第161話 試し斬りは野良魔人族と共に2

「瞬即・斬、もどき。」


 ロックゴーレムが一瞬で両断された。

 俺は身体強化をしているが、武器強化はしていない。それで体長3メートルはあるロックゴーレムを両断出来たのだ。上々だろう。

 トウツは身体強化もなしに斬れるけど……。

 あれは比較対象が悪いな。今の調子で成長すれば、あと2年くらいで同じことが出来るはずだ。大丈夫だ、大丈夫。俺はちゃんと成長している。そうだよね? そうと言ってほしい。


爆散掌底バーンナックル!」


 ロッソがロックゴーレムの足をガントレットで殴りながら、削る。ロックゴーレムが足を破壊されてバランスを崩し、倒れる。周囲に粉塵をまき散らし、轟音を立てる。

 ロッソはそれに乗りあがり、マウントをとって胸元を殴り続ける。体の中心にあるコアが破壊されたのだろう。ゴーレムが停止する。


重すぎる愛シュヴェアドゥアー。」


 ロックゴーレムの頭に乗りあがったファナが、身の丈以上ある十字架を突き立てて、ロックゴーレムの身体を折りたたんだ。

 文字通り、折りたたんだのだ。

 ぐしゃりと体躯がくの字に折れ曲がり、そのまま垂直にスクラップにされる。圧倒的な物理。圧倒的な暴力がそこにはあった。


「やっぱ教会でファナをスカウトして正解だったな。」


 滅茶苦茶苦労したけども。礼拝堂一つを犠牲にした甲斐があるというものである。今度、お布施を多めに教会へ送ろう。ファナが10割悪いが、俺も関わったことだし。最近は懐事情に余裕がある。


「あはははー!」


 ノイタがロックゴーレムの足を殴る。すると、足がまとめてごっそり削られた。


「!?」


 俺は驚いて解析する。黒い魔力が収束したということは闇魔法だ。「破壊」という事象を引き出す魔法? それとも超小規模な疑似ブラックホール? 初めて見る。何とか解析したいが、上手くいかない。


「真似するのはやめた方がいいですことよ?」

「マジ?」

「あれは言ってしまえば、血統魔法。いえ、種族固有の魔法ですわね。長い闇魔法の歴史がある魔人族だから使える魔法ですわ。あれを体得するくらいなら、同じことが出来る他の魔法を10個体得することをお勧めしますわ。」

「よく知っているんだな。」

「潜在的な敵のことをよく知るのは、兵法の基礎ですわ。」

「お前、兵隊じゃなくて修道女シスターだよな?」

「もちろんですわ。」


 本当かなぁ。


「あはは!ここの岩さんは柔らかいのだ!」

 ノイタが笑顔でロックゴーレムを次々と葬る。


「すげぇな、あの娘。本当に俺の同い年か?」

 ロッソが横に来る。


 手には幾つかのロックゴーレムのコアがあった。しっかりお金になる部位をはぎ取っている。ロッソも、後少し経験を積んだら問題なくC級に上がりそうだ。


「世の中は広いな。色んな魔法の使い手がいる。」

「だな~。」

 俺の独り言のような言葉に、ロッソがうなずく。


「念のために言っておきますわ、フィル。」

「どうした?」

「あの娘への警戒を怠ってはなりませんわ。」

「……当然だ。わかっているよ。俺は、同じパーティーのお前ら以外には、数えるくらいしか信頼していないよ。」

「本当にわかっているんだか、わかりませんわね。つい最近仲間になったわたくしもあっさり信じているようですし。」

「もう仲間になってけっこう経つと思うけどな。お前は聖女なんだろう? お前が信じられないなら、かなりの人間が信じられないぞ。」


 信じた聖女が魔王の手先でした。仮に俺が騙されなくても、致命的な誰かが騙されていたことだろう。


「まぁ、わたくしが魔を祓うことに固執していることに関しては、絶対の信頼をもっていただくとよろしいですわ。」

「もちろんだよ。でも、何でノイタをそこまで警戒するんだ?」

「魔人族にしては、純真に過ぎるからですわ。」

「純真なのはいいことだと思うけど。」

「彼女、冒険者2年目ですのよ? あの擦れてなさは普通ではありませんわ。その上、迫害の激しい魔人族。どう培養教育されればあんな純真になれるのか、想像もつきませんわ。」

「……それもそうだな。」


 俺たちはノイタを眺める。

 蝙蝠のような翼をはためかせて飛び、「あちょー!」と叫びながらロックゴーレムの頭を吹き飛ばしている。

あれが危険、ねぇ。

 俺は日本人として育ったから平和ボケした考えをしているという自覚は、それなりにある。この世界で過ごし、衣食住を保証されない人間がどれだけ残酷になれるのかも見てきた。

