第199話 コロニー攻略3(vsドラゴマンティス)

 空に黒点が無数に蠢いた。


 爆風を逃れた魔暴食飛蝗グラグラスホッパーたちが戻ってきたのだ。


「フィル!対竜の手札はあるか!?」

「あります!」

「なるほど、輝いてるな!俺が引き付ける!君が攻撃だ!」

「了解です!」

『わしも行く!』

『瑠璃はヘイト管理!あの竜と戦いながらイナゴたちの相手はできない!』

『ぬう』

「私たちも行くよ!」

 ムナガさんの後ろで、ファングさんラウさんもサムズアップする。


「前から思ってたけどファング!あれご先祖様あんたの同類じゃない!? 上手いこと交渉出来ないの!?」

「出来るわけねぇだろアホ!鎌がちょっと似てるだけだろうが!」


 いやでも似てるよなぁ。なんだろうあの生物。カマキリと飛竜が悪魔合体しとる。かっけぇ。

 でもかっこよさに見とれる余裕はない。

 魔甲虫翼竜ドラゴマンティスと言ったか。あれはどう見ても今まで見た竜種の中で一番強い。内包している魔力の密度が段違いだ。いつぞやのアースドラゴン亜種以上だ。


「瑠璃!頼む!」

『あいわかった』


 海星ひとで型に変身し、そのまま巨大化する。五か所ある腕の先端からワイバーンの頭部をにょきにょきと生み出して、空中のイナゴ共を食い荒らしている。

 イナゴたちが慌てて瑠璃への対処に動くが、アーマーベアとタラスクの甲羅による鉄壁の防御に傷一つつけられないでいる。


「フィルの使い魔すごいなおい!」

「国境での戦いでも思ったけど、何なのよあの子一体!」

「湖に沈んでいた友達です!」

「何言ってるかさっぱりわかんねぇ!」

「俺も自分で何言ってるかわかんないです!」


 ソニックブームが吹き荒れた。


「うお!?」

「げ!」


 全員が散開する。


 見ると、魔甲虫翼竜ドラゴマンティスがこちらをにらみつけている。あの蝙蝠とも蜻蛉との判別がつかない羽から風魔法を発したのだ。


「竜種なのに吐息ブレス以外の魔法!?」

「ご先祖様が竜と虫型魔物のあいのこなのよ。だから、虫型魔物の魔法も一通り使える」

「何ですかその出鱈目存在!?」

「全くだぜ!虫とヤッちまう竜なんざぶっ飛んでやがるぜ!」

「ファング!」


 ファングさんの下ネタにムナガさんが怒る。

 俺もその発言には流石に引くわ……。

 何となくファングさんが冒険者の中で浮いてパスさんに拾われた理由が分かってきた気がする。


「そのまま散開する!敵に的を絞らせるな!やつは範囲攻撃が出来るが、威力は我々を一撃で葬るほどではない!それぞれが距離をとり、それぞれが輝け!」

「了解!」

「任せろリーダー!」

「それぞれが輝けってどういう意味ですか!?」


 疑問を発しつつも、俺は鎧虫の逆鱗デルゥ・ポカ・レピのメンバーから離れる。瑠璃がイナゴを引き付けている間に決着をつけなければならない。

 風魔法で高速移動しつつ、魔甲虫翼竜ドラゴマンティスに迂回しながら接近する。イナゴが近くに現れたので、すれ違いざまに紅斬丸で両断する。

 足の速いパスさんとムナガさんが高速で俺とは別方向に逃げ、ファングさんは虫竜に接近を試みている。ラウさんは悠然と歩きながら進んでいる。

 あの人、クエスト中も全く慌てないのな。

 俺は加速して虫竜に接近を仕掛けた。




「うへぇ、めんどいぃ」


 そう言いながら、トウツがイナゴを斬りつける。魔力を温存した抜刀だが、綺麗にイナゴが両断された。


