第231話 リビングパラディンは追想する
とても面倒な前書き ~流し読みでいいと思います~
あまり前書きは書くべきではないと思っているのですが、読者に混乱を与えると思うので書きます。
前話を更新日に読まれた方は、鍛冶屋のシュミットさんのご先祖の名前をアダム・シュミットと認知しているかと思います。
ふと自分で書いた設定を読み直すと、シュミットは姓じゃなくて名だったんですよね……。シュミットさんのフルネームはシュミット・スミスです。みなさん覚えていましたか? 作者は忘れていました。
ですので、アダム・シュミットさんの名前をファステ・スミスさんに改名いたしました。生まれたその日に改名しました。難産で申し訳ない。
アダムを残そうかと思ったのですが、それだとアダム・スミスになっちゃいますもんね。ちなみにアダムにしようと思ったのは「最初の男」という意味で採用しました。改名後のファステも「ファースト」からもじっただけです。
もう一点報告が。だいぶ前に、「100年くらい修行しないとルビーを目視できる魔力量に到達しない」という設定変更を致しました。ですが、この変更が反映されていない話が散見されているようです。そして作者本人もそれを探すことが出来ていません。不便をかけます。すいませんね。ご指摘いただいた方はありがとうございました。
扱いきれないのに登場人物も設定も足していくからこんなことになるんです。いつでも自分の首を絞めるのは過去の自分です。今までもそうだったし、多分これからもそう。
そして性懲りもなく今回も登場人物が増えます。作者が扱えきれるかどうか、生暖かい目で見守っていただくと幸いです。
長文悪しからず。
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「ここだ!ここに建国しよう!」
爽やかな笑顔を浮かべて、その男は言った。
「また始まったよ、エールの戯言が」
「勘弁してくれよリーダー、こんな魔物だらけの所に国なんかできっきゃしねぇ」
「いやでも、理にかなってるかもな」
「んなわけねぇだろ!?」
「待て待て。よく考えれば、魔物の問題さえクリアできれば住めるだろう?」
「その問題が致命的だったら意味がねぇよ!」
周囲のぼろ布をまとった人々が口々に言う。
それを眺める男は、実に楽しそうだ。不精に伸ばした桜色の髪を風がなでる。男は雑に髪を撫でつけた。
彼の名前はエールストーン。この集団のリーダーだ。
「リーダー、ここに国を建てる。そこはまぁいい」
「よくねぇ!」
「ファステ、黙ってくれ。ドワーフは声が大きくて敵わん」
「うっせぇ!お前はいつもそうやってインテリぶりやがって!ザクスさんよぉ!」
「ぶってるんではなくインテリなんだよ」
鷹型の
ザクス・ラオイン。この集団のサブリーダーである。
「いいよいいよ。で、ザクス。君がいいたいことは何だい?」
「……ここに建国する利点は理解できる。豊富な水と巨大樹の森がある。つまり資源は十分だ。海にも面している。造船技術が出来れば商業が栄えるだろう。
「防衛しながら土地を作る」
「は!? どうやってだ!?」
「そこは、建築のプロがいるだろう?」
「は? 誰だ!?」
「お前……」
周囲が心の中で総突っ込みする。どう考えてもドワーフのお前だろうと。
「建築はドワーフ達に任せよう。出来るかい?」
ファステの後ろにいるドワーフ達が頷く。
「建材の調達は、バルドー君たのむ」
「任せてくれ。私の財でギリギリ追い付きそうだ」
「済まないね」
「なに、私は商人として君の人生に賭けた。とても楽しい賭けだよ」
バルドー・ヘンドリックは笑った。
彼は豪商の息子である。自身が動かせる財産のみを持って、この集団に混ざってきた。理由は一つのみ。エールストーンという男が自分に巨大な商売のチャンスを与えてくれると思ったからだ。おかげで父親には勘当されてしまったのだが。
さすらいの旅人集団についていく息子だ。勘当されたことにバルドーは悲観してはいなかった。全てはエールストーンだ。この男のカリスマが豪商の男をこの集団に導いた。
「建築して防御を固めるのはわかるが、魔物対策はどうする。インフラを整えている間に襲撃されれば終わりだぞ」
ザクスが言う。
