第144話 触手!倒立!ビーム!5

爆散掌底バーンナックル!」


 円陣をすり抜けそうな倒立するねずみオモナゾベームをロッソが殴り倒した。


「やるじゃねぇか!坊主!」

「はい、ありがとうございます!」

「あと少し持ち堪えるわよ!数も減ってる!ストレガとイナバが来ればこっちの勝ちよ!」

 タウラヴが叫んだ。


「オーケー、リーダー代理!」

「任せろリーダー代理!」

「美人だなリーダー代理!」

「デートしてくれ代理!」

「代理言うな!」


 余裕が出てきた周囲の大人に突っ込みたくなるが、会話が出来るほどの余裕はロッソにはない。盾持ちの間に立ち、ねずみが陣形の中に入ってこられないようにけん制する。


「フェリファンさん!2人はまだなの!?」

 タウラヴが叫ぶ。


「心配しないで。もう来た。」

 飛びついてきたねずみを爆散させながら、フェリが言う。


 フェリが斜め上を見る。その目線を他の冒険者たちが追った。

 そこには、巨大樹の太い枝にフィルとトウツがいた。何故かトウツがフィルをお姫様抱っこしている。


「真打登場だ!クエストを終わらせるぞ!」

「何でお姫様抱っこなんだ?」

「どうして抱っこしてんだ?」

「何でお姫様抱っこなの?」

「可愛い……。」

「うるせー!」


 フィルがねずみたちに襲い掛かった。

 倒立するねずみオモナゾベームの討伐が終了した。






「おいリーダー、乾杯の音頭をとれよ。」とウッカさん。

「何言ってるんですか。俺は未成年ですよ?」と俺。

「リーダーだから貴方がすべきよ。」とタウラヴさん。

「その通りだ。働きも君のパーティーが一番だった。」とシャーフさん。

 ルーグさんも静かにうなずいている。


「えー、では。不肖、フィル・ストレガが音頭を取らせていただきます。」

「長い!」

「巻け巻け!」

「かんぱーい!」

「もうビールは樽ごとあるぞ!」

「「「でかした!」」」

「乾杯は杯を乾かすと書いて乾杯と読む!飲まなきゃ酒蔵に失礼だ!そうだろ!?」

「「「おうよ!」」」

「えぇ……。」


 やはり、冒険者は人の話を聞かない。俺に音頭を取らせる辺り、階級が上の冒険者を立てるという最低限の仁義を守っているので、怒ろうにも怒り辛い。

 普人族の男たちと半羊族の男たちが一気飲みバトルを始める。

 お酒は20になってから。一気飲み、駄目、ゼッタイ。自分の体のキャパを把握して飲もうね。酒は飲んでも飲まれるな。

 あの豪快に酒におぼれている集団にはとてもじゃないが、入れない。

 結果として、ゆっくりしたペースで飲んでいる狩猟する雌犬カッチャカーニャのテーブルに混じることになる。


「お疲れ様です。」

「あら、リーダー。お疲れ様。」

 タウラヴさんが上品にジョッキをかかげる。


「リーダー代理、助かりました。」

「あそこの2パーティーに代理、代理と連呼されるのよ。どうにかしてくれない? リーダー。」

「クエストは終わったので、俺があの人たちにどうこう言う権利はもうありません。」

「それを言うなら、私だってもうリーダー代理ではないわ。」

「すいません。」

「もう。」

 タウラヴさんが困り眉を作る。


「でも、タウラヴさんのところがうちを除けば一番冒険者ランクが高いので仕様がないじゃないですか。斥候スカウトや後衛が指示役の方が意思伝達もスムーズですし。」

「わかってるわよ。全員斥候の隙間産業で、ここまで昇進できるとは思わなかったわ。やってみるものね。」

「パーティーの色がはっきりしているので助かりましたよ。」

「あら。まだ子どもなのにお上手ね。」

「うちのフィルに唾つけておくのは駄目だからね~。」

 兎の酔っぱらいが面倒な絡み方をしてきた。


 肌が透き通った白なので、朱がさしているのが分かりやすい。日本人は酒に弱い人が多いが、ハポン人もそうなのだろうか。


「唾つけるもなにも、こんな小さな子どもには手を出さないわよ。」

「ほんと~?」

「そうだぞ、トウツ。自分の常識を疑おうな。」


 十歳未満に手を出そうなんてやつは、早々いない。


「でもリーダー、フィル君のところとは定期的に連絡とり合いましょうよ。協力すればいいクエストをたくさんとれますよ。」

 若手の狐耳の女の子が絡んでくる。


 少し頬が赤い。酔っぱらっているのだろう。


「ちょっと。身も蓋もないことを言わないで。」

「いえ、助かります。どんどん協力しましょう。うちの本職は斥侯がいないので、トウツがいないときはお世話になることが多いかもしれません。」

「ちょい待ち。それは聞き捨てならないなぁ。フィルがクエストする時はいつも僕が同行するから大丈夫だよ。フェリちゃんもそう思うでしょ?」

「ええ、もちろん。私たちのパーティーは3人と1匹で完結しているから大丈夫。」

「えー、回復役ヒーラーなしでですか?」

「タンクなしでですか?」

「本職の斥侯なしでですか?」

「というか、パーティーの最低人数は4人が定石でしょう?」

 狐耳のお姉さんたちから怒涛の突っ込みが入る。


「あー、あー、聞こえな~い。」

 トウツが兎耳を手でふさぐ。


「それを言うなら、貴女たちも斥侯だけじゃないの。」

 フェリが言う。


「うちは特化してるんで大丈夫ですぅ~。」

「他のパーティーと協力する前提のチームだから問題ナッシン!」