「我慢してくださいな。ダークむっつりがコロニーはまとめて吹き飛ばしたのですから、言ってしまえばこれは残党狩り。楽な部類の仕事ですのよ」

「その呼び名はやめると約束したはず」

「起き抜けにフィルを性的に襲う女との約束は成立しませんことよ」

「それは違う!」

「俺は、この会話を聞いていいのか?」


 困惑しながらリュカヌが角からビームを発射してイナゴを撃ち落とす。


「フィルとやらは竜種への対策は出来るのか? 我々のパーティーで竜種に遠距離攻撃が出来るのは俺だけなのだが」

「だいじょ~ぶ。フィルに任せといて~」

「信頼しているのだな」

「いや、全然?」

「目を離すと死にかけますわね」

「瑠璃が一緒だから、ギリギリ私たちから離れるのを許しているわ」

「いやでも、今瑠璃と離れてな~い?」

「あの殿方は、相変わらず危機管理がなっていませんわね」

「ちゃんとしつけないと」

「ちょっとダークむっつり、フィルを調教するのはわたくしでしてよ? 貴女は昨日いい思いをしたのだから譲りなさいな」

「な、そんな!」

「ちっちっち。それを言うなら元祖フィルの調教師の僕に任せたまえよ」

「フィルがこの場にいたら全力で否定しそうですわね」

「同意ね」

「おいおい、君らは7歳以降のフィルしか知らないだろ~う? 最古参の僕に任せなよ」

「新しい者好き、という言葉を返して差し上げますわ。この中で一番のフレッシュはわたくしですの」

「数年来の付き合いにフレッシュも何もないわ」

「あら、年増が何か言っていますわね。きゃあっ!爆発物を投げつけないで下さいまし!」

「後ろのイナゴを狙ったのよ」

「ファナちゃんに当たっても別によかったけどねぇ」

放射する愛ラジエイトラヴリー

「うわわ!」

「失礼、手が滑りましたわ。貴女の後ろにもイナゴがいましたの」

「絶対僕狙った!今の確実に僕狙ったでしょ!」

「というか、昨晩魔力切れギリギリまで戦ったのに、無駄撃ちしないで」

「そういうむっつりだって、必要以上の爆破してませんこと? 多分、もっと火力を抑えてもコロニーは爆破できたでしょう?」

「……念には念を入れるべき」


 リュカヌは困惑していた。A級以上の冒険者に変人が多いことはもちろん、冒険者としてはそれなりに長い経験がある彼もわかっている。

 だが、痴話話をしながらテキパキとイナゴを処理する彼女たちは明らかに異常だった。というか、あのフィルとかいう少年はまだ年端のいかない子どものはずだ。この面子に男の子一人というのは、情操教育的に悪いのではないだろうか。没落したとはいえ、騎士としての教育を受けたリュカヌには受け入れがたいパーティー事情である。

 彼は決断した。

 沈黙。

 このパーティーとまともにコミュニケーションを取ろうと思うならば、あの小人族の少年だけにしよう。そう、決心した。




「っしゃおらぁ!」


 接近したファングが自慢の鎌で切りつけるが、虫竜は四本の頑強な足で高速に横へスライドした。そして再接近して鎌を斬りつけ返す。


「うお!? あっぶね!お前俺と同じ得物持ってて体大きいのずるいぞ!」

「ファング脇によけて!」


 横からムナガが黒い槍を虫竜に突き立てようとする。

 空気が膨張して爆発した。

 ソニックブーム。それを遠くへ飛ばすのでなく、近くの空気を圧縮する形で放ったのだ。本来遠距離攻撃として用いられる魔法を近距離での露払いに使う。魔力の塊である竜種だけが出来る戦法だ。


