第163話 闇ギルド(行き道の馬車にて)
「我々の合流を待っていただき、感謝します。」
そう言ったのは、エクセレイ王国唯一のS級パーティー
同じ馬車にはルークさんのパーティーメンバーの魔法使い、キサラ・ヒタールさんがいる。窓際には
そして、俺とトウツ。
今回はこの3パーティーで闇ギルド討伐するということになったらしい。
A級以上のパーティーが3つ集まるということは、中々ないことらしい。とは言っても、魔法英雄団のメンバーは3人のみだが。彼らはやはり忙しいのだろう。
俺たちはA級の中では自由に動けている方らしい。何でも、古い世代の人々たちには未だに「ストレガから自由を奪うな。奪えばポーションの材料にされる。」だとか「財産を根こそぎ奪われて研究費にされる。」だとか、まことしやかに噂話されているのだそうだ。都市伝説か何かかな?
魔法英雄団の、最後の一人はソム・フレッチャーという人だ。爽やかな好青年といった風体をしている。
彼が闇ギルドの根城を発見し、ギルドマスターに報告を上げたことが事の発端ということらしい。第一発見者ということもあり、今回の依頼に参加している。
犯罪者の取り締まりは本来、憲兵団や騎士の仕事だ。
だが、今回は国の隅ということもあり、自由に動かせる戦力を、というお達しが出た。そこで俺たちである。実力は申し分なく、普段の行いから信頼のおける人物を、ということらしい。国から信頼されているようで嬉しい限りである。
闇ギルドといい、犯罪者の集まりと呼ばれる連中はしぶとい生き物らしい。そしてゲリラ戦が得意である。騎士たちが一丸に統率された力とすれば、闇ギルドは個と個が歪に絡み合う力だ。集団戦こそするが、生き残ることに意地汚く、仲間も平気な顔をして盾にする。そんな連中である。
だからこそ、彼らは仲間と協力こそするものの、信頼はしていない。結果として、集団戦ではなく個人の力が物を言うゲリラ戦に秀でた者が多いのだ。
だが、ソムさんの報告によると、統率された動きが観測されたとのことだ。その上、賞金首の凶悪犯罪者が数名行き来しているところを確認している。
並みの闇ギルドではないとラクスギルドマスターは判断し、俺たちが派遣されたことになる。
黒豹師団はゲリラ戦に対応できるパーティーだから選ばれたらしい。獣人だから、
ちなみに、俺たちは実力とエイブリー姫の後ろ盾があるという信頼性の高さから選出。あとついでに暇そうに見えたかららしい。
けっこう忙しいはずなんだけども。解せぬ。
別の馬車には、フェリとファナと瑠璃が乗っている。ソムさんや他の黒豹師団の面子も合わせて、3つの馬車で移動している。
フェリは俺たちから離れると知って青い顔をしていた。黒豹さんだらけの馬車が閉まる時、俺を悲しい目で見つめていた。人見知りの彼女には辛い環境だろう。
そろそろ社交性を身に着けてほしいので、俺は断腸の思いで彼女を見捨てた。頑張れ。馬車を降りる頃には挨拶くらいは出来るようになっていてほしい。
この馬車は、各パーティーのリーダー格が集まっている。
国境近くまで移動するので、その間にみっちりとミーティングが出来るとのことだ。
はてさて、このクエスト。一体どうなることやら。
ついでに、最近学園の出席日数がやばい。帰ったらシュレ学園長先生に土下座でもすれば許してくれるだろうか。ハイレン先生辺りが「貴方の土下座は安い。」とでも言いそうだが。
「じゃあ、ミーティングを始めようか。」
ルークさんが端正な顔で端正な笑顔を作り、話し始めた。
「ソムからもらった、懸賞首の面子だ。確認してくれ。」
「……こいつぁ、すげぇな。」
すぐに屈強な黒豹の男が反応する。
クバオさんだ。
「こいつも、こいつも。B以上の賞金首だ。数百万以上の懸賞首だらけ。何だこりゃ、ボーナスタイムか?」
「クバオ、油断したら首が飛ぶのは我々だよ。」
ナミルさんが言う。
