第143話 触手!倒立!ビーム!4
「
ルーグがねずみを高熱のガントレットで殴り倒す。倒れたねずみの触手と尻尾が痙攣してうねうねと動く。
「本来の前足と後ろ足は退化して細くなってんのか。足の代わりになっている触手を潰せば動きを止められるが、数が多すぎだな。」
ルーグの視界の端では、
「このねずみ共も意味わかんねぇが、あの使い魔も大概だな。」
ルーグが独り言ちた。
「打ち漏らしが少しずつ右から来てる!どうする!? 大将!」
シャーフさんが叫ぶ。
「
「正面からの敵はどうするんだ!」
「俺とフェリで全て迎撃します!」
「まじか!」
「
フェリが錬金爆弾を投げつけ、正面のねずみたちが吹っ飛ぶ。
「流石A級、えげつねぇ。」
ウッカさんがうなる。
「フィル君、私たちは?」
「タウラヴさんたちは接近するねずみたちの位置を盾持ちに報告してください!長物の武器があるメンバーや遠距離魔法が出来るメンバーは迎撃に参加!」
「了解。」
狐耳のお姉さんたちが、それそれ
「それにしても、左から打ち漏らしが全然来ないわね。あの忍びの兎、そうとうできるのね。」
タウラヴさんが言う。
「うちのエースですから。」
「あら、貴方がエースではないの?」
「まさか。」
「
「ラクスギルドマスターが言ってた通り、不測の事態が起きていますね。」
「予想通りに不測の事態って矛盾してないかしら。」
「本当ですよ。」
ねずみたちの数は多い。だが、確実にその数を減らしている。
いけるはずだ。
「ヂュウ“ウ”ウ“ウ”!」
巨大な
「あれ、群れのボスですよね。」
「あれを倒せばクエストクリアってとこかしら。」
「フェリ!」
「
フェリの錬金爆弾が巨大ねずみの鼻先で炸裂するが、触手で地面を弾いて横に飛び退き、かわされる。
「見た目の割に動きが軽快すぎんだろ!」
「あの速度と重量に対応出来るのは、うちにはいないわ。」
「すまん!うちもだ!」
「俺たちも!」
タウラヴさんの言葉に、ウッカさんとシャーフさんも反応する。
「タウラヴさん!トウツを呼び戻してください!」
「あおーん!」
横でタウラヴさんが咆哮する。
「シャーフさん!盾持ちは常に大ねずみがいる方向の守りを厚く!」
「おうよ!」
「他のねずみのけん制は
「任せろ!」
俺は盾持ちの円陣から離れる。
「おい大将!陣形から離れるのは危ねぇ!」
「あの大ねずみを放置する方が危ないです。臨時リーダーをB級のタウラヴさんに任せます!トウツが戻るまでは、俺があいつを引き付ける!」
「マジか!」
大ねずみに肉薄し、双剣で袈裟斬りする。
大ねずみは触手を地面にたたきつけ、上空に跳び、木々の間を高速で動き始めた。触手で木の幹を捕まえては、縦横無尽に飛び回る。
「触手が長いから立体的に動けるのかよ!」
風魔法で攻撃するが、かわされるか、いなされるかで全くダメージにならない。
「それなりに防御力もある。遠距離攻撃だと致命傷は与えられない。一番強力な火魔法も森の中だと難しい。俺はフェリみたいに火力調整も得意じゃない。ドリルは多分、かわされる。」
————となると。
「俺も飛ぶ!
身体強化と風魔法で体を操り、俺も木々の間を飛びながら大ねずみに肉薄していく。
「ヂュヂュヂュ!」
大ねずみが
「移動中にモーションが必要な攻撃は愚の骨頂!」
かわしながら更に距離を詰める。
「もらったぁ!」
双剣を振りかぶる。
ガギンと、金属音が森に残響した。
手元を見ると、大ねずみの触手が双剣を白羽どりしているではないか!
「そこも
双剣をねじって距離をとる。
すると大ねずみは尻尾を木枝に巻き付け、宙吊りになる。鼻先の触手に魔力が収束しているのが見える。
「おい待て。まさか触手全部からビームが出るのか?」
「ヂュヂュヂュヂュヂュ!」
目の前にフラッシュが連続で点滅する。10本ほどある触手からそれぞれ熱光線が放たれ、飛んでくる。
「うおおおお!」
木々の間を高速で飛びながらかわす。俺の空中機動の空路をビームの射線が追いかけてくる。追尾性能つきだと!?