「うおお!?」

「ちっ!」


 多足類のムナガは地面を踏みしめて留まったが、足が二本のファングが吹き飛ばされる。

 その場にとどまったムナガは虫竜の連続攻撃にあう。

 蟷螂の鎌が頭上から降り注ぐ。


「こんの!ふざけんな!」


 ムナガが応戦するが、手数も威力も敵が上だ。蟷螂のような鎌が、弾ける、閉じる、突き刺す、様々なバリエーションで襲ってくる。槍捌きが間に合わなくなってくる。


「真打登場!」


 横からパスが飛び蹴りしてきた。森の中で加速し続け、弾丸のように飛び込んできたのだ。虫竜の腹が一瞬歪み、吹っ飛ぶ。


「ギギギ!」


 地面を転がりながら、虫竜が体制を整える。


火竜鱗の大暴走ドラゴニックプロミネンス


 体制を整えた虫竜の側面に竜の形を模した炎の塊がぶつかる。


「チギギィ!」


 もう一度虫竜が吹っ飛ぶが、途中で羽を開き、ホバリングした。


「虫っぽいから火が効くかなと思ったけど、それが効くなら最初のフェリの爆発で終わってたよなぁ。そりゃそうだ」

 森の中から、フィオが出てきた。




「フィル!その調子で遠距離魔法!」

「了解です!」


 パスさんの言葉に反応し、俺は虫竜から距離をとる。

 鎧虫の逆鱗デルゥ・ポカ・レピのメンバーは前衛寄りが多い。俺は後衛に徹する。


「っしゃおらぁ!」

「食らいな!」


 ファングさんとムナガさんが一斉に攻撃を仕掛ける。

 身体・武器強化ストレングスの質が高い!段違いだ!エクセレイ王国のA級以上かもしれない。どういうことだ?

 俺は火魔法を練りながら彼らの魔力を見つめる。


 なるほど。関節が普人族よりも多いから強化できる箇所が多いのか!関節が多いということは、駆動する部位が多いということ。俺がパンチをする場合は肩や肘の動きを身体強化で加速させるが、彼らは身体に加速させる箇所が多いのだ。それがコーマイのフィジカルの強さの理由。

 武力最高峰と呼ばれたレギア皇国の隣にありながら、ずっと国土を守り続けた実績がある国の戦士。


 森の奥ではパスさんがまた走りながらどんどん加速している。

 高速タックル。

 それが彼のバトルスタイル。

 遠距離魔法の使い手がリュカヌさんだけと聞いてバランスの悪いパーティーだと思っていた。とんでもない。パスさん自身が弾丸のような存在で、遠距離攻撃のようなものなのだ。

 また、パスさんが虫竜に着弾する。

 

 ボゴンと、虫竜の体表が凹む音が鳴り響く。


「俺、輝いてる!」

「あ、馬鹿!」

 ムナガさんが叫ぶ。


 虫竜が身体をツイストさせて衝撃を吸収し、パスさんを鎌でキャッチしたのだ。


飛蝗蹴ひこうしゅう


 虫竜の前腕が跳ね上がった。

 ラウさんが蹴り上げたのだ。


「うお!? ナイスだラウ!輝いてる!」

「来るのおせーよ!」

「某が足遅いのはみな、承知のはず」


 バッタ族なのに足遅いんだ……。落ち着いてのんびりしていたわけじゃなくて、あれがラウさんの普通のスピードだったのね。


 虫竜が前腕で切り刻もうとするが、ラウさんがスウェーしてかわし、前腕で弾き飛ばす。

 返しの蹴りで虫竜がのけぞる。


「すごい」

「でしょ? 近接格闘なら、王宮の騎士を除けばこの国トップよ。足が遅いからスカウトの声はかからなかったけど」

「なるほど」


 ピーキーだけど役割のある人なのか。足の速い運び屋のムナガさんと、足が遅いけど近接特化のラウさん。整っている。このパーティーはとてつもなく整っている。A級になるわけだ。


 虫竜のあぎとから魔力の加速を感知する。


「まずい!吐息ブレスです!」

「む!」


 ラウさんが対処しようとするが、虫竜は口元に魔力を溜めながらも前腕での攻撃をやめない。

 その場に張り付けになって、逃げ場がない!あの竜、至近距離にて吐息で仕留めるつもりだ!


「任せろ!」


 パスさんがラウさんを脇に抱えて猛ダッシュして回避する。2人を虫竜の熱線が追いかけるが、ギリギリでかわし続ける。

 なんつー足の速さだ!


火球ファイアーボール!」


 虫竜の顎に火球を叩き込み、無理やり口を閉じさせる。


「ギチチチチ」


 魔甲虫翼竜ドラゴマンティスが、俺の方を見る。

 

 そうだ。こっちだ。

 こっちを見ろ。

 パスさんの高速タックル。ラウさんの蹴り。こっちにはダメージを与えられる手札が多くある。ならば、やつの注意を俺に引き付ける。


「来いよ!」


 鬨の声ウォークライで俺はやつを挑発した。

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