第234話 城外戦
「ここで応戦する!」
ズザッと俺は立ち止まる。
「逃げないの~?」
「これ以上逃げたら城下の市民に被害が出る!」
俺は紅斬丸を構える。
「ふぅん。僕はその辺の知らない人よりもフィルの方が大事だけど。でもまぁいいや、付き合うよ」
「貴女、本当に良くも悪くもぶれませんのね。わたくしは徹底抗戦いたしますわよ。コーマイにも敬虔な教徒はたくさんいますもの」
「城爆破したい」
「「「それはやめろ」」」
スズメバチ族の騎士や兵士、貴族たちが次々と変装魔法を解き襲い掛かる。
「トウツ、ファナ、時間稼ぎを頼む。ファナは吸血鬼を狙い打ってくれ」
「わかりましたわ。あいつら、陰気な気配がするからすぐにわかりますの」
瑠璃が体内から2人の武器を吐き出す。
それをキャッチしてトウツとファナが加速して接敵する。トウツはオレンジのドレス、ファナは修道服のスカート丈がいつもより長いのに、軽やかに動く。
魔人族は変装をやめたが、吸血鬼はやめない。おそらく、変装魔法に日光遮断魔法が混ぜてあるのだろう。パッケージされている魔法だ。魔王軍もよく考えるものだ。それとも、吸血鬼が正体を偽るために昔からある魔法なのか。
「ファナ、瑠璃、2人を援護」
「わかりましたわ」
瑠璃が亜空間グローブを吐き出し、ファナが装着する。
城壁の角から魔人族が現れた。
「そこは爆弾設置済み」
ズドンと城の一角が吹っ飛ぶ。
「おい!? 他所の国のお城!いや、エクセレイの城でもダメだけど!」
「後で直すわ」
「直せるから壊していいわけじゃないからね!?」
フェリに突っ込みながらも、解析を続ける。先ほどは変装魔法の解除が出来た。次は日光遮断魔法だ。光を吸収、または遮断する魔法だ。ということは、火魔法と光魔法の混合だろうか。……やはりそうだ。吸血鬼が苦手とする光の情報を捻じ曲げて、肌に届かないようにしているんだ。
「トウツ、ファナ、試したいことがある。一旦下がれるか?」
「お~け~」
「わかりましたわ」
2人がすっと下がる。
「あ“あ”あ“あ”ぁ!」
吸血鬼が叫びながら灰になって消滅する。
「うっわフィル、えぐいことするねぇ」
「素晴らしい拷問ですわね。わたくしもしたいですわ」
「いや、ファナは浄化魔法得意なんだから、そのまま燃やしたり十字架で潰したりした方が速いだろ」
「芸術点が高いから真似したいのですわ」
芸術点って何だ。
「ともかく!この城壁から先にやつらを行かせない!わかったか!?」
他の4人が、敵を打倒することで返事の代わりとした。
「貴様、いつから女王の振りをしていた!? 女王陛下はどこだ!?」
「とっくの昔にあの世よ、お馬鹿さん!」
「おぁああああ!