猛禽類の瞳が訝しげに光る。
「そこはほら、僕らには心強い自警団がいるからね」
エールストーンが後ろを見ると、そこには屈強な騎士団がいた。彼は自警団と表現したが、その集団は自警団と呼ぶには、あまりにも物々しく洗練され過ぎていた。
ドワーフであるファステ・スミス達が鍛えた鎧である。
その鎧に身を包む者たちもまた、実力者ぞろいだった。
この集団は行き場がなかった。
流浪のドワーフ。普人族に差別されてきた獣人族。特に動物の特性が強く残る者が多かった。そこにはザクス・ラオインもいれば、ボルゾイ犬のような姿をした人物もいた。他にも、種族特性から他者と共存出来なかった者も。
「そういうわけだ。シュッツァー、僕たちを守ってくれるかい」
「ああ、任せてくれ」
流麗な、声の低い女性が前に出た。この自警団のリーダーだ。後に騎士団長となる人物である。使い込んだ
ぱちりと、エールストーンとシュッツァーの目が合う。エールストーンは笑った。シュッツァーは恥ずかしそうに目を逸らした。
「確かに俺たちの自警団は強い。ここまでの長旅、しっかり守ってくれたからな。練度もその辺の小国よりは高いだろう。でも、ここいらの魔物を抑えられるほどじゃない。分かってるのか、リーダー。エルドランにレギア、この周辺の大国がここに手を出してない理由。出さないんじゃない、出せないんだ」
ザクスが言う。
「もちろん、それもわかってるよ。世界樹がある国だ。
「生き生きって、リーダー」
ファステが唸る。
「僕らには後がない」
エールストーンが全員を見回して、言う。
「長旅でわかっただろう? この集団は人種のるつぼだ。僕らを受け入れてくれる国は、どこにもない」
全員が静かに聞く。物音も立てず、エールストーンの言葉に耳を傾ける。集団には教育を受けていない者がほとんどだ。それが軍隊の様に統率されてエールストーンという指揮者に従っている。これがこの男がこの集団のリーダーになった理由だ。圧倒的な人望、カリスマ。そして魔法使いとして随一であることも彼の求心力に一役買っている。
「だから、ないものはねだっても仕方がない。勝ち取るしかないんだ。虐げられ続けた君たちなら、わかるはずだ。残念だけど、本当に苦しい時に助けてくれる人はいないんだ。自分で立ち上がって、自分を救うしかないんだ」
「それは違う、リーダー。少なくともあんたは俺達を拾ってくれた」
ボルゾイ犬のような犬人族の男が言う。
「ふふ、ありがとう」
エールストーンがほほ笑む。
「そういうわけだ。ないから作る。建国だ。でも、普通の環境に国を作っても意味がない」
「何でだ?」
「簡単だよ。近隣の国に潰されるからさ。国としての体裁が整った瞬間に全てを奪いに来るだろうね。僕らはほら、戦争を仕掛けられる理由がいくらでも作られる集団だからね。だからあえて、過酷な環境で建国する。みんな、過酷な環境は慣れてるだろう?」
どっと笑いが起こる。
「ザクス。君の魔物への知識は本当に役に立つ。そうだ、きちんと立国できたらギルドマスターをやってみないかい?」
「狸を取る前に皮算用は、失敗するぞ」
ザクスが小さく笑う。
エールストーンも笑みを返す。
「協力者も出来たんだ。ルアークという。森のエルフの長老だね。最近、長老に就任したばかりの人だよ。かなりの若さで就いたらしい。エルフの若いが、どのくらいなのかは知らないけど」
「おいおい、エルフなんて面倒なプライドもってる連中なんかと手を組んでいいのか?」
「驚いた。基本、森に引きこもってるから交渉も出来ない連中だと思っていたが。リーダー、どうやったんだ?」
ファステとザクスが言う。
「こら、ファステ。君のところとエルフが犬猿の仲なのは知ってるけども、ここは我慢してくれよ。ザクスの言う通り、交渉が難しい種族だったよ。でも、このルアークという人物が中々に先進的な人みたいでね。外界との情報を断絶するだけでは危険と判断したらしいんだ。こちらとしては本当に助かるね。ここ原産の魔物の種類や特徴を教えてくれるらしい。土地のマッピングも既に出来ているらしい」
「それは素晴らしく有能だな。どうにか登用できないか?」
「それは無理だね。あくまでも協力関係であって、僕らと合流する気はないらしい。彼らはほら、巫女を外に出さないことも使命だからね。うっかり巫女が外界の種族と混ざってダークエルフになったら、それこそ悲劇だろう」
