第85話 都の名はオラシュタット
「はい、皆さん。今日は何と、新しいお友達がいます!」
壇上には若い女性教師。
そして、俺。
周囲には俺と同じくらいの子ども。
「お名前は、フィル・ストレガ君です。何と、あの英雄マギサ・ストレガ氏のお弟子さんです!」
どっと、教室が騒がしくなる。
クラスの子どもたちが俺を見る目は好奇心の塊だった。
純粋な瞳が眩しい。
俺の演技がいろんな人にばれるわけだ。これが普通の子どもである。周囲の大人たちからは、薄気味悪い子どもに見えたに違いない。
本当、アルシノラス村の人々にはよくしてもらった。
「フィル君、自己紹介をどうぞ!」
俺の担任を務める、リラ・セーニュマン先生が元気よく俺に話をふる。
任せろ。伊達に7年も男児のふりをしていない。
いろんな人にただの子どもではないとばれてしまったが、相手は7歳程度の子ども。ちょちょいのちょいで学園生活を騙し切ってみせる。
「ふぃる・すとれがです。とくいなまほうは火です!よろしくおねがいします!」
多分この時の俺は、ものすごく引きつった笑顔をしていただろう。
話を少し巻き戻そう。
エルフの森を出立した俺たちはすぐに都へたどり着いた。
徒歩で。
修行の一環ということもある。事情はそれだけではなく、借金を払い終えていない俺が馬車の代金を出し渋ったからだ。
死ぬほど恥ずかしい。
ランクの高い魔物の素材は変わらず瑠璃に与えていたし、フェリが作るポーションの代金も払わないといけなかったからだ。
パーティーの共有財産だから、フェリにお金を払う義務というものはない。だが、揉め事を割けるためにいくらか固まったお金を渡すことが冒険者の間では慣例とされている。俺たちもそれに従ったという形になる。本当、冒険者の不文律というものはよくできている。
そういうわけで、俺の懐はじり貧である。
何と、260万の借金は300万に増えた。増えた40万はフェリのポーション代だ。
そのうち借金で首が回らなくなるのではないだろうか。
なんにせよ、たどり着いた。
都「オラシュタット」だ。
「お~。ここがオラシュタット。」
「すげぇ!人が多い!めちゃ多い!」
「大丈夫かしら。エルフがいなければいいのだけれど。」
都の入り口の検問で田舎丸出しな3人組がいた。
俺たちである。
俺は森育ち。トウツはこの国に比べると発展途上のハポン出身。人目を避けながら過ごしてきたフェリ。見事な田舎パーティーである。
『お主ら、もう少し落ち着かんか。目立っておるぞ。』
このパーティーでは一番引きこもり生活が長いはずの瑠璃が一番落ちついている。
何だかんだ、彼女はこのパーティーで一番の年長者なのだ。
でも仕様がないじゃないか。都だもの。
この半年、冒険者としての活動はアルシノラス村やカンパグナ村を中心に行ってきた。時々ゴンザさんに口利きしてもらって他の村や町には行ったが。
だが、都ほど栄えている場所には行ったことがなかったのだ。
すごい。前世以外でこんなに人が集まっているのは初めてみた。気分は前世で初めて東京旅行に行った時に近い。冷めた子どもだった俺でも、東京の人の多さには圧倒されたものだ。
「次の者!」
検問所の憲兵が声をかける。
イアンさんたち宮廷騎士団に比べると、簡素な出で立ちだが、しっかりとしたフルメイルの鎧を着ている。今はヘルムを外しているようだが。
憲兵の男は30代過ぎだろうか。
日夜ここを守っているのだろう。外仕事の人特有の肌の荒れが目立つ。
「許可証を出してくれ。」
「わかりました。」
代表してトウツが手渡す。
「オーケー。アルシノラス村のギルドマスターからの書状だな。魔法検査に回すから少し待ってくれ。次!」
次の人の検問の邪魔にならないよう、俺たちは横にどける。
ここの検問は国で一番厳しいらしい。
今の魔法検査もその一つである。特殊な
憲兵の人々も同様だ。冒険者として推定すると、BからCくらいの人々ばかりだ。ここはこの国の心臓部。何かあってはいけないのだろう。検問所の城壁には何か所か穴があった。そこから射手や魔法使いが常に覗いている。
怪しいものがいればいつでも迎撃出来るということだろう。
「検査の間に、身体検査をしますね。」
女性の憲兵が前に来る。
フェリとトウツが女性で、俺が子どもだから女性の憲兵が担当するのだろう。
彼女は俺たちの身体検査を簡単に行う。手に鉄のわっかのようなものを持っていた。危険物を探し当てる魔法具だろうか。
「亜空間リュック類に入っているものは、事前に申告しているものが全てですか?」
「はい、間違いないです。」
「申し訳ありませんが、この書状にサインしてもう一度答えてください。数分間のみ効力が発動する契約魔法です。この契約時のみ、貴方がたは嘘がつけなくなります。よろしいですか?」
3人で頷く。
女性の憲兵がする質問を一つ一つ、「はい。」か「いいえ。」で答える。
今のところ、オールグリーン。問題はないようだ。
憲兵の顔が、フェリさんの耳に気づくと苦いものになる。
「揉め事は勘弁してくださいね。」
「もちろんです。エルフと事を構えることになったら、ここを去ります。」
「それでいいです。」
憲兵のお姉さんは特別差別しているようには見えなかった。
単純に面倒そうだ。巻き込まれたくない。そういった忌避感のみを態度に出したかのように感じる。
「後はそこの使い魔だけど、主は誰ですか?」
「俺です。」
「え?」
まさか小さな男児が主とは思わなかったのだろう。
憲兵のお姉さんは慌てる。
「え、えっと。僕、この使い魔は安全、ですか?」
「はい!」
元気よく答える俺。
「うーん、マニュアルだと使役者のみということだけど、んー。僕、ちょっと待っててね。」
そう言うと、憲兵のお姉さんは遠くへ行った。
すぐに年配に見える憲兵の男性と話し始める。彼女の上司だろうか。俺たちの方を見ながら何やら話している。
「お待たせしました。」
憲兵のお姉さんが戻ってくる。
「僕、ごめんね。君の判断だけだと許可が降りなかったの。一緒にいるお姉さんたちにも聞いていい?」
「いいですよ!」
子どもっぽく俺は答える。
憲兵のお姉さんはトウツとフェリにも同じ質問をした。
オールグリーン。
「うん。君は安全な使い魔ですね。」
にこやかにお姉さんが瑠璃に話しかける。
「わふ。」
瑠璃も犬っぽく吠える。
「待たせたな。ギルドマスターの書状は本物だったぜ。坊主、あのストレガ様の弟子ってのは本当か?」
憲兵の男の人が俺に耳打ちする。
「はい。師匠はマギサお婆さんです。」
本人がいないのでお婆ちゃん呼ばわりをする。
「そいつぁ、すげえ。今年は学園に神童が集まっていると聞いていたが。エクセレイ王国の未来は明るいな!ようこそ、都オラシュタットへ。」
俺たちは5人で、城壁の門をくぐった。
俺はここで誰と出会うのだろう。何を学べるのだろう。
期待に胸を膨らませて都入りをした。
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