 それでも、彼女が警戒に値する人物とは思えない。

 だが、ファナには一日の長がある。従っておくべきだろう。


 ゴーレムのコアを拾う彼女と目が合う。彼女は屈託のない笑顔でニカッと笑った。ロッソと一緒に笑顔を返す。ロッソは爽やかに。俺はギシッと擬音が聞こえそうな顔で。作り笑顔、苦手なんだよな。


「ギガガガガガ!」


 轟音が鳴り響いた。

 地面が盛り上がり、巨人がその姿を現した。頭上から岩が降り注いでくる。


「まずい。かわすぞ。ノイタ!こっち来て!」

「何でだ!?」

「かわさないと死ぬんだよ!」


 能天気なノイタを叱咤する。隣では「うわわわ!」と叫びながらロッソが距離をとる。ファナは落ち着き払い、十字架で降ってくる岩を砕く。

 ノイタが横に来る。俺も紅斬丸で岩を両断してやり過ごす。


「その刀すげぇな!」

「作るのに1年近くかかったからな!」

 ロッソの叫び声に応える。


「ギガギガフンフン!ガガガガガ!」


 土煙が落ち着き、巨人の正体が浮き彫りになる。巨大なロックゴーレムだ。いや、鉱物を中心に体を形成している。メタルゴーレムといったところだろうか。体長はちょっとしたマンションくらいだから、15メートルといったところか。


希少金属レアメタルの塊だ!金になるぞ!」

「いや、あのでっかいの見て感想がそれ!?」

 隣でロッソが叫ぶ。


「見敵必殺だ!ファナ!」

「仕様がないですわね。」


 ファナが重すぎる愛シュヴェアドゥアーを構え、それに俺が乗る。


「え、何しようとしてんの?」

 ロッソが言う。


「人間砲台だ。」

「人間砲台ってなんだ? え? え?」

「よくわかんないけど、わくわくするのだ!」

 ノイタがにこやかに言う。


「そおれ!ですわ!」


 ファナの腹筋がミシミシと音を立てて引き締まる。踏みしめた地面が陥没する。彼女の筋力と魔力のエネルギーが俺の両足にかかる。

 作用反作用で足に力がかかり、その力に俺の脚力と魔力をプラスする。


「吹っ飛べ!」


 空気を突き抜けていく感覚がした。肌をビリビリと砂塵がたたく。あっという間にメタルゴーレムの眼前までに到着する。


「初めまして。死ね。」


 火魔法を刀身に乗せる。倒立するねずみオモナゾベームの魔力収束器官が一気に機能し、赤い魔力が威力を加算する。そのエネルギーは、世界樹の流木という高品質な素材により、刀身全てに高速で行きわたる。恐ろしいほどの使い勝手の良さだ。これが都一番の鍛冶師、シュミットさんの力作。


「らあああああ!」


 一刀両断。

 マンションほどの大きさがあるメタルゴーレムが、頭から股まで、縦にぶち斬られる。刀に俺が乗せた魔力は、メタルゴーレムの体内を斬撃として伝播し、両断せしめたのだ。


「キュウウウウウン↓。」

 メタルゴーレムの目から光が消える。


 活動を完全に静止させたのだ。


「やっふうー!気持ちいいー!」

「いや!着地どうすんの着地!」

 遠くでロッソが叫ぶ。


 俺は風魔法を使って、身体を土の字にして地面の手前で静止する。


「フィル、貴方、その落ち方本当好きですのね。」

「ロマンがあるからな。」

「どの辺がロマンなのかわかりかねますわ。男の子の考えることはわかりませんの。」

「ノイタはわかるぞ!かっこいいよな!」

「流石。ノイタはわかっている。」

「いや、俺は男の子だけどわかんないよ。」

「ところで、だ。」


 俺は後ろに倒れている金属の巨人を見る。


「これ、どうやってはぎ取る?」

「……どうしよう。」


 俺の疑問に誰かが困ったようにつぶやいた。多分、ロッソだと思うけど。




 結論。

 俺たちだけでははぎ取るのに時間がかかりすぎると判断したので、都のD~E級冒険者たちに仕事の斡旋という形で手伝ってもらった。

 俺たちは楽できる。彼らは討伐依頼の制限をされているので、仕事が出来る。ウィンウィンである。


 結果として報酬は減ったけども、都の冒険者たちからの支持率は上がったので、良しとしよう。

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