第224話 vsブルードラゴンモドキ7
「行きます!援護してください!」
俺はワイバーンの帆をパアンと張った。
「あれに突っ込むのか!? 頭おかしいなおい!でも乗った!」
いの一番にパスさんが後ろにつく。
続いてトウツ、ジゥークさんだ。
ジゥークさんにはもう、
「ストップ!」
俺は両手とワイバーンの帆を広げてみんなに待ったをかける。
「うおお!?」
「おっと」
パスさんが数メートル俺を追い越して空中で静止する。トウツは余裕の表情で止まる。
先行しかけたパスさんの眉間すれすれにオリハルコンブレードがかする。
「あっぶねぇ!」
空中でわたわたと暴れるパスさん。
「どうした!?」
出遅れたジゥークさんが追いつき、問いかけてくる。
俺は無言で上空を小さく指差す。
「む、あれは?」
「いつの間に!?」
ジゥークさんとパスさんが驚く。
そこには巨大な雨雲、いや、雷雲が形成されていた。今にも放電しそうな様子だ。チリチリと雲の下が帯電している。
「パスさん達が時間稼ぎしてくれたおかげです」
「何故やつは気付いていない?」
「理由はごく単純です。ここの上空一帯に遮音魔法をかけました」
その場にいる全員が、驚愕の表情を浮かべる。普段はぼやっとした顔のトウツですら、少し目を見開いた。
「さっきかわされた雷撃よりも、至近距離です。食らいな!
雷が至近距離のやつを貫く。
が、わずかに奴が体を傾げる。こちらが目の前で止まったから警戒していたのだろう。それでもソナーを遮断されていた超至近距離の雷撃。完全にかわし切れていない。雷撃は綺麗にやつの
焼け焦げた磯の臭気が周囲に飛び散り、俺たちの鼻腔をくすぐる。
5本のオリハルコンブレードと翼の残骸が、雲の下へ落ちていく。
もったいないが、今は目の前の敵だ。
「
俺は3人を見回して嗤った。
「ふふ、くくく。それでも1人5本だがな」
「違いねぇ。どの道命がけじゃねぇか。ははは」
「フィルは鬼発注が好きだねぇ。だからこそ一緒にいて飽きないんだけど」
俺の笑いに、周囲の3人が釣られる。
「いいねいいぜ!乗っけようかフィルの作戦によう!俺の命を!はっはー!」
パスさんがフルスロットルでやつに突っ込んだ。
俺たちも遅れて特攻する。
オリハルコンブレードの切っ先が、俺たちを包み込むように閉じ込めていく。
残るはやつの
俺は2人を残し、やつの額に目掛けて飛ぶ。残り4本のブレードが襲いかかる。跳び箱のように開脚してかわす。ダックインして2本をかわす。左手に紅斬丸、右手にランサーを持ち、刀にて残りのブレードを弾く。
「到着」
俺は
「食らいな!」
不格好なランサーがウミウシの額に突き刺さる。
フェリの爆撃、ラウさんの掌底、トウツの斬撃で開いた隙間。そこにアーマーベアの合金で出来たランサーをかき入れる。
「オオオオン!」
残響音のような悲鳴があがる。
ブレードが俺を狙って戻ってくる。
「させねぇよ!」
「甘いねぇ」
「私の角の方が強い!」
俺に集まるブレードを3人が弾く。戦いの終わりを察しているのだろう。残りの魔力をかなぐり捨ててオリハルコンの斬撃を受け止めている。
それを背に、金魔法で突き立てたランサーを更に錬金する。体内に突き刺さった針状の切先に、返しをつけて引き抜けないようにする。体内の肉を貫いたことで、奴が苦悶する。
「脳みそは、このへんだよな?」
体内に侵入したランサーをそのまま錬金して伸ばし、脳を貫いた。
巨体がビクビクと痙攣し、ブレードの動きが鈍くなる。
次の攻撃のために、体外のランサーを錬金して細く長く、太陽に向かって伸ばす。
「これでとどめだとは思わない。トウツ!パスさん!俺たちを連れて離脱!」
トウツが俺を、パスさんがジゥークさんを引っ張り全力で離脱する。
「あれで死んだんじゃないの!?」
「再生魔法があったらまずい。だから最後にこれだ。
雷が一斉にやつの額へ突き刺さる。細長いアーマーベアのランサーが集雷針となり、雷をやつの額へ誘導したのだ。
爆発音と共に、べしゃっと大量の水分が弾ける音がする。
オリハルコンの外装の中で、やつの頭が消し飛んだのだ。罅の隙間からやつの体液が漏れ出る。
俺たちは背中に爆風を受けて弾き飛ばされる。
4人でそろって空中で静止し、やつを見る。
「やったか!?」
「パスさん、その発言はまずいです」
「何で!?」
「宗教上の理由です」
「はて、テラ教にそんな項目あったか? 第何項の何節だ?」
「やっぱ俺が言ったことは忘れてください」
「何で!?」
何というか、この人の周りにムナガさん達が集まる理由が、今日のクエストで本当の意味で分かったような気がする。
俺はパスさんの相手もそこそこに、やつの魔力を魔眼で見る。
完全に沈黙。
やつの魔力は体内を巡らず、停滞している。
すると、その魔力の奔流がものすごい勢いで俺たちに向かってくる。存在の力が吸収されているのだ。
「これは」
「わーお」
「すごいなコレ!魔力感知が苦手な俺でも、力が底上げされているのがわかる!」
「ということは……」
「そういうことだねぇ」
俺は空中で喜びを噛みしめて震える。
そして、飛び上がった。
「倒したぞ!倒したんだ!」
「やったぁああ!やるなぁフィル!何だあの魔法!よく2発連続でぶち当てたな!」
