第168話 vs闇ギルド6(帯電する殺意)
俺たちは元来た分岐の道で
「助かった!援護してくれ!」
「助かりました!援護してください!」
「何!?」
「え!?」
一瞬混乱するが、お互いの背後に全力疾走するゾンビを見て、すぐに察する。
「出口に行くぞ!」
「ルークさんはどうするんですか!?」
俺たちは右ならえ、黒豹さんたちは左ならえして走り出す。
「自分たちの命が優先だ!外の戦力も投入する!ここに生き残りの違法奴隷はいない!全員ゾンビだ!」
「こっちも保護対象はいません!」
「よし、行くぞ!」
「はい!」
ちらりと見ると、黒豹師団の人数が少ない。侵入時は5人だったが、今は4人だ。嫌な予感がするが、余裕がないので聞かず、足を動かす。
「ナミルさん!実験室みたいなところはありませんでしたか!? 記録や手記のようなものは!?」
「そっちは何か見つけたのか!」
「はい!」
「こっちにはなかった!あったのは襲い掛かってくる死体だけだ!」
「わかりました!」
全員が外に出て、ルークさんの安全を確保したらフェリやキサラさんにここを爆破してもらおう。ゾンビたちを埋葬してやりたいが、ここを抜け出して近くの村を襲うなんてことはあってはならない。
チリッと後ろ髪が逆立った。俺の探知魔法が、知っているやつの気配を感じとる。俺のエルフ耳が、知っている錆びた金属音のこすれる音をキャッチする。
速い。黒豹たちを追ってきているのか!
「トウツ!」
「な~に~?」
「強いやつが来る!俺とお前で倒すぞ!」
「——僕とフィルの2人がかりじゃないと難しい相手?」
「ああ、超やばい。安全に倒すには俺たち2人がベターだ。
「あぁ、前言ってたやつね~。」
トウツから闘気がほとばしる。
「何!? あれが都で噂になってたやつか!」
「フィル!俺にやらせてくれ!」
クバオさんが叫ぶ。
「どうして。」
「ジータがあいつにやられたんだよ!絶対許さねぇ。」
「それは出来ない、クバオ。」
「どうしてだよリーダー!」
「彼とイナバ殿が対処した方が、確実だ。」
「くそ!くそ!」
クバオさんが悪態をつきながら走る。
「外ですわ!」
「よし!外に出たら信号弾を放つ!キサラさんたちにも参戦してもらう!」
「ルークさんの伝令役は!?」
「俺とクバオが行く。」
思わずナミルさんたちを見る。彼らはすでに一人のメンバーを失っている。
だが判断としては正しい。死霊高位騎士にはトウツを当てるのが最も適切だ。トウツへの援護に慣れている俺も、外にいた方がいい。
対して黒豹族は足が自慢。伝令役として彼らが行くのは最適解と言えるだろう。
しかし、洞窟内の敵残存兵力がわからない。危険だ。だが、足が速くてかつ予想外の戦力に対応できるのはこの2人しかいない。
これ以上死人が出るのはごめんだ。
彼らの足に追いつき、かつ戦力になる人物を俺は頭の中でたたき出す。
「……ファナ、彼らと一緒に伝令役を頼めるか?」
「来ると思ってましたわ。」
「済まない、危険な役割だ。」
「貸し一つですわよ。」
「それは怖い。」
俺たちは外に飛び出した。
すぐにナミルさんが信号魔法を放つ。
ゾンビたちが外にあふれ出す。少し遅れて賞金首たちも出てくる。よく見ると、彼らの中には腕に奴隷印がついている者もいる。いや、おそらく全員奴隷に落とされているのだろう。
「ファナの予想通りだ。恐怖と契約で犯罪者たちを縛っていたのか。」
すぐに矢が飛んできた。次々とゾンビたちを射抜き、風穴が空いていく。射手のソムさんだ。仕事が早い。丘の方から魔力が練りあがるのを感じる。フェリとキサラさんが長距離魔法を使おうとしているのだろう。
「ナミルさん!ゾンビは頭を潰せば活動停止します!」
「何!? 伝令!」
ナミルさんが叫ぶと、黒豹の一人がソムさんたちのいる方へ走り出した。ソムさんがゾンビたちの頭を射抜けば、かなりの援護になり戦況が良くなる!