追いつかれる!
木の後ろに一瞬隠れ、すぐに空路を切り替える。一瞬ビームが俺を見失うが、大ねずみはすぐに気づき、射線を修正していく。よし、予想通りオートでなくリモートのビームだ。10本あるビームのうち、一本が俺の進行方向にきた。俺はきりもみ回転しながらギリギリかわす。
「アースドラゴンより弱い!でもめんどい!」
陣形から離れて正解だった。周りの冒険者を庇いながらこの攻撃は完封できない。
どうする? 被弾覚悟で近づけば、倒すことができる。だが、このくらいの敵は無傷で倒さなければ、A級とは言えないだろう。
だが待て。考え直せ。今日の俺の立場は何だ? 討伐リーダーだ。であれば——。
「ここは怪我覚悟で倒す。他のB、C級冒険者の安全を確保する。」
「ま~たフィオが白いベッドを欲してるよ。」
「え?」
振り返ると、胸があった。
ぼふんと顔が包まれる。息が!息ができない!このいい匂いはトウツだな!
「ふももも!ふがふが!」
「何言ってるかわかんないよ~。」
「ぶはっ!来るのが遅い!」
「ねずみ多すぎたからねぇ。おっと。」
俺とトウツの間をビームが通過する。
「よっしゃ。」
トウツが俺をお姫様抱っこする。
「逆!逆!立場が男女逆じゃない!?」
「あはは~。」
視界が高速でぶれる。
トウツが高速移動を始めたのだ。俺がギリギリでかわしていた熱光線を、軽々とかわしていく。
「相変わらずはえぇな。」
「早いのは足じゃなくて、判断だよフィオ。」
「おい、名前。」
「皆からは離れてるから本名でいいじゃ~ん。」
軽快なステップで熱光線をかわすトウツ。
当たれば普通の人間はすぐに切断され、断面がミディアムになるであろうビームだ。あまりにもトウツがノンストレスでかわすものだから、そういうテーマパークみたいな気分になってくる。
「触手の動き見れば大体わかるだろう? インファイトはカウンター決めるためにギリギリでかわすべきだけど、遠距離魔法をギリギリでかわすやつは二流だよ、フィオ。」
「いつまでも逃げてたらキリがないぞ。どうするんだ?」
ちなみに俺は防御を固めて一発もらいながら突貫するつもりだったがな!
「僕、一回斬ってみたかったんだよねぇ。ビーム。」
「え“。」
俺を降ろして、トウツが静かに抜刀する。
以前は全く見えなかったトウツの抜刀。今なら刀身の軌道が見える。
「来なよ、ねずみちゃん。」
「ヂュ~ヂュ~ヂュウ”ウ”ウ”ウ”!」
熱光線が当たらないことにイライラしていたのか、大ねずみが10本の触手の熱光線を一本に束ねて発射する。
ねずみとトウツの間に赤いラインが敷かれる。そのラインが、綺麗に二股に分かれるのが見えた。赤い熱線を、綺麗に両断しながらトウツがねずみとの距離をゼロにした。
大ねずみは慌てて尻尾に魔力を込めるが、その尻尾が切断された。触手が全て、根元から切断。前足が切断。鼻先が、首が、胴体が全てまとめて分断されていった。
トウツが納刀すると同時に、倒立していた巨大ねずみだった肉片がどちゃどちゃと地面に落ちる。身体が分断されたのに遅れて気づいたのか、血液が噴き出す。
「フィオ、今の見えた?」
「見えたよ。身体が追いつくのはまだ時間がかかりそうだ。」
「見えるだけすごいじゃん。強くなってるよ。」
「そうか?」
「そうだよ。……ふふ~ん。」
「何だよ? 上機嫌だな。」
「別に~。やっと、フィオが傷つく前に助けに入れたからねぇ。」
「何だそんなことか。ふぁにふるんだ!かほをさわんにゃ!」
「生意気。怪我を減らしてから言いなさい。」
「ふぉんなことより!陣形に戻るぞ!」
「あいあ~い。」
俺とトウツは、全速力で森の中を駆け抜けた。
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