第150話 厨二病命名大喜利大会

「やぁ、痴女シスター。君が本当にパーティーの役に立つのか確かめないとね~。」

「あら、可愛らしい兎さんですわね。心配せずとも、貴方より貢献してみますわ。」


 という2人の変態のやり取りにより、クエストを行うことに決まった。

 ギルドは騒然とした。俺がいつものようにトウツとフェリと一緒にギルド内へ入った時に、教会の聖女がついてきたからである。


「おい、その後ろにいるやつはファナ・ジレットか?」

 そう、聞いてきたのは黒豹師団パンサーズディヴィジョンのナミルさんだ。


 ナミルさんの肩越しには、こちらを伺う大量の冒険者。おそらく彼は、貧乏くじを引かされて聞きにきたのか。大方、同じA級だし既知の仲だから聞きやすいだろうと押し付けられたのだろう。


「えぇ、新しいパーティーメンバーのファナです。」

回復役ヒーラーを探していたとは聞いていたが……いや、実力的にはつり合いが取れているのか。今の教会から連れてくるには確かに一番いい……だが。」

「彼女の扱いが難しいのは十分承知していますよ。何とか手綱を握っておくつもりです。」

「ううむ、イナバを御しきれているから大丈夫、なのか? 困ったことがあったら言ってくれ。」

「助かります。」


 俺から離れたナミルさんが冒険者たちに囲まれる。

 みんな直接こちらへ聞きに来ない辺り、ファナさんは危険視されているのだろうか。


「ねー、フィル。この痴女のギルド登録しないといけないから、こっち来てよ~。」

「え、ファナって登録してなかったの?」

「教会はギルドとは違った依頼形態をしていますわ。」

「そっか、あくまで慈善活動ってことか。」


 依頼料は貰わない。ただし、お布施は貰うという報酬システムだったはずだ。ギルドに混ざるわけにはいかないだろう。

 ただし、教会にいながらも冒険者登録する人間は多いらしい。曰く、教会で働いているとき以外はオフだからセーフ、という理論らしい。何か日本で焼き肉を食べるのはセーフと言い張るインド人めいたものを感じる。


「教会から打診が来ています。ラクスギルドマスターから許可も頂いていますので、ファナ・ジレット様はC級からスタートになります。」

 そう、受付の女性が言った。


「最初からC級かよ。すげぇな。」

「おそらく、教会での過去の活動を評価に加点されたのでしょう。惜しいですわね。本来の実力であれば、そこの兎と同じくらいにはなりましたのに。」

「流石に最初からA級は、ギルドと教会の癒着が疑われるからダメだろ。」


 などと話しながら、掲示板へ行く。

 ちなみに俺はフェリの隣についた。ギルドの人間たちにとって、トウツとファナが手出し厳禁アンタッチャブルな扱いを受けているのが肌でわかる。同じパーティーだから他人の振りは出来ないが、距離を置くくらいはいいだろう。くわばらくわばら。


「フェリはどのクエストにする?」

「今度作る、フィルの武器の素材を探したいわね。後、錬金爆弾の素材のストックも増やしておきたいわ。」

「鉱物系の魔物か。」

「そうね、そのあたりかしら。急ぎではないけど。」

「瑠璃は?」

『海産系の魔物じゃのう。特に爆弾魚ボマーフィッシュは集めておきたい。魔力が低いわしでは、火力を引き上げるのが難しい。最近はフィオに完全に置き去りにされておるのう。』

