第141話 触手!倒立!ビーム!2

「お前さんが欲している性能の長剣を作るならば、大きく分けて3つの素材がいる。」


 そう言ったのは、鍛冶師のシュミットさんだ。


「高い強度の素材、魔力を流しやすい素材、そして魔力の収束を加速させる素材だ。」

 シュミットさんが指折り数えながら言う。


「なるほど、どのクエストを受ければ素材は手に入りますかね。」

「1つでいい。」

「1つだけでいいんですか?」

「もうすでに2つはそろっているからだ。頑丈な素材はアースドラゴン輝石種とタラスクの甲羅で十分だ。十分どころか、無二の素材だな。魔力を流す素材には、こいつを使う。」

 シュミットさんが、イリスから貰った木片を手に取る。


「それが?」

「わからないで持ってきたのか?」

「貰い物なので。」

「はぁ!? 貰い物だぁ!?」

「そんなにすごい物なんですか?」

「世界樹の流木だよ、こいつは。」

「世界樹!」


 知っている。というよりも、俺たちエルフが守護している対象じゃないか。自然に多大なる恩恵を授ける大樹。無理に刈り取ると、周囲の森が滅びるので、悪党ですら手だしをしない聖域の樹。

 なので、世界樹の一部は意図して手に入るものではない。たまたま落ちたり川に流されたりしたものを拾うくらいしか入手経路がないのだ。

 それ以外の入手経路があるとすれば、それは闇ルートである。主犯は速攻捕まって打ち首である。


「誰だよ、こんなものをお前に寄越したのは。」

「えっと、友達です。」

「どんなスーパーリッチだよ、そいつぁ。」


 リッチも何も、王族でございます。

 それにしてもイリスは、何でこんな高級なものを俺に渡したんだろう。ちょっと誕プレにしては重すぎない?


「何でこんな物をくれたんだろう?」

「心当たりがないのか?」

「いえ、あんまり。」

「渡した相手は女か?」

「ええ、まぁ、一応。」

「そりゃ、愛の告白じゃねぇのか?」

「まさか。」


 イリスが俺に? ないない。


「もしくは、活かしてくれる人間に託したか、だな。」

「活かす?」

「こいつはな、魔力伝導率が良すぎて半端な腕の職人じゃ加工できねぇのよ。」

「そんなに難しいんですか?」

「おうよ。水の精霊に気づかれないように水車を川に沈めるくらいには難しいな。」


 異世界の比喩わかんねぇ。異文化吸収しないと。すーはーすーはー。


「この都じゃあ、これを加工できるのは俺くらいじゃねぇかな。そして俺は客を選んでいる。これを渡した人物は、お前がここに来ることを見越したんじゃねぇのか?」

「あー、ありそうです。」


 イリスの背後でエイブリー姫がほくそ笑んでいるのが見える見える。あの人、妹をだしに使いやがったな。


「そういうわけだ。必要な素材は魔力を収束させる素材のみ。」

「なるほど。」

「今だと、新種の魔物が出てるらしいから、そいつがねらい目だな。」

「新種?」

「そうだ。尻尾からビーム撃つらしいぞ。ビーム撃てるってこたぁ、魔力の収束に長けているってことだ。」

「どんなびっくり生物ですかそれ。」

「俺もそう思うがな、そいつ以外となると、国の端っこまで遠征しないと難しい。」

「では、そいつを討伐しますね。」

「ああ、そうしてくれ。加工は任せろ。」

「よろしくお願いします。」




 というわけで、倒立するねずみオモナゾベームの討伐に着手したわけである。

 メンバーは俺たち、ルーグさんに14歳の新人ロッソ、狐型の犬人族の女性パーティー、普人族の男性パーティー、羊人族サトゥロスの男女混合パーティーだ。


「フィル・ストレガといいます。簡単に作戦を立案したいと思います。一応A級パーティーは俺たちだけなので、頭は俺たちがするということで異論はないですか?」

 俺が音頭をとる。


 普人族の男が手を上げた。

 丸太の様に太い腕をした、いかつい男だ。


「はい、どうぞ。」

「C級の戦士めいた木こりファンテ・ランバージャックスリーダーのウッカだ。あんたらがリーダーということに異論はない。だが、お前さんはまだガキだろう? 冒険者ですらなく、荷物持ちポーターだとか。何でお前さんがリーダーなんだ? 後ろの姉ちゃんたちは何だ? 飾りか? ストレガの弟子とはいえ、俺たちの命を預けていいのか?」

「なるほど。」


 周囲を見ると、犬人族も羊人族も同じように疑問を浮かべた顔をしている。当然の疑問だろう。


「では、俺の魔法を見て下さい。」

 俺はそう言い、魔力を収束させる。


 空気の赤い魔素をすぐに解析し、自分の魔力の触手を伸ばす。みるみるうちに魔力は肥大化し、熱を帯び始める。圧倒的な熱量と密度を誇る火球が頭上に顕現する。その場にいる人物は全員、口をあんぐりと開ける。

 平静なのは俺のパーティーメンバー以外には、ルーグさんだけだ。

 火球はどんどん体積を膨らまし、天井につきそうになる。


「待ってくれ、わかった。わかったから、あんたがリーダーでいい。」

「わかっていただいて良かったです。」

 火球をしぼませながら言う。


「おっかねぇな。すげえガキだ。オーケー、あんたにゃ逆らわねぇ。」

「協力的で助かります。完全に保証は出来ませんが、今回クエストに参加する人間は、どのパーティー所属にも限らず、出来る限り見捨てずに助けることを約束しましょう。撤退になった時も、我々が殿をつとめます。他のパーティーはそれでよろしいですか?」

「B級パーティーの狩猟せし雌犬カッチャカーニャリーダー、タウラヴよ。うちも貴方に従うわ。」

 黒い狐耳のお姉さんが言う。


 何だあの綺麗な鋭角三角形の耳。すっごい触りたい。


「C級パーティーの羊重歩兵団ムートンホプロンリーダー、シャーフだ。うちも従う。」

 下半身が頑強な半羊族サトゥロスの男が言う。


 その場にいる全員の視線がルーグさんに向かう。


「俺たちも当然、従うぜ。」

 隣のロッソも頷いている。


「決まりですね。陣形と報酬の分配についても決めておきましょう。」


 始めはどうなるかと思ったが、上手くまとまりそうだ。

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