「だがよう、リーダー。これを成功させればかなり稼げる。日頃の行いって大事なんだな。割のいい仕事が入ってくる。」
「その代わり、危険だけどね。」
「覚悟の上よ。」
クバオさんが力強く頷き、腕を組む。
猫科の獣人とは思えないほど上腕が盛り上がっている。
本当に黒豹なのだろうか。メラニズムの虎だと言われた方がしっくりくる。
「良かった。この猟奇殺人者どもを見て、臆しない人だけが集まったみたいだね。」
「このクエストの成功条件は何ですか?」
俺が手を上げて聞く。
「殲滅戦だよ、これは。生き残ってはならない人間が、この闇ギルドには多すぎる。ラクスギルドマスターはシンプルに命じてくれたよ。
「あら、そういうシンプルなの。私好きよ。」
ルークさんの隣の魔法使いの女性が話す。
穏やかで張りのある声だ。キサラ・ヒタール。魔法英雄団の魔法使い。同じ後衛のフェリが一流と評していた人物だ。体のラインがよくわかる黒ドレスを着ている。古典的な魔女の恰好である。ウェーブのかかったブラウンの髪。紺碧の目、泣き黒子。コケティッシュな雰囲気のある女性である。
体の周囲にたゆたっている魔力が穏やかで美しい。シャティ先生以来だろうか。これほどの魔法使いに出会うのは。
「今回は敵が洞窟内に根城を築いている。潜入捜査になるだろう。奴隷を連れ込む姿も確認されているので、出来るだけ一般人の安全を確保したい。」
「そりゃ難しいぜ、勇者のあんちゃん。単純に戦うだけなら、ここの賞金首共は問題なく倒せる。うちの隊長がいるし、ストレガのチームもいる、何よりもあんたがいる。」
クバオさんが指さすと、ルークさんが「たはは。」と頼りなさげに笑う。
「だが、一般人を守りながらとなると話は別だ。難度がダンチだぜ?」
「うちのクバオがぶしつけで済まない。」
「いや、いいさ。来るであろう意見だとはわかってたよ。」
謝るナミルさんを、ルークさんが手で制す。
「そのための、キサラさ。それと
「……最悪、根城を丸ごと爆破するってことか。」
「そうなるね。僕たちにも、守れるものには限界がある。」
「勇者の割には、ドライなんだな、あんた。」
クバオさんが言うことには、俺も同意である。思った以上に、今代の勇者とやらは仕事人のようだ。
民衆へ爽やかに手を振っていた彼とは印象がガラリと変わる。エイブリー姫と同じだ。この人は「捨てる」という選択が出来る人だ。
「色んなものを守ろうとすると、指の間から大事なものがこぼれていくからね。」
ルークさんがぽつりと言う。
「……至言だな。」
ナミルさんが頷く。
「そこは私を信頼してほしいわね。一般人を傷つけずに、やつらを滅してみせるわ。」
「それは心強い。」
キサラさんの言葉に、ナミルさんが応える。
「あくまでもそれは最終手段だからね。ファーストプランは人命優先ということは忘れずに。」
「てぇことは、洞窟内には後衛は入らない感じか?」
「そうなるね。閉所に連れて行っても危険が増えるだけだ。近接戦を得意とする面子を中心に行く。ソムとキサラ、そしてフィル君のところのフェリファンさんは外で待つ。護衛に黒豹師団の前衛を2人、外に置いていいかい?」
「では、私たち5人と、
ナミルさんが問う。
「その通りだ。」
クバオさんが口笛を吹く。
黒豹師団は5人で連携できる。俺たちは3人。だが、ルークさんは一人。仲間との連携なしに生き残れるという絶対の自信があるのだろう。
線が細く柳のような人だけど、かなり強情な人間だ。少し、師匠に似ているかもしれない。
「そういや、そこの兎の姉ちゃんはずっと喋らねぇな。刀の鍔ばかりいじってよう。あんたは何か意見はないのか?」
「……僕は、斬る人間を指定するだけでいいよ。全部斬ってみせるから。」
静かに顔を上げて、トウツが言う。
「言うじゃねぇか!」
クバオさんが豪快に笑った。
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