「瑠璃!森に蜘蛛の巣を!ゾンビたちを外に出すな!」
『あいわかった!』
瑠璃が巨大な蜘蛛に変身して木々を飛び回り、包囲網を作っていく。
ゆっくりと、やつは洞窟から最後に出てきた。死霊高位騎士だ。手には長剣。確か、アルが以前にへし折ったはず。
やつに新しい剣を与えた人物がいる。
それが何者かはわからないが、殺さなければいけないことだけはわかる。
「ファナ殿!」
「わかりましたわ。」
ナミルさん、クバオさん、ファナが洞窟内へと駆けていく。
死霊高位騎士はそれを一瞥するが、こちらへ向き直る。
「トウツ!」
「お~け~。」
真横から鋭い風が吹いた。
トウツが超高速で死霊高位騎士に肉薄したのだ。
「神速・斬。」
抜刀。金属音、そして残響音。
いつもはこの一撃で全ての魔物を屠っていた、が。
「僕の居合に反応出来る魔物は初めてだねぇ。参ったなぁ。」
俺は驚愕する。
トウツが刀を抜いた時、いつも切断という結果だけがそこに残っていたのだ。
受け止められて、鍔迫り合いをする彼女を俺は初めてみた。
周囲では黒豹師団のメンバーが賞金首やゾンビたちと戦っている。明らかにこちらの数が足りない。一瞬ファナを送った判断を後悔するが、気を取り戻す。
目の前には斬り合うトウツと死霊高位騎士。
ここにはルークさんもナミルさんもいない。指令役は俺だけだ。
「黒豹さんは俺たちのそばで動いてください!常に背に味方を!なるべく3人で密集して!キサラさんとフェリの援護を最大限に活用!」
俺は叫びながら黒豹に接近するゾンビたちに火球を叩き込む。
横では黒豹が必死になってゾンビたちをけ飛ばす。
視界の端が爆撃され、ゾンビたちが吹っ飛ぶ。フェリの錬金爆弾だ。白い光線がゾンビたちを次々と射貫く。キサラさんだろう。矢も次々とゾンビを射抜いていく。
「お前が司令塔だな、小人族!死ねやぁ!」
賞金首の男が、山賊刀を振り回して俺に接近した。
「お前がな。」
紅斬丸で男の顔を真横に両断した。刀を通して、頭蓋の気持ち悪い感覚が手元にくる。
「ゔ。」
吐きそうになるが、こらえる。
今は倫理観だとか、冒涜感に身をやつしている暇なんかない。俺が動かないと、誰かが死ぬのだ。
『わが友!巣を張り巡らしたぞ!』
「ナイス!瑠璃!」
俺と瑠璃の目が合う。
目線だけで、俺の言わんとすることが瑠璃は分かったのだろう。
『あいわかった!』
瑠璃の身体が巨大化する。犬の4本足が、太く象のように膨れ上がる。鯨のような尻尾が体内に引っ込む。シャープな背中が盛り上がり、巨大な甲羅を形成する。犬の顔から牙が飛び出し、鱗がびっしりと生えそろい、ワイバーンの顔を形づくる。タラスクの甲羅の代わりに、森で乱獲したアーマーベアの外皮がメタリックに体を覆う。
アスピドケロン。
フィールドが狭いので、かつての姿よりは小さい。が、その重量感、サイズ感、存在感は圧倒的だ。
『形態、アスピドケロンもどき。』
瑠璃がその巨大な足を振り下ろし、2体のゾンビをまとめてペシャンコにした。
そう、戦力に問題などない。
今代の勇者、ルークがいなくとも。A級パーティー黒豹師団のメイン2人がいなくとも。教会の暴れ馬聖女がいなくとも。
大量にゾンビや賞金首がいる? 問題ない。多対一は、瑠璃が本来最も得意とする戦闘だ。
数世紀を生き抜いたキメラという怪物が、こちらにはいるのだ。
大暴れする瑠璃を背後に置きながら、俺はトウツと切り結ぶ死霊高位騎士に向き合う。
「やっとお前を冥途に送る時が来たぜ。覚悟はいいか?」
「フィル。」
「え?」
横から声がかかり、思わずそちらを見た。
その声は知った声だった。そしてその容姿も。
短めのローブにロッド。水色の髪。エメラルドの知的な瞳。
ちょっと待て。どういうことだ? 何故この人がここにいるんだ?
「シャティ先生、どうして貴女がここにいるんですか? 雷魔法を使える貴女が。」
「それはこっちの台詞。フィルこそどうしてここにいるの。」
シャティ先生の手先には、殺意のこもった魔力が帯電していた。
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