第222話 vsブルードラゴンモドキ5
「散開!」
瑠璃はそのまま後退する。4つのグループに分かれたわけだが、図体の大きい瑠璃が
吐息を無駄うちさせる。そして瑠璃を堅守する。この2つがこの戦いでも最も大事な要素だと言えるだろう。
「一番槍は私だなっ!」
ジゥークさんが一直線に
即座に吐息が飛んでくる。
魔力が収束する様子が見られなかっただと!?
「俺たちを索敵している間に魔力を溜めこんでいたのか!?」
「何、問題ない!」
ジゥークさんが使い魔の
蜻蛉の翅は自由自在だ。ホバリング、後退、直角な移動、最も航空力学的に優秀な構造をしているとも言われている。
だからこそ、正面からの特攻。
「先ほどは私の攻撃を意にも介していなかったな。業腹だったよ。一つ、食らってはくれないかね」
ジゥークさんはそのまま加速してやつの顔に飛び込む。
「
ジゥークさんの角がやつの額に突き刺さった。
衝撃波が周囲に広がる。
が、やつは頭をもたげただけで外傷には至っていない。
「む、やはり固いか。む?」
やつの体表からじわりとヘドロのようなものが噴き出した。一気に壊れたスプリンクラーのようにそれらが噴射される。
「毒か!」
ジゥークさんがすぐさま後退する。
まずい!退路を狭めたということは!
「ジゥークさん!」
「わかっている!」
すぐさま放たれた吐息をジゥークさんは
すごい。伊達に騎士団長してない。
「かそーく!加速加速加速ゥ!」
「リーダー、五月蠅いんです」
すぐさまパスさん達がやつの前を横切り注意を引き付ける。
「ジゥークさん!」
「危なかった。が、手ごたえは少しあったぞ」
「どういうことですか!?」
少し下では、パスさんがハングライダーのようにリュカヌさんを抱えて、やつとドッグファイトを繰り広げている。
「表面は確かに固い。が、中は特筆するほど固くない。私の自慢の一撃もオリハルコンの外装に阻まれたが、中にはダメージが入ったようだな」
「衝撃を吸収しきれていない?」
「そうだ」
見ると、やつはひたすらパスさんを追いかけ、吐息を発射している。額には紫色の斑点。内出血しているのか。
「オリハルコンさえ突破出来れば、この場にいる面子であれば誰でもやつを傷つけられるということですね」
「そういうことだ。君の作戦は間違っていない」
「ありがとうございます。俺も行きます」
「気を付けたまえ。ヘイト管理役で、一番落とされてはならないのは君だ」
「了解です!」
ワイバーンの帆を傾け、俺は一気に下降する。
「パスさん!交代です!」
「やっと来たかフィル!死ぬかと思ったぞははは!」
「リーダー、余裕が過ぎる」
「うお!? あっぶな!」
パスさんがヘドロをかわす。
「その毒、どんだけため込んでるんだよ!
次々と火球がやつに着弾するが、体表の粘液をわずかに蒸発させるだけである。
「オオオオンン!」
やつの口のような穴に、魔力が収束する。
「収束する点が多い!? 連弾か!」
俺は風魔法で一気に距離をとる。
青い衝撃波が連発される。
「
やつと俺の間の空気を遮断して目測を誤らせる。そして風魔法で加速して連弾をかわす。右に飛ぶ足元に吐息がくる。ホップアップして上昇する。3発頭上にくる。バックフリップしてかわす。やつの口にエネルギーの収束を確認。次は連弾ではなく光線だ!
「うおおおお!」
ワイバーンの帆をパンパンに張らせて加速する。
「何で俺にだけそんな全力で攻撃するんだよ!」
「ははは!フィルが雷魔法の使い手だと気づいているのだろうな!」
「リーダー!喋る暇あったらヘイト管理してくれ!」
「リュカヌさんありがとうございます!」
「何!? 俺もいくつか吐息を挑発して受け持ったぞ!?」
「それもありがとうですけどっ!」
「
ジゥークさんがやつの顎を角で弾き飛ばす。
「うおお!騎士団長黒光りしてるゥー!」
どういう誉め言葉だそれ!
確かにジゥークさんは真っ黒だけども!かっこいい黒いカブトムシだけども!
「もう一度散開だ!吐息も毒攻撃もインターバルが短くなっている。我々を完全に敵として見ている!」
「了解です!」
ジゥークさんが垂直に下へと下降していく。やつはそれに向かった真下へ吐息を連発する。それを見つつ、パスさん達が死角の真上へ行く。俺は時計周りにやつをけん制する。真下では曲芸の様に飛行するジゥークさんが連弾をかわし続ける。
近づいたら毒攻撃を仕掛けてくるのは、オリハルコンを温存するためだろう。
「やつも自分のリスクを分かっているということか」
やつはジゥークさんを狙うのを諦めた。
退化した、
「そうだよな。また雷に打たれるのは嫌だよな。俺を積極的に狙うよなぁ」
そのために、ヘイト役を買って出たんだからな。
「こいよ!」
まともに戦ってられるか!俺は逃げるぞ!
背後から巨大なエネルギーの放出を感じる。
「魔力で強化して加速してるのか!どんだけ俺を殺したいんだよ!」
風魔法で加速するが、奴の方がわずかに速い。あの巨体でその加速は反則だろうが!
だが、四の五の言ってはいられない。このドッグファイトには勝てない。基礎スペックが違いすぎるのだ。追い付かれたら攻撃をひたすらかわすしかない!
上空に信号魔法が光った。
「あの色は、フェリか!?」
「フィル、そのままこっちへ加速して」
大きな声が聞こえた。
拡声魔法だ!まずい、空気が振動する!
