第125話 vsアースドラゴン輝石種3
「もし、貴女のパーティーは恐ろしいな。」
崖上のフェリに話しかけたのは、
「……お褒めに預かり、どうも。」
フェリは冷たく言い返す。
基本的に人と接することを避けながら生きてきた彼女は、フィルやトウツ以外の人間とはコミュニケーションをとろうという発想がない。
「ストレガの弟子に見物許可をもらった。ここで見てもいいか? もしもの時は後衛の貴女を守ることもできる。」
「……勝手にするといい。」
「承知した。」
フェリの態度に不満を言うこともなく、ナミルは味方をその場に座らせる。
獣に近い獣人族だ。差別されることに彼らは慣れている。このくらいの素っ気ない態度で怒っていたら、きりがないことを彼らは知っている。
ただ、フェリの冷たい対応は差別からくるものではなく、単純に人見知りであるのだが。
「すげえな、あの兎人族。はえぇ。」
「それだけじゃねぇ。技もある。身体強化の使い方が俺たちとは根本的に違う。」
「ストレガの弟子。あれって本当に子どもか? 歴戦の戦士の間違いじゃないのか?」
「故郷の戦士達に混ざっても違和感ねぇな。」
「見て盗んでおけよ。」
「見るだけじゃ盗むのは厳しいかもな。」
ナミルはパーティーの様子を見てため息をつく。
時々、こういったパーティーは出てくる。才能の塊が集まったかのような集団。若い時のルーク・ルークソーンもそうであった。
見ながらナミルは頭をひねる。自分たちのパーティーも、黒豹族の里から才能ある者を募って作ったパーティーなのだ。伸びしろはあったはず。だが、自分たちはA級に上がりこそしたものの、A級下位という評価から上昇することが出来ていない。
彼らと自分たちは何が違うのか。
黄色く、鋭い眼で渓谷下の小人族と兎人族を彼は眺めた。
『すまぬ!地ならしがきつい!一旦地上に出る!』
そう言って、瑠璃が地上に飛び出す。タラスクの甲羅の盾にヒビが入っていた。
アースドラゴンは地面のスペシャリストの竜だ。地殻のどこに瑠璃がいるのか察知し、攻撃していたのだろう。
飛び出た瑠璃を視認して、アースドラゴンの目が光る。好機ととらえたのだろう。口元で魔力が収束する。
「させるかよ!」
俺はドロップキックでアースドラゴンの顔面を横合いから蹴飛ばす。
奥の方で渓谷の崖が円形にくりぬかれる。
「また隙を見せたねぇ。」
トウツが前足を斬りつける。
アースドラゴンは首元への攻撃を徹底して防御してきた。
だから今度は、足を斬って素早さをそぎ落とす。膝の関節を支える腱を綺麗に切断する。
「ガアア!?」
アースドラゴンがバランスを崩す。
鱗に覆われていない横腹が見えた。
「瑠璃!」
『合点!』
瑠璃がタラスクの甲羅などの素材を体外に吐き出す。俺がそれを魔力で紐づけし、まとめて構築する。
「腹ぶち破ってやる!