「そんなことよりリーダー、やっぱ協力すべきですよ。ちゃんと稼いで早く引退しないと、私たち嫁の貰い手がなくなっちゃいます!」

「「そーだそーだ!」」

「そんなこと言われても。男女トラブル避けるために女性だけって、みんなで話し合って決めたじゃないの。」

「じゃあ合コンだ!私たちは合コンを所望します!」

「「さんせー!」」

「その合コンにうちのフィルは呼ばないでね。」

「男児に手を出すほど見境なくないわよ!」


 トウツ、言われてるぞ。

 女性陣が酒も口の回り始めてヒートアップし始めた。

 あ、これ、男性陣に混じった方が安全だこれ。


「瑠璃、あっち行こう。」

『わしもそうした方がいいと思う。』

「お前は女の子だから残ってもいいんだぞ?」

『あっちのがましじゃ。』


 男衆に混じると、ロッソが絡み酒の男たちに捕まっていた。


「フィル!助けてくれ!」

「合点。」

「ストレガの弟子!いいところに来た!お前も飲め!」

「だから未成年!アルハラ反対!あと俺はフィルです!」

「よしわかったフィル、飲もう!」

「わかってねぇ!」


 俺が突っ込む横でロッソが笑う。

 小さなテーブルを見つけてロッソと一緒に退避する。2人と1匹でジュースをちびちびと飲む。ちなみにロッソはこの国だと成人扱いだが、上手く酒をかわしていた。


「飲まなくていいのか?」

「ここで潰れたら学園の寮に帰れないよ。師匠も帰ったし。」

「ルーグさん、帰ったのか。」

「ああ。」


 残念。少し話したかったのに。瑠璃の戦闘フォローも結構してくれていたと聞いたのだが。


「今回のクエストはどうだったんだろうな。俺はいつも師匠と2人でクエストしていたから、多人数でのクエストは初めてだったんだ。」

「今まで機会はなかったのか?」

「ああ、今回だけだよ。師匠が他のパーティーと関わろうとしたのは。今までは師匠の戦いを眺めるか、俺の戦いを師匠が見てアドバイスするかのどっちかだった。」

「なるほど。」


 ルーグさんは「たまたまクエストが被った。」と言っていた。あれは本当だったのだろうか。小さな疑問が脳内にポップアップした。


「で、今回のクエストはどうよ? A級冒険者として。」

 ロッソがずずい、と顔を近づける。


「かなり成功の部類になると思うよ。1回目の調査で接敵、討伐。報酬は上乗せも含めてフル以上にもらっている。死者も怪我による脱落者もなし。高難度のクエストで、ここまで上手くいったのは初めてだと思う。」


 今までは横やりが入ったりクエスト内容が違ったり自爆されたりと、散々だったからな。

 ちなみに瑠璃はビームが撃てるようになったし、触手も生やすことが出来るようになった。『生やして見せようかの?』と聞かれたが、断固として拒否した。


「自信をもって、いいのかな。」

「もっていいと思うよ。俺もロッソも。ねずみを3匹倒したんだろう? すごいじゃないか。」

「お膳立てが完璧だったからさ。」

 ロッソが肩をすくめる。


「それでもさ。」


 確かにお膳立てはすさまじいものがあった。盾持ちタンク集団によるヘイト稼ぎと敵の分断。その情報を逐一報告する斥侯集団。それに従い敵を粛々と潰す火力担当たち。

 これだけ連携出来るメンツがそろったのは今まで経験がない。斥侯は俺やトウツが出来るとして、タンクや回復役ヒーラーは必要だと実感したものだ。

 特性としては瑠璃がタンクはこなせるかもしれないけども。


「でも、今回はメンツが良すぎた。これに慣れちゃいけないと思う。」

「確かに。」

 ロッソが快活に笑う。


「おうおう!褒めてくれるじゃねぇの!」

 ウッカさんとシャーフさんが肩を組んで近づく。


「助かりました。このメンバーでまた、クエストがしたいですね。」


 黒豹師団パンサーズディヴィジョンの人たちもそうだけど、出来るだけ交友を広げておきたい。


「もちろん、こっちからお願いしたいくらいだ!あんたらは金払いがいいからな!」

「そうなんですか?」

「ここまで平等に報酬を配るやつなんざそうはいねぇよ。普通あんたらが一番もらって、次に狐の姉ちゃんたち。最後に俺たちC級が普通だ。まさかほぼ等分とはな!」

「うちは人数が少ないので。ウッカさんたちは多いでしょう?」


 ウッカさんとシャーフさんが目を丸くする。


「そんな理由で均等にわけたのかよ。」

「あきれたわ。」

「お人よしが過ぎるぜ。」

「人生損するな。」

「詐欺にあうなよ?」


 めたくそに言いすぎじゃない?


「うちには警戒心の強い兎がいるから心配無用ですよ。」

「あの姉ちゃんがいるなら確かにな!」

「傭兵崩れのやつの腕を切った兎人の女って、絶対あの姉ちゃんだろ!?」

「ありゃスカッとしたな!」

「五月蠅かったもんな、あいつら!」

「今度、礼を言っておいてくれよ!」

「まぁ、言っておきます。」


 いつの間にかトウツが有名人になっていた。いや、当たり前か。あいつ目立つもんなぁ。見た目も性格も振る舞いも性癖も。

 ちなみに、狐のお姉さんたちとは「知り合いになったいい男たちを紹介する代わりに、フィルを合コンに誘わない。フィルと接触するときはトウツかフェリを通す」という協定がなされていた。


 意味不明である。

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