「種族特性だからな。仕様がない。」


 瑠璃はむしろ、吸収すればするほど強くなるというチート生物である。魔力の伸びが遅いというのは、大きなデメリットたりえない。


「ファナは?」

「わたくしですの? そうですわね。」

「フィル、何で僕より先に聞くのかな? 新しいもの好きかい? 酷いなぁ、くすん。釣った魚に餌をあげない男だね、君は。」

「お前は魚じゃなくて兎だろうが。実力を見たいんだろう? 本人に選ばせるのが一番だろ。」

「いやいや~、ここは姑の僕が選んで進ぜよう。」


 そう言ってトウツが取り出したのは、白竜ホワイトドラゴンのクエスト。竜種の中でも空を飛ぶ速度が速く、しかも光魔法に秀でた竜だ。同じ光魔法を得意とするファナにとって対応が難しい相手である。そして、俺たちのパーティー全員が苦手とする相手でもある。

 こいつ。接待しろとは言わないが、いやがらせする気満々じゃないか。


「私もそれに一票。」

 フェリが追随する。


「フェリまで、何でだよ。」

「その女は危険よ、フィル。」

「エイブリー姫から太鼓判押されたんだぞ? 素行は確かに危険らしいけど、大丈夫だろ。」

「そうじゃないわ。貴方のて、て、て、貞操の話。」

「うん、うん。恥ずかしいのはわかるし可愛いけど、もっとさらっと言った方が恥ずかしくないぞ?」


 このダークエルフは、いちいち乙女な反応を見せるから、ついつい愛でたくなってしまう。俺は瑠璃の背中に乗って、背伸びしてフェリの頭を撫でる。

 されるがままのフェリ。これはいいものだ。


「それに気にしなくていいぞ。俺は精通してないから、襲われない。それに、もしもの時はフェリが守ってくれるんだろう、ご主人様?」

「も、もちろんよ。私は貴方の主人だもの。」

「そこ、二人の世界に入らないでくれるかな~。」

「兎と二人にされると困りますわ。うっかり喧嘩してギルドの壁を破ってしまいそうですの。」

「おい、やめろ。」


 目を離したら喧嘩とか、幼稚園児かな?


「わたくしはこれを引き受けたいと思いますわ。」


 ファナがゴースト系のクエストのエリアから紙をはがして見せる。


「「「お化け屋敷ホーンテッドマンション?」」」


 そこには、ゴースト系の魔物が跋扈するようになった建物のスクラップ依頼があった。


「わたくしの本領は悪霊や生ける屍の浄化。ここはまず、長所を見ていただきたいと思いますの。」

「……確かに、そうだな。これにしよう。」

「僕は反対だな~。」

「何でだ? トウツ。」

「得意分野で勝負しようだなんて、自分の実力に自信がない証拠じゃないの~?」

「トウツ、ファナの実力はすでに教会やギルド、エイブリー姫が認めている。今回はお前が見定めたいと言うから討伐に出てるんだぞ?」

「でもね~。」

「怖いんですの?」

「あ?」


 ファナとトウツが一触即発になる。


「うふふ。貴方はこのパーティーでのエースだそうですわね。わたくしが入れば二番手。残念ですわねぇ。このクエストが終わることには、フィルは身も心もわたくしのものですわ。」

「なめたことを言うねぇ、新人フレッシュ。お手並み拝見といこうか。」

「決まりですわね。」

 ファナがクエストを受注しに行く。


 心配しなくても、「きゃー!ファナちゃん強い!しゅき!」なんてチョロインじゃないよ? 俺。







「いい加減にパーティーの名前を決めろ。」


 受注するときにそうため息とともにぼやいたのはラクス・ラオインギルドマスターだ。

 言われてはっとする、俺、トウツ、フェリ。隣のファナに「貴方たち、ノーネームで3年も活動してましたの?」と苦言を呈される。

 いかんいかん、これは早々に決めなければなるまい。







「で、何故俺のところに来る。」


 難しい顔をして酒をあおったのは、ルーグさんだ。体が動くたびに、無くなった左腕の袖が揺れる。

 少し困った顔をして、ロッソも隣で弱い酒を飲んでいる。

 トウツたちは先に帰った。ルーグさんと知己を結ぶのが嫌なのだろう。テーブルの下には瑠璃が昼寝をしている。


「いえ、かっこいいパーティー名と言えばルーグさんが最初に思い浮かんだんですよね。」

「お前、俺が兎に嫌われてるの知ってるだろ。あと、あの普人族のふりしてる女にもな。」


 ルーグさんと共にクエストをした時は、フェリはまだイヤリングをしていなかった。だからダークエルフであることは知っている。もちろん、黙ってもらえるように頼んでいる。口止め料を払おうとしたら、「もう貰っている。」と拒否されたが。

 はて、俺はいつルーグさんにお金をあげたのだろうか?


