第124話 vsアースドラゴン輝石種2
アースドラゴンの
「おっと。」
俺は崖の上で後退し、かわす。
崖の先端が数メートルごっそりえぐられる。まるでその空間には、最初から何もなかったかのように消滅した。
「えげつない威力だな。ワイバーン以上だ。これが亜竜じゃなくて、本当の竜。」
「フィル、大丈夫?」
「へーき。」
周囲に他の冒険者がいるので、フェリが俺を「フィル」と呼ぶ。
「しばらく俺がヘイトを稼ぐ。トウツが接近次第、攻撃開始だ。」
「了解。爆弾、増やしておくわね。」
「渓谷を壊すなよ?」
「善処するわ。」
それ、守れる約束?
視界の端でトウツが高速で動く。もう渓谷の下にいる。あいつの脚力って、一体どうなっているんだ。
瑠璃はアラクネの糸で谷の間を飛び回っている。
俺は
「けっこう正直にこっちを攻撃してくれるんだな。馬鹿正直なのか?」
「竜種は良くも悪くも傲慢な魔物よ。おそらく、フィルを敵じゃなくてただの羽虫と思っているのね。」
「じゃあ、まずは敵として認めてもらわないとな。」
トウツがドラゴンの足元に到着する。
「野良ドラゴンさん。飼いドラゴンになろうか。瞬接・斬。」
トウツが一瞬でドラゴンの前腕の爪を斬り落とした。
ああ、ペット買うとするよね。爪の処理。
「ガアアア!」
アースドラゴンはトウツを踏みつけようとするが、トウツは素早くステップしてかわす。
かわされるのを確認すると、すぐにその場でスピンして尻尾を振るう。
体をねじりながら跳んでトウツがかわす。
その場で何度も前腕で攻撃するが、ことごとくかわしつつ、トウツは前腕に傷をつけていく。
「切断出来ないのか?」
「竜を斬るほどの魔力を練るには、トウツでも時間が必要。接近する前にそんな魔力練っていたら気づかれるし。」
「なるほど。」
「出来て、爪や鱗を斬り落とすくらいだと思うわ。あれをトウツに斬らせたいなら、フィルが前衛で囮役するしかないわね。」
「そりゃ難しそうだ。」
トウツには悪いが、回避能力が一番あるのは彼女だ。もう少し頑張ってもらおう。
「ヘイト管理のために俺も降りる。」
「わかったわ。」
フェリが
発破。アースドラゴンの背中に新しい爆撃痕が残る。
「ガアア!?」
アースドラゴンが苦悶にうめく。
やはり、フェリの爆撃なら効くみたいだ。
俺は崖を降りながら戦況を確認する。
視界の端では、瑠璃が地中に潜り始めた。地上戦はトウツと俺。上からフェリの爆撃。地中から瑠璃が不意打ち。
事前に決めていたフォーメーションである。
立体的な同時攻撃を単体で成立させていた瑠璃はすごかったのだと、作戦をたてたときに再確認した。彼女には今回、下からの攻撃のみに集中してもらい、攻撃の質と威力を高めてもらう。
周囲にいた他の冒険者は、俺たちの乱入に気づき、撤退を始めている。
「助かる!どこのパーティーの者だ!」
「パーティー名はありません!俺はフィル・ストレガです!」
「ストレガ様の!なるほど、我々に出来ることはあるか!?」
「——俺たちに一任してくれますか?」
俺の提案に、黒豹の男は一瞬鼻白む。
もし彼が気分を害しているならば、それは当たり前だ。あのドラゴンを先に見つけたのは彼らだ。優先的な討伐の権利が彼らにある。そして彼らはA級パーティーであり、この場に残って出来る役割はまだ幾らでもあるのだ。
俺の提案は傲慢というものだろう。
だが、彼はすぐに気分を取り直した。
「なるほど。伝説の宮廷魔導士の弟子ともあれば、このくらい豪胆で当たり前か。わかった、今日は退こう。だが、見学くらいはいいな?」
「構いません。ありがとうございます。」
俺はお辞儀をする。
「——君は傲慢なのか、礼儀正しいのかわからないな。」
「えっと、誉め言葉ですか?」
「そうともいう。」
「ありがとうございます?」
「どういたしまして。」
そう言うと、黒豹の男は指示を飛ばした。一斉に戦闘ポジションから黒豹たちが散っていく。追い打ちをされないフォーメーションを組んで滑らかに動く様は、冒険者というよりも軍人の様に見えた。
「すごい練度ですね。」
「ふん。自慢のパーティーだ。」
そう言うと、黒豹の男は渓谷の上へと退避していった。
「トウツ、遅れた!すまない!」