「おっと」
ずぶりと、吸血鬼の少女の身体にジゥークの角が突き刺さる。少女が口から血を吐き出す。
「ぬ!?」
「貴方馬鹿ぁ? 吸血鬼に物理だなんて」
少女が
ガギン、と人体にしては硬質すぎる音が鳴り響く。
「お主こそ、カブトムシ族の外装をその程度の徒手で貫けると思うたか!」
ジゥークが角を横に振り切り、少女の胴体を引きちぎる。
ぼとぼとと彼女の肉片が床に落ちるが、みるみるうちに傷が再生していく。
「傷つけられないけど、貴方も私を殺せない。ふふ、千日手ね。こうしているうちにも、私の部下が城内の人間を殺して回っているわ」
「く……ミヤマ部隊は城内に散れ!この惨状を知らせるのだ!キンオニ部隊は要人警護だ!コクワ部隊は
「私の
「
ジゥークがもう一度、吸血鬼の少女へ突貫した。
「ここは大丈夫そうだ。ファナがいるからな」
「どうする~?」
「瑠璃、ヘイト管理頼む」
『む、どうすればいいかの?』
「出来るだけ大きいので暴れてくれ。ファナ、誘われた連中を爆撃。吸血鬼はファナに任せる」
「フィルはどうするの?」
「俺は、城内の人たちを一人でも多く守る」
「じゃ、僕が援護だねぇ。吸血鬼がいる以上、城外はファナちゃん、城内はフィルにわかれて担当しよう」
「フィル、死なないでね」
「死なないよ。任せとけ」
「心配ですわね」
「心配だわ」
『心配だのう』
「うっさいばーか!」
俺はトウツと共に飛び出し、窓を突き破って城内へ入る。
城外では赤い影が飛び出していた。瑠璃が変身したのだ。窓越しにワイバーンの顔が見える。
「どうする!? 誰から優先して助ける~?」
「ジゥークさんだ。現状、城内で確実に信頼できるのはあの人しかいない。あいつらを退けた後に、コーマイをまとめる力がある人が生き残らないと意味がない!」
「りょ~か~い」
「エクセレイの犬が、死ね!」
敵が襲い掛かる。
「死ぬのはお前」
すれ違いざまに、襲い掛かった吸血鬼の日光遮断魔法をいじる。途端に日光を物凄い勢いで吸収し、窓明かりのみで消滅する。
「フィル、その魔法を教会の前で使わないでね。君、教皇にならないかい?ってストーカー並みにスカウトされるよ」
「それは嫌だ、な!」
魔人族を蹴り飛ばす。
「再びお邪魔します!ダイナミックエントリー!」
「む、フィル君か!」
敵吸血鬼と戦闘しているジゥークさんが叫ぶ。見ると、騎士の数がかなり減っている。それにぞっとするが、死体が少ないところを見ると、救援に向かったのかとほっとする。
「手伝います!」
「かたじけない!」
俺とトウツが甲虫騎士たちの集団に混ざる。こちらはカブトムシ族の騎士が数名。対して、向こうは魔人族と吸血鬼が20余名。圧倒的に人数不利だ。
「食らいやがれ!」
俺が放ったドリルを、吸血鬼があっさりとかわした。速い!
「ふん、黙っていれば見逃してやったものを。小人族の異国人」
吸血鬼たちに守られるように陣取っていたのは、緑色の髪をした吸血鬼の少女だった。この魔力の波動、間違いない。女王に扮していたやつだ。
「嘘つくな。あんたら、俺達が国を出る前に殺すつもりだったろ? 俺がお前なら、そうする」
「あら、分かってるじゃない。じゃあ、これも知ってるわよね」
緑髪の少女がパチンと指を鳴らす。
王城に地下から、見知った気配がせり上がってくるのを感じる。
知っている。俺はこいつらを知っている。動く死体。植物型ゾンビ。
ということは、エクセレイのゾンビ工場を潰したのが俺達であることも知っている。
「ジゥークさん」
「何だ」
「地下からゾンビが来ます」
「誠か!?」
「多分、コーマイ国民のゾンビです。女王のゾンビも、いるでしょう」
「くっ……」
「悲しんでいる暇はありません。やつらは頭を潰さないと活動停止しません。死んだら即感染してゾンビの仲間入りです。味方が死んだらゾンビから引き離すか、死体を滅却してください」
「ぐ……わかった。行け!」
ジゥークさんの指示で、3名の騎士が窓、扉から逃げ出す。
「行かせるわけないじゃない。すり潰しなさい!」