「それとこれとは別ですね。俺はルーグさんに対して何か思うことはありません。むしろ、ロッソとまた出会えたのは貴方のおかげですし、感謝してるくらいです。」

「まぁまぁ師匠、一緒に考えましょうよ。」

 ロッソがにこやかに言う。


 いつも笑顔のロッソと、仏頂面のルーグさん。何ともちぐはぐに見えて、バランスのとれた師弟である。俺とマギサ師匠よりかはまともな関係性に見える。


「ルーグさんの前のパーティー名、何でしたっけ?」

赤錆びた刃レッドルストクリンゲだな。」

「そう、それです。どういう意味ですか?」

「……俺の髪の色だ。錆びの意味は、ならず者の集まりという意味だな。まともに手入れされていない刃こぼれしたジャンクだと、名乗っていた。自虐めいた、糞みたいなネーミングだよ。」

「……あの人たちは、ならず者から脱したんですかね?」

「少なくとも、殺人や強姦はしなくなっていたな。」

「…………。」


 分からない。今となっては、彼らへの理解を深めることができない。単純に人間として屑だから俺の足にナイフを刺して逃げたのか。はたまた、ならず者たちを救い上げて役割を与えたルーグさんを確実に逃がす行為だったのか。

 俺はルーグさんではない。

 だから、推測することしかできなくて、そしてそれはあまり意味のないことなのだろう。もう彼らはこの世にはいないのだから。

 ルーグさんが酒をあおる。

 ロッソが不安そうな顔で俺とルーグさんの顔を交互に見る。


「……やっぱり、パーティー名を決めてもらっていいですか?」

「今の話を聞いて、よく俺に決めてもらおうと思ったな。」

「いいじゃないですか。」

 俺は笑う。


「……モノクローム。」

「モノクローム?」

「あいつらは俺の髪色を見てパーティー名を決めた。お前らもそうだろう。全員が、白か黒だ。」


 言われてみればそうだ。俺は黒髪。トウツは白髪。フェリも暗色の肌に白髪。瑠璃も見た目だけならば黒い犬。ファナも灰色だ。ルビーがもし周囲の人間に見ることが出来れば、無彩色の中にいる、文字通りの紅一点になっていただろう。


「いいですね。確かに、それはいい。俺たちをはっきり現した言葉だ。」

「満足したか? じゃあ、帰れ。」


 ルーグさんが隻腕でひらひらと手をふる。


無彩色に来たる紅モノクロームアポイントレッド。これからは、そう名乗りますよ。」

「あ? あかはどこから来たんだよ。」

「うちのパーティーに、帰ってくるやつがいるんです。俺はそいつを待っています。」

「どんな奴だ?」

「一番、代えのきかないメンバーです。」


 トウツも、瑠璃も、フェリも、ファナも。どのメンバーも代えはきかない。でも、ルビーだけは特別だ。

 俺がこの世界に生まれて、初めて出来た友達。


「強いのか?」

「そうですね、ある意味最強の存在です。」

「お前のパーティー、あれ以上強くなるのかよ。引くわ。」

「えぇ、大きくなりますよ。俺たちの存在は。」

「ストレガは伊達じゃねぇな。」

「恐縮です。」


 パーティー名が決まった。

 心なしか、周囲の赤い魔素がいつもよりも華やいで見えた。

 きっと、気のせいではないだろう。


 きっと。

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