第84話 フィオ、7歳
「魔王を討伐する。」
俺は宣言した。
目の前にいるトウツとフェリが目をぱちくりとさせる。表情に「何を言っているんだこいつ。」という疑問が張り付いている。
俺たちは今、トウツとフェリが住む宿の一室に集まっている。
フェリの部屋だ。
トウツの部屋には下着類などが散乱していたため、フェリの鶴の一声でここに集まることになった。
トウツは「気にしないのに~。」と呑気に言っていた。
お前、俺の実年齢が24歳だってこと、たまに忘れてない?
「フィオ。貴方前世を含めたらいい大人よね? いきなり子どもらしいことを言いだすからびっくりしたんだけど。」
フェリが困惑顔で言う。
ちなみに、フェリにも俺が転生者であることは既に伝えてある。
パーティーメンバーになったのだ。もはや他人ではない。
「男はいつでも心に少年を飼っているんだ。」
「何を言っているのかわからないわ。」
俺は自分の事情を話すつもりはない。
俺の事情に2人を巻き込むわけにはいかない。
もし俺の命が懸かっていると知ったら、この2人は自分の命すら勘定に加えそうな危うさがある。俺はそれが、怖い。
「大体、魔王なんておとぎ話に出てくる敵役だろう? フィオって、そんな夢見る少年だったっけ?」
「俺はエルフの巫女だ。」
女性陣2人の目が丸くなる。
「……特殊な子だとは思ってたけど、まさか巫女とはねぇ。」
「貴方、よりによって忌子と巫女の二重苦なの? ハードな人生ね。ダークエルフで苦労した気になっている私が馬鹿みたいね。」
「そういうことなんだ。魔王が現れるのがわかった。放っておいたら危険だ。出来れば手伝ってほしい。」
俺は本当の話の中に自分の事情を混ぜずに話す。嘘はついていない。真実の一部を話さないだけ。
2人は驚きながらも頷いている。上手く騙せたみたいだ。
「それ、国王に報告した方がいいよ。僕らじゃあ、対処できないねぇ。」
「私もそれに一票。私たちのパーティーは一番トウツのランクが高いわ。自然とB級に位置づけられるわけだけど、たかがB級が背負っていい重さじゃないわ。」
「それに関しては大丈夫。多分、俺の妹が国には伝えているはず。」
「そっか~。妹さんも巫女になるのかぁ。難儀だねぇ。」
「当面の目標を立てた方がいいと思う。俺は巫女だけど、正体を人にばらすわけにはいかない。イレギュラーとはいえ、巫女が二人いることは、この国にとって有利な展開のはずだ。俺が託宣夢で未来予測しても、他人への影響力がないポジションにいたら意味がない。」
俺がいくら危機を告知しても、周囲の人間が動かなければ意味がないのだ。
「そのために手っ取り早いのは、冒険者としてのランクを上げることかなぁ。」
「そうなるな。」
上級の冒険者は英雄視をされる。
A級ともなると、国に数えるくらいしかいない。下手な貴族よりも民衆へ与える影響は大きいのだ。
だからこそ貴族は成り上がった冒険者を雇い、自分の身内へと引き込むのだが。
「エイブリー姫とのつながりも強化する。彼女が信用できる人物であれば、俺の秘密を開示してもいいかもしれない。」
「そうだねぇ。」
「あと半年で俺はルビーが見えなくなる。それまでに、冒険者としての実力を伸ばす。いつ魔王と戦っても大丈夫なように。……付き合ってくれるか?」
俺は不安になり、彼女たちの顔を伺う。
「フィオに会った時から、何となくこんなことになると思っていたよ。僕は参加する~。」
いつも通り、のんびりとトウツが答える。
「私はフィオの主人よ。いつも一緒にいるわ。」
フェリが言う。
「え。何かフェリちゃん、その発言怖い。」
「貴方に比べると百倍ましよ。」
女性陣2人が言い合う。
険悪な雰囲気ではないところを見ると、彼女たちなりに仲良くしているのかもしれない。
『わしも手助けしよう。友のピンチじゃ。』
『僕は途中で見えなくなるけど、ずっといるよ!』
瑠璃とルビーも言う。
「みんな、ありがとう。」
現状は最悪だ。人生のリミットが着々と近づいている。
それでも、目標がある。熱がある。エネルギーがある。それに付き合ってくれる仲間も。
俺は恵まれている。
そして俺は7歳になった。
生活に大きな変化はない。
クエストを受けて、魔法と身体を鍛える日々。
この半年間、魔王について色々調べたが、これといった進歩はなかった。
大昔の物語で、多くの人種を滅ぼしかけた存在。未曾有の闇魔法の使い手であったと記されている。絶滅寸前の人類を救ったのは、勇者と呼ばれる存在だった。本来、補助や浄化として使われる光魔法を強力な攻撃魔法として用いた英雄。
俺が今後すべきことと言えば、この勇者探しだろうか。
いろんなギルドを渡り歩いたが、結局のところそれらしき人材は見当たらなかった。
週に数回、夢を見る。
俺が獅子族の大男に腹を穿たれる夢。
あの日から、クレアが死ぬ夢は一度も見ていない。
悪夢は見慣れた。俺はこの夢を見ても、最近は平然と起きることが出来るようになった。
他の託宣夢はまだ見ない。この力はそこまで万能ではないらしい。師匠がそう、言っていた。
フェリの冒険者ランクがBに上がった。
元々、流浪の旅をしている上にソロだった彼女は、ランクが上がりにくい環境にいた。それでもC級まで上げ切ったのはすごいという他ないが。
マギサ師匠の家というホームを得た彼女は、安定した討伐記録を作り、あっという間にB級まで上がった。
俺が学園に行ったら、そこで3人で派手なA級デビューを飾ろうということになっている。俺がまだ7歳というところが難点ではあるが。
瑠璃はこの半年近く、よく外出するようになった。アスピドケロン時代に有用だった魔物を改めて捕集することにしたようだった。彼女が全盛期に戻るならば、これほど心強いものはない。
『フィオ……。』
目の前には泣いているルビーがいる。
ルビーの体がどんどん透けていく。
俺の魂が根源から離れきって、ルビーが見えなくなる。
「大丈夫だ。見えなくても、俺とお前はずっと友達だよ。」
『本当? 本当に本当? 僕のこと、忘れないよね?』
「ああ、ずっと忘れない。」
『僕、ずっとフィオから離れないよ? ずっとそばに居るからね?』
「——ありがとう。」
ルビーは、消えてしまった。
それでも何となくわかる。
周囲の魔素が温かい。ルビーが必死に干渉しているのだろう。
『フィオ。ルビーはお主の肩の上じゃ。』
瑠璃が教えてくれる。
俺は無言で肩の上を撫でる。
都に、学園に行く時が来たのだ。
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