敵の指示で、魔人族と吸血鬼が一斉に動く。
「
ドラゴンを模した炎が、敵の進路を潰す。
「ぐっ!」
「触れるな!浄化魔法が混ぜられた炎だ!消し炭にされるぞ!」
流石に引っかからないか。半不死身を利用して炎に突っ込んでくれれば良かったのに。
フロアには、わずかな味方と大勢の敵が残る。
「……おい、お前ら何者だ?」
「ふん、言われて答える義理はないわね。でも教えてあげるわ。何故なら貴方達に次はないのだから。私の名はピューリ・ヴィリコラカス。貴方達をあの世へ送る者よ。喜びに打ち震えなさい。貴方達みたいな下等生物が、私に手ずから殺してもらうのよ?」
「ヴィリコラカス? レイミア・ヴィリコラカスの仲間か!」
「……エクセレイで我々のレポートを奪取したのはやはり貴様か!殺す!」
ピューリと名乗った吸血鬼が襲い掛かってくる。
「トウツ」
「あい~」
チギン、とピューリの爪の斬撃をトウツが刀で受け止める。
「吸血鬼の攻撃を物理で受けるなんて、バッカみたい!」
そのまま刀に体を切り裂かれながら無理やり接近し、やつがトウツの首元に齧り付こうとする。
「はい、そこまで」
俺が彼女の首筋をすっと撫でた。
日光遮断魔法が解ける。
「が、ぎゃああああ!何した!何をした下等生物がぁあ!」
ピューリが叫びながら退く。
「すぐに灰になんないねぇ」
「階級が高い吸血鬼なんだろう。以前ファナが太陽葬した吸血鬼とは魔力の質も段違いだ」
「ぐ、ぬうう!おのれ、おのれぇ!」
ピューリが叫びながら味方の吸血鬼の首筋を掴む。そのまま引き寄せて日光遮断魔法をそのまま引きはがし、自分に付与する。
音もなく、吸血鬼の男が灰になる。
「ひでぇな。仲間じゃないのかよ」
「仲間? 何を言ってるの? こいつらの元は貴方達と同じ、下等生物よ。私が吸血鬼という高貴な存在に変えてやったの。いつでも私のために死ぬ準備は出来ているわ」
「最低だな、手前」
「私の野望を邪魔する貴方達の方が、最低よ」
ピューリの瞳が肉食動物のように凶暴に光る。
「下等な生物って言うけどさぁ」
横からトウツが前に出てくる。
「君、真祖の吸血鬼じゃないよね。だったら君も、元僕らのお仲間じゃん。下等生物が元同族を下等生物呼ばわりだなんて、滑稽だねぇ」
「貴様……」
やつから怒気が漏れ出る。
「言ってはならないことを言ったなぁ!言ってはならないことを!万死に値する!」
「え、キレやすすぎない?」
「
トウツに気を取られていた吸血鬼が、ジゥークさんに吹っ飛ばされる。
「フィル君!その魔法で吸血鬼を減らしてくれ!この国は
「分かりました!トウツ!」
「なぁに~?」
「下のゾンビを」
「嫌」
「でも、市民に被害がいくかもしれないんだ!」
「フィルの命優先。ここは譲れない。助けたいなら、この場の敵を全員殺してから、僕と一緒に行く」
「く、わかった!ここの殲滅を最優先する!」
言葉を重ねても、トウツは梃子でも動かないだろう。頭を切り替えて目の前の敵に集中する。吸血鬼が俺から距離を取り始めた。即死攻撃をもつ得体の知れない小人族だ。当然そうなるだろう。
破壊魔法を両手に携えた魔人族が立ちはだかる。その顔立ちを見るたびに、ノイタが頭をちらつく。それでも、俺はこいつらを殺さなければいけない。
ジゥークさんやベルさん、パスさん達の国を守らなければいけないのだ。
トウツがまた魔人族の首を斬り落とした。
「ごめんな。恨みはないけど、あんた達はここで終わりだ。あの世で俺を恨んでいいよ」
「こんな強いなんて聞いてない!くそくそくそ!レイミア姉さまに怒られるだけじゃ済まない!下僕共!退路を作りなさい!」
魔人族が水魔法で隙間を作り、ピューリが外へ飛び出す。
「あの女を逃がすな!フィル君追ってくれ!」
「でも城は!」
「ここは私が何とかする!行け!」
「はい!」
ジゥークさんに後押しされて、俺とトウツは再び外へ飛び出した。
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