体を傾けたアースドラゴンのどてっ腹に、ドリルを豪快に突き刺す。ワイバーンやオーガとは全く違う手ごたえを感じた。
「固すぎ!壁かよ!?」
反動の衝撃で、魔法で守っているはずの手首がガクガクする。これほどの固さ。アスピドケロンのタラスクの甲羅を突破するとき以来だ。
瑠璃と一緒に飛びのく。
ズドン、と重低音を響かせてアースドラゴンがひっくり返る。手ごたえはあった。だが、これでアースドラゴンの耐久を突破できたとは思わない。
すぐに手足が動き、ドラゴンが立ち上がろうとする。
すると、上空から岩盤が雨の様に降ってきた。フェリの錬金爆弾だ。
「退避!」
俺はトウツと瑠璃と一緒に全力で距離をとる。
ひっくり返ったアースドラゴンの腹に次々と爆弾が着弾し、轟音を立てる。焼け焦げた臭いの中に、鉄さびの臭いが混じる。流石にアースドラゴンもいくらかの流血をしたのだろう。
というか、してもらわないと困る。ここまでしてダメージがないのなら、勝てる見込みがなくなる。
土煙が周囲に立ち込める。
俺は風魔法でその煙を吹き飛ばす。
煙の先から現れたのは、再び立ち上がったアースドラゴンだった。トウツに斬られた足を岩石で埋めて修復させている。フェリの爆弾で消し飛んだ鱗も、岩石で埋めている。
だが、これはやつのやせ我慢だ。鱗の代わりに体を覆っている岩石は、とてもではないがトウツの刀は防げない。
傷も岩石で埋めているが筋肉が断裂していて、前足の一本はまともに動かないだろう。
「
俺は魔力を練る。
隣ではトウツが抜刀の構えをする。もう片方の前足もいただくつもりだ。
すると、突然アースドラゴンは地面に頭を突っ込んだ。轟音と共にアースドラゴンの巨躯が地面に埋まっていく。
「地中に逃げるつもりか。」
「どうする~? 逃がすの?」
横でトウツが聞く。
「大丈夫、うちには置きトラップの名手がいるから。」
『うむ。わしに任せろ。』
隣の瑠璃から、わずかな魔力が漏れ出る。
それは指一つ灯す程度の、ただの発火魔法だ。
地下から轟音が聞こえた。
アースドラゴンが巨大な土煙や土砂と共に、地面から吹き飛ばされて出てくる。
「うおああ!?」
「範囲広すぎない!?」
俺とトウツと瑠璃が慌てて爆発に巻き込まれないように逃げる。
「瑠璃! 地面に
『あるだけ埋めてしもうたわ。』
「あほー!」
「多分、主人のフィルに似たんだねぇ。」
失敬なっ!
一旦退避して振り向き、アースドラゴンの方を見る。
敵の体は、文字通り半壊していた。立派な角は、片方が折れてしまっている。最初会った時にあった宝石や鉱物のような光放っていた鱗は、ほとんどが武骨な岩に代わっている。
ただ、目には怒りの表情だけが形成されて俺たちを見ていた。
「ハポンのお茶を取り寄せに港へ行った時、爆弾魚を瑠璃に補充させて正解だったな。」
「だねぇ。使い捨てだけど、便利だねあれ。」
全くである。ジェネリックフェリだ。
「土竜君。わからないだろうが、念のために説明もしておくよ。君が逃げづらいように、爆弾魚が埋めてあった更に下は、既に瑠璃が岩盤を固めてしまっている。逃げられないよ。俺とトウツがただ持久戦を仕掛けているわけではないと、気づくべきだったね。——詰みだ、君は。」
俺は慇懃無礼に状況説明をする。
アースドラゴンが口内に魔力を収束させる。
「
俺たちは身構える。
すると、アースドラゴンは口を俺たちではなく、上空に向けた。
まさか、崖の上にいるフェリの位置を把握したのか!? いや、それはないはずだ。敵を探知するそぶりは見せなかったし、何よりもこいつは俺とトウツや瑠璃にずっと意識を割いていたはずだ。
何故?
すると、アースドラゴンの口がミチミチと音をたてて裂け始めた。口の中にあったはずの収束している球体の魔力の塊がむき出しになり、凶暴なまでの光を放つ。
まずい!ここら一体を焦土に変えるつもりだ!
「全員!防御を固めろおおおお!」
拡声魔法で叫ぶ。
俺はトウツと瑠璃を引っ張り寄せて、タラスクの甲羅を全面に配置し強化する。上のフェリが心配になるが、とても間に合わない。
目の前が暴力的な魔力量で真っ白になる。その魔力の波動に岩や石、砂が弾丸の様に全方位に飛び立ち、周囲を蹂躙していく。
「くっそおおおお!」
『フィオ!それは魔力切れで死ぬ!』
「何で僕より弱いのに壁になるのさ。」
トウツと瑠璃に抱きしめられる感覚がした。目の前が白から黒に変わる。おそらく、瑠璃がドーム状になって囲ったのだろう。
体から力が抜けていく。
俺の意識は一気に途絶えた。
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