「遅いよ~。フィルもフェリも僕の扱い雑過ぎない? フェリの爆弾にも巻き込まれそうだったんだから。」
「それはお前、あれだよ。信頼ってやつ?」
「本当に~?」
「多分。」
きっと、そう。めいびー。信じていいよね、フェリ?。
「背中へのダメージは効いてる。僕らがヘイト管理し続けないと、やっこさんはフェリを捜し始めるね。」
アースドラゴンは今、下からの攻撃を躍起になって対処している。瑠璃だ。瑠璃が地中から
予想通り、鱗がない腹は攻撃をそれなりに通すようだ。ただ、決定打にはほど遠い。
アースドラゴンの怒りが頂点に達したのか、地ならしを始める。
「
「瑠璃は大丈夫!?」
横でトウツが慌てる。
「対策をしているはずだ。タラスクの甲羅も持たせてある。」
「だといいけど。」
地面から変わらず矢継ぎ早に根の槍が突き出る。
「流石、瑠璃。」
「フィル、やろうか。援護お願いねぇ。」
トウツが抜刀する。
かろうじて剣先が見えた。俺の観察眼も少しは進歩している。
「任せろ。」
俺は水魔法を使うために、青い魔素の演算を始める。
トウツが一足飛びにアースドラゴンへ肉薄する。
アースドラゴンは意識を瑠璃からトウツへ戻す。地殻にいる瑠璃よりも、目の前にいる兎人の方が危険と判断しているのだろう。
見ると、アースドラゴンの
「トウツ!身体強化をパワーでなくスピードに切り替えている!気を付けろ!」
「りょ~かい!」
残像を残すほどのスピードでトウツはアースドラゴンの表皮に傷をつけていく。
決定的なダメージには至らない。A級の黒豹師団が攻めあぐねるわけだ。
「
俺は大量の水弾を作り出し、アースドラゴンに打ち込んでいく。敵の尻尾の攻撃レンジに入らない、10メートル程度の距離をキープし続け、反時計回りにアースドラゴンの周りを走り続ける。
地中の瑠璃、上空のフェリに意識を割かせないためだ。
打ち込んでいるのはただの水弾ではない。冷却した水だ。氷になるほど冷却すると魔力の消費が激しいので、この程度に抑える。
「フェリの爆撃による温度差で、少しは表皮が消し飛ぶといいんだけどな。」
捕まらないトウツに嫌気がさしたのか、アースドラゴンがこちらに
俺は反時計回りに動いていたのを時計回りに方向転換してかわす。
「ガア!」
アースドラゴンが俺に近づこうと、前足を踏み出す。
すると、その前足が地面に沈み込む。
「瑠璃、ナイス。トウツ!」
「やっと隙を見せたねぇ。」
トウツが魔力を練りこむ。足から腰、腰から腹、腹から胸、胸から腕、そして剣先へ。一切のよどみがなく流麗に魔力が体を伝播する様は、美しい直線を描いていた。その直線が綺麗な半円を描き、アースドラゴンの首にさくりと音を立てて通り抜ける。
「うげ、反らされた。」
トウツがバックステップでこちらへ下がる。
「どうだった?」
「動脈を守りきったみたい。しかも速さに注いでた魔力を固さに瞬時に変換した。思った以上に面倒だねぇ。」
「マジか。」
重い、固い上に魔力の使い方も分かっている。ただでさえ別名「魔力の塊」と言われる竜種なのだ。持久戦になるとまずい。
「ガアア!」
斬られた首の線が鱗に飲まれて消えていく。
「再生能力……ではないな。傷口を隠しただけか。」
「あの固さで再生できるなら逃げるしかないねぇ。」
「俺が隙をつくる。今度こそ首を落とせるか?」
「竜の首を一発で落とせなんて、フィルは無茶ぶりが好きだね~。」
「信頼してんだよ。」
「その言葉、それほど便利じゃないと思うよ?」
こちらへ向きなおろうとしたアースドラゴンの背中がまた爆発する。
鱗が飛び散る。
俺に冷却されていた個所が温度変化に順応できず、形を保てなかったのだろう。
「お、効いたな。」
「フィル、なんかした?」
「冷えた石に火をくべると、割れるだろ?」
「そういうことね。」
トウツが頷く。
「表皮の鱗がなくなってダメージを与えれるようになってからが本番だ。あいつが死ぬのが先か、俺たちの魔力切れが先か、勝負だな。」
「フィル、そういう戦いばっかりしてない?」
「気のせいだと思うよ。」
ほんとほんと。気のせいだよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます