第138話 学園生活21

「アル君すごい!A級の魔物と戦ったんでしょう!?」

「フィル君も戦ったって!ゼータ先生が褒めてた!」


 月曜日に学園へ登校すると、俺とアルはクラスのみんなに囲まれてやいのやいのと騒がれた。

 俺に群がるのはほとんどが男子で、女の子はほとんどアルの方へ向かっている。解せぬ。

 クレアは女の子に囲まれているアルをハラハラした様子で見つめている。そんなに心配なら、自分も混ざればいいのに。可愛い。


「やぁ。」

 ベヒトが人をかき分けて話しかけてきた。


「よう。」

「すごい怪我したんだって? 無事で良かったよ。」

「あのくらいの怪我は年に数回してるから平気だよ。」

「ははは!嘘だろ?」


 HAHAHA。嘘だったら良かったねぇ。


「ごめんな、逃げて。」

「謝る必要はないぞ。対魔物で一番大事なのは?」

「生き残ること。」

「そう。で、ベヒトは今生きている。ほら、お前の勝ち。」

「……必ず借りは返すよ。」

「大人になって露頭に迷ってたら騎士に推薦してくれ。」

「ははっ。ストレガの弟子が仕事見つからないわけないだろ?」


 それがありそうなんだよなぁ。

 どうも俺にはソーシャルスキルが足りないらしいことが、死んでみてようやくわかった。こないだまでは借金もこさえていたし。


「また今度、組手してくれよ。」

「ロスに勝てたら相手してやる。」

「言ったな?」

 そう言って、ベヒトが友達の所へ帰っていく。


 いい少年だ。きっと強い騎士になる。


「よ、大変だったみたいだな。」

 入れ違いで、ロスが現れる。


「本当だよ。」

「アルも、しばらくは女の子が離れなさそうだな。」

「モテモテだな。」

「アルは人気者だからな。」

「だな。」


 あれで種族が天使ではなくて普人族なのはおかしい。


「ロスの方はどうだった?」

「あんまり楽しくなかったよ。高等部生がそつなくこなしちゃうもん。」

「そっちの方が、俺はよかったけどなぁ。」

「俺はA級の魔物が見てみたかった。」

「見たらそんな余裕なくなるぞ。」

「多分そうだろうな。でも怖いものは見てみたいんだよ。」

「ああ、わかる。」


 怖い物見たさってあるよね。でも、あんな怨念の塊は進んで見たくないよなぁ。怖い物っていうのは、知らないからこそ興味が勝ってしまうものである。実際に見てしまったら未知が既知になってしまい、恐怖のみが残る。

 出来れば死霊高位騎士リビングパラディンとは二度と会いたくない。が、魔王を倒す過程で、必ずまた戦うことになる気がするのだ。

 ルークさん、早く倒してくれないかな。英雄なんだからさ、ぱぱっと倒してくれよ。

 ちなみに、学園の実地訓練にやつが乱入したことを知ったアルクさんは、ルークさんの尻を蹴りながら探索に向かったらしい。ルークさん、南無。


「今日の訓練はどうする? 怪我の具合は大丈夫か?」

「いや、するよ。」

「本当に? 大丈夫か?」

「週末にはクエストに出かけるから、慣らしておかないと。」

「フィルっていつも動いてるよな。休んでいる時ってあるのか?」

「動いてる方が落ち着くからな。」


 気分はマグロだ。まな板の上に乗らないようにしないとな。


「へぇ、俺も真似しないとな。」


 いや、真似しない方がいいと思うよ?

 でも、ロスも背負っているものが重いから、動いている方が気は楽になるのかもしれない。


「とりあえず、リハビリがてら組手するか?」

「よっしゃ!」

「何言ってるのよ、フィル。ハイレン先生に許可貰わないと闘技場に行けないわよ。」

 イリスが会話に入ってきた。


「……マジ?」

「何その返事。なんていうの? ほごかんさつっていうんだって。放課後に保健室に行って、どーさかくにん? っていうのを合格しないと運動は駄目なんだって。」

「えぇ……。こんなん怪我のうちにはいらないぞ。ほれ、ちゃんと繋がってるだろ。」

「な、何服脱いでるのよ!」

「いやほら、傷口。」

「そんなの見せないで!馬鹿!変態!」

 イリスが顔を真っ赤にして悪口を叫ぶ。


 8歳の少女に罵倒されると一番傷つくよね。誰かそういう論文書いてくれないかなぁ。


「フィル。」


 後ろを向くと、クレアが立っていた。妹の方から俺に声をかけるのはレアイベントである。お兄ちゃん嬉しくなっちゃうなぁ。今日の運容量の80パーセントくらいは消費しちゃったかな?


「無理、しないで。ハイレン先生の言うこと聞いて。」

「……はい。」

「よろしい。あとね——。」


 クレアが俺の耳に小さな口を近づける。


「アルのことは黙ってて。お願い。」

「言われなくとも、黙ってるよ。俺がクレアの嫌がることするわけないじゃないか。」

「お母さんとお父さんにはばらした。」

「それはもう、ほんとすまん。」


 仕様がないじゃん。俺はレイアには笑って過ごしていて欲しいんだ。前世ではマザコンではなかったはずなんだけどなぁ。


「何だ、組手は出来ないのか。」

「ロスも、けが人を組手に誘わないで。」

「いやでも、フィルなら何か出来そうじゃん?」

「確かに、この変態なら平気そうよね。」

「イリス、もうちょっと俺に優しくしてくれてもいいと思うぞ?」

「もう!何で助けてくれないの!」


 アルが女の子の群れから飛び出してきて、俺の腰に抱き着いた。

 うわぁ!ときめき過ぎて心臓止まるかと思ったわ!


「アル。次抱き着く時はちゃんと宣言してくれ。ちゃんと受け止めるから。」

「え? う、うん。」

「あー!フィル君、アル君を独り占めしないで!」

 クラスの女の子が指さして言う。


「俺のルームメイトだからな。ざ~んね~ん。」

「もう!」


 ふははは!アルのルームメイトという特権は羨ましかろう!俺はこの学園にいる間、絶対この権利を手放さんぞ!

 ——8歳女児に心理的マウントとるのって、虚しくなってくるな……。

 あとクレア、物欲しそうな顔をしないで。これはお兄ちゃんのだ。しばらくしたらあげるから。


「そういや、フィルは週末のクエストって何の魔物を倒すんだ?」

 ロスが聞いてくる。


「いや、それがな、よくわからん。」

「は?」

「フィルが知らない魔物って、珍しいわね。」

 イリスが言う。


「俺はそんなに知識があるわけじゃないぞ。」

「魔物学で成績トップのくせに。」

「そりゃお前、森で実物見て過ごしたからな。」


 あと、マギサお婆ちゃんとかいう生きた魔物ペディアと一緒に住んでいたし。


「フィル、どんな魔物なの?」

「アル。抱き着いたまま脇の下から上目遣いしないでくれ。色んなものをはき違えてしまう。」

 あと踏み違えてしまう。


「え、うん。いいけど。」

 アルがそう言って、すっと離れる。


「えっとな、倒す魔物なんだけども、依頼主の説明だと倒立するねずみらしい。」

「「倒立するねずみ?」」


 その場の全員が、怪訝な顔をして俺を見た。


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 後書きではありませんが。

 気になる方はナゾベーム、もしくは鼻行類でググってみてください。大体そういう魔物が出てきます。いつも読んでいただき、感謝!

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