「そうか、残念だ」
「へ、エルフはエルフらしく森に籠ってればいい」
「残念だなぁ。エルフ相手なら楽しい商談が出来そうなのに」
それぞれが自由に発言しだす。
エールストーンはそれをにこやかに見る。
「そして、我々は犠牲を払わなければならない」
すっと、場の空気がまた引き締まる。
「大量の魔物から身を守りながら、防衛の拠点を増やし続ける。平野の中心にまず都を建てる。レギアという強国があるが、間にある魔物だらけの山が守ってくれるだろう。でも、魔物からの被害は確実に出るだろう。済まない。僕は全員を救うという嘘甘言で君たちを連れてきた。でも、道中で死んだ者もいた。これからの建国では、もっと死ぬだろう。理解してほしい。食料もバルドーが持って来てくれた資産も底が尽きそうなんだ。この集団で何かを成すには、これが最後のチャンスなんだ。君たちの命を、もう一度僕に預けてほしい」
エールストーンは周囲を見回す。
「当り前じゃねぇか!とっくの昔に命は預けてんだよ!」
「ここで降りるなんて、今更だぜ!」
「恩はもう十分にもらったわ!ここからは私たちが返す番よ!」
周囲の人々が盛り上がり始める。
それを見て、エールストーンは静かに頭を下げた。
「で、リーダー。国の名前はどうするのよ?」
ファステが言う。
「名前? 名前かぁ、う~ん。考えてなかったなぁ」
「せっかくだから、リーダーの姓にすればいい。大抵の国は国名が王家の姓になっているだろう」
「そうかい? じゃあ……エクセレイ。エクセレイはどうかな? 魔法という意味だ」
「魔法。何でそれにしたんだ?」
「魔物を倒すには、やはり魔法だ。この国はきっと魔法立国になる。いや、そうする。そのためにはそうだね。学園とかも必要じゃないかな。教育は大事だよ。ハノハノ、君は頭もいいし面倒見もいいからぴったりなんじゃないかな」
「え~、めんどい」
話をふられた小人族の少女が嫌がる。
それを見て苦笑いするエールストーン。この少女は、この集団では珍しく彼に苦言を堂々と言う人物なのだ。そういう人間も集団には必要なので、エールストーンは彼女の存在を有難く思っている。
「そういうことだ。僕はこれからエールストーン・エクセレイと名乗る。というか、僕が国王でいいの?」
その場にいる全員がどっと笑いながら肯定する。彼らは底抜けに陽気だ。何故ならば、笑えない状況に今までいたからだ。そしてこれからも、魔物に怯えながら建国作業を進めなければならない。心を自衛するための笑い。苦しみや危機から目を逸らすための笑い。
エールストーンは彼らを見ながら、本当の平和に支えられた笑顔が見たいと切に願う。
その数年後、彼は大切な人を失うことになる。
自分の片腕であり、最愛の女性。
騎士として彼を支え続けたシュッツァーという人物である。
国に初めてギルドが出来たとき、彼はすぐに死霊騎士の討伐依頼を出すことになる。
そのクエストはまだ、完遂されていない。
その魔物は夢を見ていたような気がした。
よくは思い出せない。今のその魔物にある感情は怨嗟のみ。多くの死霊を飲み込んできた。それらの恨みつらみにあてられて、もはやその魔物は単体としての存在ではなくなりかけている。
それでも時折思い出すのだ。長い桜色の髪を。胸のすくような爽快感を。旅した草原のざわめきを。夜を共にした鼓動や、肌の温度も。
何故か消えない。
他の死霊から飲み込んだ怨嗟が、この記憶だけは完全に潰すことが出来ない。それが何故なのかは、その魔物にはもうわからなくなっている。
魔物は顔を上げた。
見知った気配がする。
あの冒険者達だ。自分をしつこく付け狙う、強者。慌てて都へ戻ってきたのだろう。
今の自分ではまだ、勝てない。
魔物は逃げることにした。南へ、南へ。
都から離れることに罪悪感が芽生える。
その魔物はわからない。何故罪悪感が芽生えたのか。
その答えは、自分が生前守るべきだった人が都にいたからである。
でも、その魔物にはわからない。
気づけない。
全て、わからなくなっていく。
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