第200話 コロニー攻略4(vsドラゴマンティス)
音速で。
蜻蛉のようなクリアな羽が折りたたまれたかと思えば、そこからソニックブームが吹き荒れ、ジェット推進して俺に肉薄してくる。
「手数多すぎだろ!」
竜種の器用さじゃねぇ!
「
俺は土の壁を作って、すぐに横へ
横に移動すると、視界の端で土壁が吹き飛ぶ。
「
やつの羽が高速で振動し、火球がソニックブームでかき消される。
「食らいな!」
ムナガさんが槍を投げつけた。投擲魔法で強化されている。
一直線に虫竜の方へ行くが、鎌で両断される。
「ちっ!」
ムナガさんが背中から次の槍を構える。
「
ラウさんの掌底で虫竜が吹っ飛ぶが、よく見ると衝撃を吸収している。虫の身体は硬さの割には軽い。やつは自分の種族特性を存分に生かして戦っている!種族値でごり押しする他の竜種とは全く違う!
この国で一番、上級冒険者を屠ってきたという話に納得がいく。
「
爆発して拡散する火の弾を虫竜に着弾させる。ダメージが目的ではない。火の粉であの複眼の視界を少しでも塞ぐ。
「ふん!」
俺の火魔法に対処している虫竜の横っ腹にパスさんが突っ込む。
「ギギギ!」
地面をローリングしながら虫竜が立ち上がる。
タフすぎる。持久戦になりそうだ。
俺はポーションをあおる。
やつが跳躍した。
上空に逃げる気か!?
「チギギ!」
口元に魔力が収束する。
「対ショック体制!」
パスさんの叫び声に全員が準備する。
カッと虫竜の口元が光り輝く。
と思ったら、やつは自分の口元の前に自前の鎌をクロスして構えた。
その意味はすぐに分かった。
やつは自身の
「そんな攻撃パターンありかよ!」
俺は叫びながらかわす。
「うおあぁ!?」
「こんの!」
ファングさんをムナガさんが捕まえて回避する。流石足の速い種族だ。パスさんも森に一旦退避している。
横ではラウさんが掌底で吐息を弾いていた。
この人ほんとすごいな!?
「フィル!あれを地面に降ろすことは出来るか!?」
森の奥からパスさんが叫ぶ。
「やってみます!瑠璃!」
『あいわかった』
瑠璃が身体を縮小させながら、俺の横についた。
「羽生やそうぜ」
『イナゴの部位は使いたくないのじゃがのう』
「頼む」
『仕様がないの』
瑠璃が海星の形のまま、俺の背中に張り付く。背中からビィン!っと、跳ね上がった感覚がする。
「飛ぶぞ!」
『ぶっつけ本番じゃのう』
「お前ならちゃんとコントロールしてくれるだろう?」
『当り前じゃ』
俺が
「よう、虫トカゲ野郎。地面にたたき落としてやんよ」
「ギギギ!」
虫竜が吐息を連弾で発射してきた。
「またフィルが無茶してる」
「いけませんわね。魔暴食飛蝗の羽ですわ。練習してないはずなのに」
「悪い癖。やりたい事を優先しちゃう」
空中でアクロバティックに
「どうする?」
「僕らも参加するよ。またフィルが白い天井を欲しがっているみたいだからねぇ」
「目を離せない殿方ですこと」
「魔力にまだ余裕はある」
「あれだけの爆撃をして余裕があるのか……。わかった。俺も行こう」
後衛組が、動き始めた。
「瑠璃!回避しながらなるべく接近!」
『どのくらいじゃ!』
「ソニックブームで両断されないくらい!」
『難しい注文じゃのう!』
「でも出来るだろう?」
『当たり前じゃ』
瑠璃が俺の両肩の上に目玉を生やした。昆虫型魔物の複眼と、猛禽類の眼。複眼は視界の広さの確保。猛禽類の眼は敵の魔甲虫翼竜との正確な距離を測るためのもの。マルチタスクが得意な瑠璃にしか出来ない芸当だ。普通のキメラはこれが出来るようになる前に寿命で死ぬ。
空中をストップアンドロケットスタートで飛びながら虫竜に近づく。色んな魔物を吸収しているだけあって、滑空、静止、ホバリングなど様々な飛び方が出来る瑠璃は流石だ。
ソニックブームが飛んでくる。俺はそれを紅斬丸で弾く。敵口内に魔力の収束を観測。
「瑠璃!旋回!」
『あいわかった!』
虫竜の周囲を時計回りに飛びながら、吐息を回避する。俺は瑠璃が飛びやすいよう、身体強化でバフをかける。
「
虫竜の顔面に的確に火球を当てていく。
大したダメージにはなっていないが、吐息を発している最中に口元を攻撃されてイラついている。いいぞ。虫型魔物の特性も持っているから他の竜種よりも器用だが、自身の注意が俺に釘付けになっていることに気付いていない。虫の特性もあるからか、知能は高い方ではない。高度が少しずつ下がっていく。この調子だ。
亜空間ローブからタラスクの盾を取り出す。
「これで吐息以外じゃ、傷つけられないぜ? 瑠璃!」
『あいわかった』
敵の吐息が尽きた瞬間、一気に距離を詰める。吐息の数少ない弱点は、攻撃にインターバルを挟まざるを得ないところだ!
