾンビ達に襲い掛かる。ほとんどのゾンビが生き埋めになり、身動きがとれなくなる。


「逃げたゾンビの駆除をするわ。瑠璃、手伝って頂戴。ファナ、貴女は吸血鬼を中心に相手をお願いするわ」

「分かりましたわ」


 3人が移動を開始した。








「何!? 今の爆発音!」


 ピューリは空を飛びながら動揺する。

 下を見ると、増援のために解き放った魔女の帽子ウィッチハット達がほとんど瓦礫の下敷きになっている。


「何なのよ!何なのよあの魔法!あんなこと出来るのは四天王のあいつくらいしか……!」

「その四天王について、詳しく」


 俺は吸血鬼の女、ピューリに追いついた。真下ではトウツが魔人族を切り伏せながら並走している。


「貴様、空は私たちの領分だ!私の許可なしに飛ぶな!」

 ピューリがナイフを投擲する。


「おっと」

 俺は風魔法を使ってかわす。


 ワイバーンの帆をはためかせながら、空中でバランスをとる。


「領分と言われても、空飛べる種族なんて他にもたくさんいると思うけど、な!」

 両手から火球を放つ。


「小童め!」

 さらりとピューリがかわす。


 激昂しているように見えて、冷静だ。俺の火球に浄化魔法が混ざっていることに気づいていた。やはり吸血鬼は自分の弱点に対して人一倍敏感だ。

 普通に戦えば半不老不死の化け物。その代わり、弱点が余りある種族。つまりは、弱点さえ突かれなければ負けはないということを理解しているのだ。

 俺相手に接近戦を挑まないのも、その証拠。日光遮断魔法を解除されるのが怖いのだ。


 後頭部から魔力の波動を感じた。


「うお!?」


 空中で慌てて体をひねると、ナイフが丁度真後ろから飛んできた。


「さっき投げたやつか!? どういうことだ!?」

「ふふ。地上の兎は私の僕相手に忙しそうね。ここで私があんたを殺せば、後は聖女だけ。そうすれば、私達吸血鬼を止められる者はいない」

 戻ってきたナイフをピューリがキャッチする。


 連続でのナイフの投擲。身体の中にしまってあるのか、無尽蔵に飛んでくる。

 速度がまばらで飛んでくる上に、カーブするものも直角に飛んでくるものもある。どういう原理で操作しているのかわからない。


「くっ!」

 空中で身をひるがえし、距離をとって回避する。


 さりげなく自分の立ち位置を市街地の方へ移動させる。

 こいつは危険だ。一般人の方へ行かせてはいけない。フェリがゾンビを止めてくれた。後は俺達が吸血鬼と魔人族を何とかすればいい。

 触れなければならない。やつの日光遮断魔法を封じるのだ。


 俺は加速して敵との距離を詰めた。






「上のフィルに合流したいけど、こいつら面倒だなぁ」

 トウツは迫りくる魔人族と吸血鬼を切り伏せながら言う。


 本当は上に合流してフィルを護衛すべきだ。風魔法で自分もある程度は飛行できるので、上空にいる親玉を倒せるだろう。フィルの浄化付与魔法を自分の刀にもらい、その刀であの女をみじん切りにすればそれで終わりだ。

 あれは吸血鬼の中では強い方だ。でも、自分とフィルのコンビネーションに対応できるほどではない。吸血鬼はほとんどの敵に対して有利な戦いが出来るが、こちらのパーティーにはフィルとファナという圧倒的に有利な人材がいる。

 改めて自分がいるパーティーが異常だと、トウツは独り言ちる。


 でも、フィルはそれを望まないだろう。

 少なくとも、地上にいる目の前の魔人族を排除してから上空のフィルのところへ行く。魔人族には吸血鬼のような半不死身性はないが、破壊魔法がある。触れたものを壊す魔法。あれが市街に出て暴れたら、吸血鬼よりも確実に多くの死者を出すだろう。

 フィルを助けたい。

 でもフィルに嫌われるのもごめんだ。

 その中間をとることを考えると、魔人族をまとめて切り伏せてから上へ行くのがベストである。

 トウツは更に刀を振るうギアを上げた。







漆黒の大角ハルケラス!」


 ジゥークの角が魔人族の男の胴を穿った。

カブトムシ族は頑強な体が最大の特徴でもあるが、長い角によるリーチの長さも大きな特性である。触れれば必ずその箇所を損傷する魔法をもつ魔人族も、なすすべなく彼らの角の餌食となった。


「被害報告だ!城内の騎士達と貴族、王族の状況を教えろ!出来る限り、従者もだ!」


 ジゥークが叫ぶ。


「は!騎士団は全滅判定には至っていません!スズメバチ族の騎士を除けば、城内の騎士の死者は3割弱に抑えました!」

「でかした!王族は!?」

「……生存の確認は出来ませんでした」

「……よい。コーマイの王選のシステムが種族持ち回りで助かった。スズメバチ族には補償を。次の王を擁立する種族はハンミョウ族だったか」

「はっ」

「事が終わったら早く即位してもらわねば、国民が不安になる。城内の貴族は?」

「シェルターに保護しています」

「すぐに移動を開始しろ」

「危険では?」

「ここに留まらせた方が危険だ。無彩色に来たる紅モノクロームアポイントレッドが自由に戦える戦場を準備する。人質にでもされれば最悪だ。あそこのリーダーは一般人一人でも人質に取られれば止まる。それはまずい。我々には吸血鬼と戦う手段が少なすぎる」

「承知しました」


 部下が一斉に役割を全うするために散る。

 その場に残ったのは、ジゥーク含めた近衛騎士のみである。彼らには定まった役目が、今やもうない。守るべきものは既に、ゾンビになっていたのだから。


「団長、我々は?」

「……女王がいなくとも、騎士としての役目はまだいくらでもある。城外へ逃れた敵を一人でも多く殺せ。念入りにな。味方が死んだら亡骸の頭を潰せ。どれだけ仲がいい同僚でもだ。ゾンビになった味方を二度死なせたくはないだろう」

「はっ」


 甲虫騎士が、城外へ飛び出した。






「騎士団長さん、流石ね」

「えぇ、そうですわね。城内にいる人間がどんどん避難していくのが分かりますわ」

「しかも、魔女の帽子ウィッチハットがいる所とは別口を使ってる。流石虫の国ね。城内に抜け穴がたくさんあるみたい。建物の構造が普人族のものに比べると立体的だから出来ることね」

「壁移動できる種族が多いのが、この国の利点ですわね」

「ということは、出来るわ」

「何がですの?」

「この城を半分くらい、爆破する」

「正気ですの?」

「私は正気。城壁の瓦礫で進めないゾンビ達が、そろそろ瓦礫撤去を終わらせる頃よ。一匹でも逃せばネズミ算に増えるんだから、城よりも優先順位が高いわ」

「……目がハートになっていましてよ」

「それは気のせい」


 数分後、王城を避難する貴族たちは、自分たちがついさっきまで過ごしていた王城が爆破される姿を見ることになる。

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