エルフ転生

第123話 ｖｓアースドラゴン輝石種

「作戦はいつも通りだな。」

「フィオの援護をもらいながら僕が突貫。フェリであぼ～んだねぇ。」

「貴女、その頭悪そうな話し方どうにかならないの？」

「いんや～、お勉強だけ出来る金魔法使いさんには言われたくないねぇ。」

「闇魔法も使えるわ。残念ね、風魔法しか使えないお馬鹿さん。」

「器用貧乏よりかは一能突出さ。」

「お前らさ、もう少し仲良く出来ないの？」

「何言ってるの～、フィオ。この上なく仲い～じゃん。」

「えぇ、パーティーとしてコミュニケーションが取れているわ。」

「え、そうなの？」

　俺は思わず瑠璃を見る。

　瑠璃の頭上にも「？」が飛んでいる。

　たぶん、傍でルビーも同じ顔をしているだろう。

「スリーピースというのは戦いやすいな。１人につきの役割が多いけど、逆に言えば各々の動きが分かりやすい。」

「本当にね～。実は瑠璃ちゃん倒す時ってさぁ、僕の役割ってロットンちゃんやゴンザちゃんたちと被るものが多くてやりにくかったんだよね～。」

「そうだったのか。」

「まぁね～。僕らはさ、役割被ってないから戦いやすいかもねぇ。」

「それもそうね。私は爆破することだけ考えればいいから助かるわ。」

　フェリは爆破以外に出来ることがあるはずなのに、俺とトウツがいる時はそのことしか考えない。自己の欲求にどんどん素直になっているから心配になる。

　前方から冒険者の集団が現れた。

　魔力を見ると、後衛の魔法使いや弓兵などの魔力が尽きかけている。前衛はボロボロだ。何かから逃げかえっているのだろうか。

　俺は後ろのみんなを止めて彼らに話しかける。

「こんにちは。大丈夫ですか？」

「え、子ども！？　あ、いや、ストレガ様の弟子とかいう小人族か。まぁ、何とか大丈夫だよ。全員ボロボロだけど、死者はなし。不幸中の幸いだね。」

　体格ががっしりした男が代表して答える。

「ポーションは足りてますか？　帰路は大丈夫？」

「心配してくれるのか。優しいなぁ、坊主。大丈夫だよ。俺たちゃ腐ってもＢ級だ。安全マージンはちゃんととってある。」

「そうですか、良かった。何にやられたんです？」

「多分、君らが今から討伐に行くやつだよ。」

「……アースドラゴン輝石種。」

「そうさ。あれの素材は高級なもんだから、ちょっとしたレイド討伐になっていてな。あやかろうと思ったらこれさ。ドラゴンに傷つける算段すらつけてないやつが参加するべきじゃねぇなぁ。」

「他に参加しているパーティーは？」

　俺は銀貨を投げて渡す。情報料だ。

　男は片手で器用にキャッチする。

「Ｂ級がほとんどだ。でもほとんどが敗走準備に入っている。まともに戦えていたのはＡ級の黒豹師団（パンサーズディヴィジョン）だな。だが、攻めあぐねている。亜種があそこまで固いとはな。」