眼前までにきた俺に驚いたのか、虫竜がソニックブームを放とうとする。風魔法を使おうと空中の魔素にやつが触手を伸ばすが、その魔素を俺が先取りし、
「ギギ!?」
怯んだやつに、俺はタラスクの盾でシールドバッシュをし、顔面を殴りつける。
竜種は空中の魔素を使わずに自前の魔力でねじ伏せるのが特性であり長所だ。それを捨ててこちらと同じ土俵で戦うならば、ねじ伏せるのみ。自慢じゃないが、マギサ師匠以外と魔素の陣取り合戦で負けた経験は、ない!
やつが空中で羽を広げ、体勢を整える。かなり魔力を込めた一撃だったが、そこは竜種。耐久力はその辺のA級の魔物とは比べるべくもない。
「お前、俺に気を取られすぎだよ」
俺が突然喋るものだから、奴は一瞬怪訝な顔でこちらを見てくる。
「
「舜接・斬」
突然目の前にトウツが現れた。真下から垂直に上昇し飛び込んで、魔甲虫翼竜のクリアな羽を一瞬で両断する。
真下の地面には、巨大な十字架をスイングした後の姿勢でこちらを眺めるファナ。トウツを十字架で投げ飛ばしたのだ。あの小さい体で、どうやってトウツを音速並みの速度で投げれるんだろう。意味不明だ。
「ギギギ!?」
虫竜がバランスを崩して地面に落ちていく。下にはパスさん達やファナがいる。いける、倒せる!
地上では、早速森の中を加速するパスさんや、槍を構えて魔力を練るムナガさんが見える。
「フィル〜!キャッチして!」
トウツが上空でスカイダイビングしながら俺に向かって両手を広げる。
「わかった!瑠璃!」
『…………』
「瑠璃、どうした? 瑠璃?」
『あやつは別に、我が友が抱えずとも着地できるじゃろ』
「え?」
「え“?」
上空のトウツが一瞬静止して、落ちてくる。一瞬、俺とトウツの高度が合わさり、目が合う。俺は表情で「すまん」と謝る。トウツは呆けた顔で地面に落ちていった。
「瑠璃、お前……」
『わしが抱えて飛ぶのはフィオ、お主だけじゃ』
「あ、うん。ありがとう?」
特別扱い宣言をされたので、思わずお礼を言う。いや、いいんだけどさ。森の外れでトウツが綺麗に受け身とって着地しているの見えたし。いいんだけどさ、ほら、あるじゃん? パーティー同士の連携プレーとかさ。阿吽の呼吸っていうの? え、うちのパーティーにはない? はぁ、そうですか。
「やつを仕留める。瑠璃、高度を下げてくれ」
『あいわかった』
瑠璃が翼を虫型から鳥型に変げさせ、滑空して下降し始めた。
「
パスさんの体当たりが虫竜の横腹に決まった。
「前から思ってたんだけどさ、リーダーのタックルって別に輝いてる要素なくて速いだけじゃね!?」
「そういう話はクエスト終わってからにしな!」
ファングさんの言葉にムナガさんが叫び返す。
「
ラウさんの蹴りで、虫竜の後ろ足が一本へし折れる。あの人だけ攻撃力が段違いすぎる。
ちなみにフェリはというと、爆弾を投げつけようとしているのをファナに「素材が傷つきますの!」と羽交締めにされて止められている。何やってんだあいつ。それとファナはナイスだ。魔甲虫翼竜の素材は出来るだけ形を残して手に入れたい。
「トドメを刺してやろう。瑠璃、垂直落下」
『我が友がわしの中に押し入ってきた時を思い出すのう』
「あの時より、上手に押し入ってやるさ」
空中で、火魔法で逆噴射して真下の方向へ加速する。奴はムナガさんやラウさん、リュカヌさんの攻撃に気を取られている。いける。
「紅斬丸、舜接・斬」
ふわりと羽のように着地した。魔甲虫翼竜の真下に。
遅れて、やつの首がゴトリと下に落ちる。
「やるじゃねぇか、フィル!」
「待て!まだだ!」
ファングさんの横でパスさんが叫ぶ。
俺の真横に落ちた竜の口が開いている。その口内には高出力の魔力。こいつ、首だけで
瑠璃が瞬時にタラスクシールドを展開し、俺が強化魔法をかける。手首が弾け飛びそうな衝撃が襲う。その強烈な衝撃を、上空に逸らす。胴体がないからか、吐息は長く続かずにしばらくすると途切れた。
俺は臨戦態勢を解かずに、虫竜の頭と胴体を警戒する。魔力視の魔眼で見ても、魔力が動く様子は見られない。完全に事切れている。
うへぇ。死んだはずなのに胴体動いてるぅ。気持ち悪怖い。
「あっぶねぇ……」
「虫型の魔物は頭を落としてもしばらく動くからな。異国の人間があれに対応出来たのはすごい。知っていたのか?」
慌てて近づいてきたリュカヌさんが聞く。
「俺、高難度のクエストで上手くいったことの方が少ないんですよね。だからかも」
「経験に学んだのだな」
「前向きに言えば、そんな感じですね」
ムナガさん達が槍で虫竜をつつき、安全を確認したいる。
「剥ぎ取りましょうか」
「そうだな」
あ、そういえばまだトウツが戻ってきてないな。まぁ、いいか。すぐに戻ってくるだろう。あいつ、足が速いし。
俺たちは勝鬨をあげながら、楽しく竜の解体を始めた。
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