第121話 債務者、返済開始

「不老ポーション売った人? ひみつ~。」


 昔話の後、不老の薬について聞いたら返ってきたのがこの言葉だった。


「いや、それはないだろう。教えてくれてもいいはずだ。」

「んー。そこは顧客情報だからねぇ。僕も話さないじゃなくて、話せないとしか言えないなぁ。フィオが自力で探る分には構わないと思うよ。」

「……どうしても話せないのか?」

「そうだね。フィオのためにも話せない。」

「俺のためにも?」

「そ~。」


 俺はトウツの目を見る。

 相も変わらず、緊張感のないふにゃりとしたたれ目をしている。


『横でルビーが怒っておるな。』

 瑠璃が言う。


「ルビーが怒ってるらしいんだけど。」

「ルビーちゃんには悪いことしたと思ってるよ? でも、そのうちフィオは僕に感謝すると思うよ? ルビーちゃんも。」

「本当か?」

「本当。」

「信じていいのか?」

「いいよ~。」

「フェリ、お前は何か知ってるか?」


 俺はフェリにも話をふる。

 ポーションの配合を机上でしていた彼女はわたわたとしだす。


「わ、わたた私は何も知らない!」

「本当に?」

 俺はじっとフェリを見る。


 フェリは視線を逸らすが、目に隠し切れない罪悪感が宿っている。口がもにょもにょと波打っている。

 これは黒だ。


「何か知ってるのか?」

「し、知らない!」


 年上のはずの彼女が若干幼児化する。

 フェリは誠実な女性だ。だから、俺と同じく嘘をつくのが下手である。

 だが、同時に疑問が浮かびあがる。

 フェリが仲間になったのは、俺が不老になった後である。俺を無視して、何故トウツはフェリと秘密を共有しているのだろう。

 なんだか面白くない。

 3人パーティーのはずなのに、俺が除け者にされている感じがする。


「俺は寂しい。」

「ん?」

「え?」

「2人でそうやって俺に秘密作ってさ。酷い。借金漬けだし、冒険者登録もあと数年我慢しないといけないし。あ~あ!俺って本当に仲間なのかなぁ!」

 やけくそになって叫ぶ。


「ご、ごめんね、フィオ。」

「そんなこと言わずに、仲良くしようよ~。」

「いいや、駄目だね。仲良くしてあげない。女性陣だけで仲良くしてればいいんだ。」

「え、僕フェリとそこまで仲良くするつもりないんだけど。」

「私もこの兎とは馬が合わないわね。」


 えぇ。このパーティー大丈夫か?

 その不仲はふりなの? ガチなの?


「仕様がないなぁ、フィオは。交換条件を言ってごらん? お姉さんが聞いてあげよう。えっちな要求も可。」

「私も聞くわ。あ、いや、えっちなのはちょっと。」

「言ったな。言質とったぞ。」


 俺はすぐさま言い返す。


「よっしゃ。どんなことする~? 今すぐベッド行くかい? 合意なら奴隷印も反応しないよね!」

「え、ちょっと待ってフィオ。心の準備が出来ていないわ。」


 何を言っているんだ、こいつら。

 俺は懐から紙を取り出す。


「これを討伐する。」

「期待させてそれはないよ、フィオ。」

「ちょっと奴隷としてなってないんじゃないかしら。」


 あれれ~、おかしいぞ~? 会話の主導権は俺にあったはず。


「いいから、これを見てくれ。」


 二人がのぞき込む。


「「アースドラゴン輝石種?」」

「そう。希少金属や石で構築されている、アースドラゴンの希少種だ。最近は亜種や進化した魔物が増えてきているだろう? そのうち確認された一体だ。B級以上じゃないと討伐許可が降りない。頑張って探してきたんだぜ?」


 ちなみに、俺は都でクエストを受注出来るようになった。あくまでもトウツやフェリと一緒にという建て前があるが。死霊騎士以降の活躍で、俺も特例荷物持ちポーターとして認めてもらえたのだ。ラクス・ラオインギルドマスターに感謝だ。アルシノラス村のゴンザさんやカンパグナ村のシーヤさんも口利きしてくれたらしい。

 そしてこのクエストは、竜種の討伐クエストになる。A級に昇格したパーティーの多くはこの竜種の討伐を経験している。俺の魔力が心もとない時は出来なかったが、今なら挑戦してみてもいいだろう。


「ふぅん。アースドラゴンは飛べない代わりに竜種の中でも頑強だったと思うけど。」

「私も竜種は戦ったことがないわ。ずっとソロだったから。」

「そう。俺たち3人は今までそれぞれの事情から、こういった討伐に参加できなかった。でも、今は違う。3人パーティーだ。前衛のトウツ、後衛のフェリ、そしてオールラウンダーの俺。今の俺たちなら視野に入れていい敵だと思うんだ。2人とも、アースドラゴンに傷つけられる自信、あるだろ?」

「そりゃあ、もちろん。」

「ええ、あるわ。」


 2人の目が妖しく光る。何だかんだ言って、冒険者をやっている時点で俺たちは同じ穴の狢だ。戦いに血沸き肉躍る人種。野蛮な自分を許容して楽しむことができる人間。


「この討伐はB級以上であれば誰でも受注できる。つまりは早い者勝ちの競争だな。理由は単純。このアースドラゴンは希少な素材を体中にまとっている。素材報酬が馬鹿高いんだよ。だから、ギルドは討伐報酬を安くしてたたき売りしている。当然だよな。危険だが、一獲千金だ。参加する冒険者が多い。そして——。」

「参加者が多いということは、共闘も生まれてリスクが少ない。」

「その通り。」

「で、フィオは共闘する気なのかい?」

 トウツが聞く。


「決まってんだろ。全員出し抜く。そして報酬は俺たちで全ていただく。」

「いいね~。そういうの、好き。」

「私もよ。」

「瑠璃も、手伝ってくれるか?」

『もちろんである、わが友。』

「サンキューな、わが友。」


 俺たちはドラゴン退治に動き出した。

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