「フェリ!駄目だ!大声はやつに気づかれる!」
後ろでやつがオリハルコン
『流石に慣れたわい!』
瑠璃が一気に状態をそらし、かわす。
「フェリ!そっちは無理してヘイトを稼ぐな!」
「わかっているわ。でも、丁度お相手のヘイトがフィルと私たちに向いてるわ。試したいことがあるの。こっちへ来て」
「くっそ、行けばいいんだろ!」
ワイバーンの帆を張って加速する。
パラパラと、白いものが降り注いだ。
フェリが瑠璃の背の上でばらまいているのだ。
それは粉だった。細かい白い、粉。
俺はそれに手を伸ばす。
「指がぬるつく?」
見ると、その白い粉はあっという間に雲に吸収されていく。
「水に混ざりやすいのか。……水酸化ナトリウムか!」
「フィル!風魔法でそれを向こうへ!」
「合点!」
風魔法で一気に白い粉を
やつの体表はオリハルコンで覆われている。その上に粘膜が張り付いている。湿度を保たなければ生きていけないからだ。あくまでも生態の基礎となっているのはウミウシなのだ。
水酸化ナトリウムがやつの体表に吸着していく。
やはりそうだ。
トウツの斬撃も、ジゥークさんの突撃も、俺の火球もかわさなかった。雷魔法はかわしたのに、だ。生命の危機を感じない攻撃はかわさないのだ。
この
「これもかわさないよな?
雷撃がやつに直撃する。そのまま電気をやつの身体に流し続ける。
「フィル、あれと私を繋いで!」
「合点!」
瑠璃の背中の上に移動する。
何かを察したのか、パスさん達が後ろでやつの注意をそらしてくれている。
「フィル、手を!」
「おう!」
フェリの魔力が俺に流れてきた。それをそのまま雷撃に乗せてやつに送り込む。ラインが出来上がった。フェリの魔法をやつに送り込む、ラインが。
「
やつの体表が一気に干からびた。
粘膜の水分がまとめてもっていかれたのだ。水をまとめて分解する化学反応。俺の雷魔法を操作してやってのけた。曲芸のような魔力操作能力。
流石だ。
本当、パーティーにいてくれてよかった。
「体表の水分を分解して気体になったわけだけど、その気体、燃えるわよね?」
真横にいるフェリの表情が邪悪に染まる。
まずい!これは良くないスイッチが入っている!
「パスさんリュカヌさんジゥークさん!逃げて下さい!」
「む!」
「よくわからんがわかった!」
ジゥークさん達が左右二手に別れて、やつから距離をとる。
「
ズドン、と
「雲にも混ぜていたのよね。
やつの周囲にある雲がまとめて暴発し続ける。
あまりにも激しい音が鼓膜を潰しにかかる。俺は慌てて遮音魔法で耳を守る。トウツも後ろでたれ耳を手でふさいでいた。
「オオオオンン……」
やつが巨躯をねじりながら雲へ避難していく。
「逃げた?」
「いえ、違うわね。体の保水をするために、雲から水分を補給しにいったのよ」
隣でフェリが言う。
「えげつねぇな」
「驚いた。どういう魔法だ?」
パスさんやジゥークさんがこちらへ来る。
「企業秘密よ」
「だろうな。あんな魔法が悪人に使われたらたまらない」
ジゥークさんが言う。
「ド派手な攻撃だったな」
「いえ、全然美しくなかったわ。淡白なだけの爆発ね。威力は十分だったのだけれど」
「その芸術点の基準って何だよ……」
謎すぎる。
無色の爆発だったからだろうか?
「あの爆発魔法はけっこう効いていたみたいだ。同じ攻撃は出来るか?」
「私とフィルの協力が必要ね。あと、素材の消費も激しいから、出来て2発ね」
「中々厳しいな」
「おい、やっこさん雲から出てくるぜ?」
雲からズボンと巨体が現れる。雲が体に糸を引き、波打つ。雲の上の激しい太陽の日差しに、やつの青い体が乱反射する。
「おい、あれ」
パスさんが指さす。
見ると、オリハルコンの外装にわずかな
「これは、いけるな。フィル君の作戦を実行するときが来たようだ」
「駄目押しの時間だねぇ」
ジゥークさんとトウツが身構える。
後ろではラウさんが魔力を練り始める。
「待ってくださいな。様子がおかしいですわ」
ファナがそう言った瞬間、やつの身体が膨張した。
「
「散開!」
ジゥークさんとパスさんが2方向へ急いで離れていく。
「待て、エネルギーの収束の数がおかしいぞ?」
俺は慌てて
「まずい!全方位に
『無茶を言うでない!』
瑠璃が叫ぶ。
青い閃光がやつから矢継ぎ早に発射された。雲の上に青い線が何本も突き刺さり、弾き飛ばしていく。
瑠璃が曲線を描きながら逃げる。ファナが慌てて魔力を注入するが、間に合わない。俺も瑠璃の背中に抱き着き、魔力を供給する。
今の瑠璃は的がでかい。
一番危ないのは彼女だ!
『ぬう!』
「瑠璃、左だ!」
『わかっておる!』
「次は左上!右上!」
次々と指示を飛ばす。悲鳴をあげそうなくらいに翅を高速に羽ばたかせ、瑠璃はかわしていく。俺たちが逃げる後を十数本の青い光線が追いかける。
目の前に青い光が瞬いた。
逃げ道に置き照準をしていたのだ。
下から衝撃音が聞こえた。
足元が無くなった。
俺も、トウツも、ファナも、フェリも、ラウさんも、空中に投げ出される。
え、ちょっと待てよ。さっきまで俺の真下にはいたはずじゃないか。
瑠璃が。
「瑠璃?」
真下の虚空には、誰もいなかった。
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