「なるほど。ありがとうございます。」

「気を付けろよ。」

　俺たちはまた動き出す。

　移動速度に関しては、フェリが一番遅いので彼女に合わせる。

「どう思う？」

「黒豹師団はギルドで見たことあるねぇ。黒豹型の猫人族のみで形成されたパーティーだ。あの種族は体術を重んじるから、前衛ばかりになるねぇ。」

「その上、黒豹の一族は手数やヒットアンドアウェイを得意とする種族ね。」

「……アースドラゴンを突破する火力がないのか。」

「そうなるねぇ。多分、魔法英雄団（ファクティムファルセ）とかいう英雄もどきならいけるとは思うけどね～。」

「もどきって言ってやるなよ……。」

　あの幸薄そうなルークさん、無性にシンパシーを感じるから味方になりたい気分になる。

　あと、作られた英雄とはいえ、この国トップのパーティーだ。彼らは普通に強い。

「キサラ・ヒタールに、アルク・アルコでしたっけ。あの２人は確かに随一の魔法使いね。」

「フェリもそう思うのか？」

「ええ、強いわよ。彼女たち。でも後衛の中心は一番年配の回復役（ヒーラー）のヴェロス・サハムね。」

「あのお爺さんか。」

　おそらく、師匠に近い世代の人だ。昔の師匠を知ってやしないだろうか？

　今度ルークさんと話す機会があれば聞いてみよう。

『風上から物が焦げる臭いがする。近いのう。』

　瑠璃が言う。

「トウツ。」

「うん、気づいてるよ。音が近いね。」

　周囲に魔物がすっかりいなくなる。

　強力な魔物に他の魔物が寄り付かない、ビッグネームハントの状態だ。

　俺たちは渓谷の上から下を見下ろした。

　そこにはたくさんの冒険者が一体のドラゴンと戦っている。アースドラゴンだ。

　体躯は１５メートル程度。体長は大型のワイバーンよりも少し大きいくらいだが、地竜のため重量感のある体系をしている。重さはワイバーンと比べるべくもないだろう。二本の牛のような角を生やし、太い足で地ならしをしている。体色は土のようだが、所々光っている。鉱物や宝石が乱反射しているのだろう。岩肌というよりも、合金肌といったところか。

　先ほど聞いた黒豹師団に、Ｂ級パーティーがおそらく３組ほど。だが、じり貧だ。Ｂ級の連中は間もなく脱落するだろう。

　黒豹師団も詰みかけている。彼らが考えているのはおそらく、最も死者が少ない撤退の仕方だ。

　アースドラゴンは黒豹たちの機動力を削ぐために地ならしを何度もしている。

「どうする？　獲物の横取りは冒険者のご法度だろう？」

「流石に手を出していいんじゃないかな～。あれ、もう半壊してるでしょ。」

「フェリは？」

「私も同感ね。むしろ、ここで参戦した方が感謝されるわ。」

「なるほど。瑠璃。」

『いつでも行けるぞい。ルビーもやる気じゃ。』

「オーケー。誰が先陣切る？」

「私が。」

　フェリが前に出た。

「魔法化合（マギコンビネーション）、生成、岩盤爆弾（ロシェピュロボロス）。」

　フェリが足元の切り立った岩を爆弾に作り替える。

「は？　フェリ、もしかして足元の素材だけで爆弾作ったのか？」

「いえ、グローブ内の素材もある程度は使っているわ。地中深くから材料になるものを吸い上げてはいるけど。」

「どうやって？」

「フィオの魔法の応用よ。貴方が言ったんじゃないの。魔力による紐づけよ。」

「えぇ……。それだけの助言でそんな魔法って作れるものなの？」

「私からすれば、それを素で思いついた貴方がおかしいのだけれど。」

「二人とも～。僕のわかんない話題で盛り上がらないでくれるかな～。あ、黒豹さんがやばい。」

「え？」

「急がないとね。」

　見ると、黒豹族の男がアースドラゴンの尻尾を食らった。流石はＡ級。きちんと防御魔法を展開して事なきをえたが、状況が更に悪くなる。

「フェリ。」

「焦らないでフィオ。確実にアースドラゴンの背中だけ爆破する。」

　やられた黒豹の男がエースだったのだろう。周囲のＢ級冒険者たちが一斉に距離をとってアースドラゴンをけん制し始める。

「今ね。投下。」

　フェリの魔法が発動し、岩盤爆弾が降下される。

　俺がそれに風魔法を加えて下方向に加速させる。

　発破。

　下から一瞬の発光と、遅れて轟音、熱風が俺たちに襲い掛かる。さらに遅れて、熱を帯びた砂塵が巻き上がる。

「いや、フェリ！巻き込まないって言ったよな！？　これ絶対火力過多だろう！？」

「はあぁあぁ♡いい音。」

「いい音じゃねぇよ！こんな威力なんて思ってなかったよ！大丈夫なの！？」

「大丈夫よ。爆発の範囲は全方向ではなく上下のみに調整されているわ。だから火力のほとんどはアースドラゴンの背中にいったはず。上空に上がってきた熱気は、アースドラゴンの背中に跳ね返されたのね。」

「……ということは。」

「地を這う蜥蜴さんは頑丈なご様子。爆破のし甲斐があるわね♡」

　高揚しているフェリをよそに、俺とトウツ、瑠璃は下をのぞき込む。

　そこには何事もなかったかのように、背中を少し焦がしたアースドラゴンが立っていた。目には憎悪。口内には魔力の塊。

　既に臨戦態勢だ。

「いいね。そうこなきゃ。こいよ！」

　俺は鬨之声（ウォークライ）で挑発する。

　トウツ、瑠璃が散開する。フェリが後ろに下がる。

　アースドラゴンの口内にはブレスが形成されている。

　戦いが、始まった。