「パスさんのおかげです!」
「いや何の!それほどでもある!」
「ふふ!騎士団でもこれだけのクエストはしたことがない。いや、これは私の人生最大の討伐だろうな!」
落ち着きのあるジゥークさんですら、興奮を隠し切れていない。
「フィル!トウツ!」
「大丈夫!? 魔力がこっちへ流れ込んできたけど!」
『我が友!怪我はないかの!?』
3人が慌ててこちらへやってくる。
俺は無言でサムズアップする。
瑠璃が頭突きしそうな勢いでワイバーンの頭を擦り付けてくる。
「あはは!瑠璃、危ないって!角が刺さるって!」
『何を言うか!死ぬかと心配したぞ!』
「それを言うならこっちの台詞だ。良かった、瑠璃。死んでなくて」
俺は両手足で瑠璃の鼻先に抱きつく。ワイバーンのゴツゴツした肌も、瑠璃だと思えば最高の抱き心地だ。
「……フィル、僕は?」
「駄目。今日は瑠璃優先」
「そんな……」
トウツが空中で両手を広げるポーズで固まる。
「堕兎、諦めますの。流石に今日は瑠璃に独り占めさせなさいな」
「私もそう思うわ。瑠璃の背中にいた私たちが
「ば、馬鹿な」
トウツが空中で四つん這いになる。
何故空中でその姿勢が出来る。器用すぎんだろ……。
「話は変わるけどよ」
俺たちパーティーの会話にパスさんが割って入る。
「何ですか?」
「あれ、落ちてないか?」
パスさんが指差す先は、
「うわぁ〜!オリハルコン!アルのオリハルコンが〜!」
「アルって誰!?」
「そんなことより、あれを見失ったらいかん!追いかけろ!」
ジゥークさんの鶴の一声で、全員慌てて急降下して亡骸を追いかける。
「わー!やめてよやめてよ!オリハルコン回収出来ないと!このクエストで大事なポーションほとんど消費したのにっ!」
「私なんて金魔法に使う素材ほとんどなくなったわよ!いい爆発が見れたけどっ!」
「収入がなければリュカの角を修復するための教会への代金がなくなる!」
「何を言ってますの!代金ではありませんわ!お布施ですの!二度と間違えないで下さいまし!リピートアフターミー、お!ふ!せ!」
「そんなことどうでもいいだろ!アルのオリハルコンが!」
「だからそのアルって誰!?」
「あれが落ちる速度を抑えることは出来んのか!? もし下が海ならあっという間に沈むぞ!」
ジゥークさんが叫ぶ。
「瑠璃!出来るか!?」
『無理じゃのう。魔力が足らぬ』
「ファナ!瑠璃に魔力供給を!」
「モドキから魔力を吸収できましたが足りませんの!」
「ラウさん!」
「何だ」
「なんかすごいキックであれを浮き上がらせるとか、そんなこと出来ますか!?」
「出来るわけがなかろう。何故某が出来ると思った?」
出来そうじゃん!何か出来そうな雰囲気あるじゃんあんた!
「あぁあああ!どうしてだよもう!」
リュカヌ・セルヴォランは地上でのんびりと待っていた。
魔力が頭上から降り注ぎ、自分の中に吸収されていく感覚を得た。この感覚は久しぶりである。
ほっと安心する。
あの後、リーダー達は無事
すぐ近くの湖面に自分の顔を映す。
そこにはごっそりと先が無くなった自分の角が映る。教会へ行けば治せるだろうが、法外なお布施を払わなければならない。エクセレイの聖女に頼めば治してくれるかもしれない。
だが、この負傷は定着してしまうと治すことが間に合わなくなる。
一度魂が「この形が正常である」と認識してしまうと、治癒魔法での欠損の回復は不可能になるのだ。
あの聖女は魔力切れ寸前だった。
ということは、すぐに都へとんぼ返りして教会へ駆け込む方が確実だろう。
「せっかく儲ける案件だったのに、オリハルコンの採取量によっては採算がとれないかもしれないな」
リュカヌは一人で落ち込む。没落し、騎士の立場を失ったときに拾ってくれたリーダー。彼に恩を返しきれていないのに、また迷惑をかけてしまうことになりそうだ。
ぼうっと空を見あげていると、雲を巨大な影が突き抜けた。
「ん? あれは、
よく聞き覚えのある声が聞こえてくる。それは小さく、か細いもだったのだが、どんどん近づいてくる。
「……カ!……リュカ!」
やはり聞き間違えではない。リーダーの声だ。
「おーい!リュカ!」
「リーダー!どうした!?」
「それ受け止められない!?」
パスの大声で気づく。あの巨大なウミウシが自由落下しているのだと。
「いや、無理に決まってるだろう」
湖の半分近くの水がはじけ飛び、リュカヌは数十メートル流された。
遅れてきた面子が次々と
水滴を払いながら湖へ戻ってきたリュカヌが見たのは、浅瀬で狂ったように笑う、一緒にクエストに参加した面々だった。
達成感、安堵、高揚。それらの感情に心地よく支配されている彼らは、全く事情を知らない人間から見れば正気を失った集団に見えたかもしれない。
それほど、彼らは底抜けに笑っていた。
「全く。リーダー、教会へ連れて行って下さいよ」
リュカヌはため息をつきながら自分も浅瀬に入っていく。自分でも、口元がほくそ笑んでいることが分かる。
クワガタ族の男は、しばらく面々に混ざって、狂ったように笑い続けることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます