第69話 兎の処方箋

前書き

 こちらでは作者があまり語らない方がいいと思っていたのですが、先に読んでいただいた読者の反応を見て、必要性を感じたので書き記しておきます。

 今話以降、読者にとって心理的苦痛を伴うストーリー展開が続きます。

 それらは物語の終幕のために必要なファクターであり、ストレスになりえます。終わりの時に、一定の回答をする準備が作者には出来ています。が、読者の皆様が納得のいく形ではないかもしれません。

 それでもいいと思う方のみ、読み進めていただければと思います。


 そして、このストーリー展開に関して、多くの読者の方に意見や感想を頂きました。私の趣味で書いている作品に本気で向き合ってくださる方が多くいらっしゃるようで、感謝の念が絶えません。不快感を誘発するストーリー展開は、全て作者の力が及ばないことが原因です。

 読んで頂いている全ての読者に感謝を。

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「さくせんかーいぎ!」

 俺は声高々に宣言した。


 今日の俺はオフモードなので、お面はつけていない。


「いえ~。」

『いえー!』

「あおーん!」

「にゃーん。」

「カー!」


 トウツさん、ルビー、瑠璃、ジェンド、ナハトがそれぞれ反応を返す。瑠璃は時々、このように魔物の声帯を借りて肉声を出すことがある。

 今日で母親と再会して二週間が経った。

課題が詰まってきたので、俺は話せるメンバーを部屋に集めた。動物比が異様に高い空間である。

 トウツさんはシャティさんたちと一緒に迷宮魔法を突破して以来、時々こうして遊びにくるのだ。


「で、何の会議だい?」

 トウツさんがうつ伏せになって聞いてくる。


 ちなみに部屋に入るや速攻、俺のベッドに寝転がった。他の場所で作戦会議をしてもよかったが、いかんせんルビーや瑠璃と人前で喋ることはできない。師匠の前で話すと五月蠅いと言われるので、泣く泣く俺の部屋ですることになった。

正直、トウツさんをプライベートな空間にあげるのは怖いが、もう何度も侵入されているのでまぁいいかとなっている。ルビーにはその度に『警戒心がそぎ落とされてる!』と注意されているが。

 トウツさんの大きな双丘が押しつぶされて脇からこぼれて見える。大きすぎんだろ。何でそんなもんついててあんな速く動けるんだ。彼女はローブを脱いで忍び装束だ。最近忍者であることを全く隠さないが、いいのだろうか。


「今後の動向についてです。具体的に言えば、俺が七歳になったらルビーが見えなくなるので、その対策になります。」

「なるほど~。妖精ちゃんのためね~。」


 うり、うり、とトウツさんが空中をつつく真似をする。


「トウツさん。ルビーはそっちじゃなくて、俺の隣。」

「何だ~。そっちか。」

 にひひ~、と彼女が笑う。


「七歳で人族は魂が根源から完全に離れる。それに伴い、俺はルビーが見えなくなる。アプローチとしては、俺が再び根源に近づく方法を考えるのがベターだと思うんだけど。」

 ちなみにエルフも獣人も同じ条件とのことだ。


「ハポンの七五三みたいだねぇ~。」

 トウツさんが言う。


 あるのか。こっちの世界にも。七五三。


「一応、根源に近づくには闇魔法か光魔法が必須だと思う。でも法則がわからない。極めるべき魔法の方針くらいは決めないとどうにもならないので、忌憚きたんなき意見を諸君から募りたい。」

 俺はかしこまった口調で司会を続ける。


『根源に近づくと言われても、想像がつかんのう。』

『僕も~。』

 瑠璃とルビーが早々にギブアップ宣言をする。


 ジェンドは顔を前足で洗っており、ナハトは毛づくろいをする。早くも駄目なムードが漂い始める。


「根源に近づくってフィルたんは簡単に言うけどさ。それって神様に近づくってことだよね~。普通に難しいんじゃないの?」


「ぐ。」


 そうなのだ。師匠の文献を読み漁っても、それが出来る研究は全くなかった。方法が確立してないのか。流布していないのか。

 ちなみに師匠に聞いたら、「普通に禁術だよクソガキ。」と言われた。


「そうなんだよなぁ。だめもとで聞いただけなんだけども。」

「もう解散じゃん。」

 トウツさんがごろりと仰向けになる。


 すげえ。仰向けになっても形が崩れない。何がとは言わないが。


「他に何か方法はないか?」

 俺は尋ねる。


『わしのように精霊に近づくことは?』

「精霊に近づくかぁ。それが確実な気はするけど、それってまず二百年生きないといけないんだろう? 気が遠くなるなぁ。」


『二世紀もフィオと話せないなんて、いくら体感時間がゆるい僕でも待てないよ!』

 ルビーが隣できゃんきゃん叫ぶ。


 最近思うんだけど、ルビーがどんどん幼児退行しているように見えるのは気のせいだろうか。初対面の時はもっと脳みそ詰まってそうな印象だったんだけど。


『だが、時間は戻すよりも進める方が簡単であろう。わしの考えを基礎にした方が上手くいくと思うがのう。』

 瑠璃が言う。


「根源に戻るのではなく、あえて進めて存在としての力を高次に引き上げるってことかぁ。それも手だなぁ。」

『それなら方法があるよ!高次の存在になればいいんだね!』

 ルビーが言う。


「え、あるの。」


 びっくりだ。何だあるなら早く言ってよ。


『チェンジリングすればいいんだよ!妖精とフィオの存在を取り換えっこすればいいんだよ!十年くらい僕の友達の妖精さんにフィオとして暮らしてもらって、フィオには妖精さんとして暮らしてもらうの!そしたらほら!僕はずっとフィオと一緒になれるよ!』

『ルビーはな!ルビーだけは俺と一緒になれるなその方法なら!他の人と喋れなくなるからその方法は却下!』

『え~。』


 チェンジリングとは、妖精がいたずらで人間の子どもをさらって妖精となり替わることだ。親は自分の子どもと勘違いして妖精を育てることになる。しばらくすると返却されるが、その子どもは妖精の価値観で育てられているので倫理観が大きく欠けている、およそ人間ではない何かに育っている。

ちなみにこのチェンジリングの一番恐ろしいところは、妖精側に一切の悪意がないことにある。


 ルビーの妖精らしいサイコなところが久々に見えてびっくりする。

ルビーは俺の友達だから、普段はなるべく人間の感覚に話を合わせてくれている。

 だが時々こうして種族としての感覚の違いをまざまざと見せてくる時がある。

 それでルビーのことを嫌いになることは決してないが、驚くものは驚くし、怖いものは怖い。

 大体俺の代わりになってくれる妖精さんって誰やねん。怖いわ。


「僕がわかんない言葉で盛り上がるの、やめてほしいなぁ~。」

 トウツさんがつまらなそうに俺の腰に抱き着いてくる。


「うおお!」

 俺はローリングしてかわす。


「逃げんな~。臭い嗅がせろ~。」


 残像を残してトウツさんが消える。

 気づいたら後ろから抱きしめられて頭に鼻を押し付けられていた。


「すううううううううううううううう。」


 めっちゃ頭の空気吸引されるんだけど。


『がああああああ!!』

『うつけものめが!』

 ルビーと瑠璃が怒るが、片手であしらわれている。


 瑠璃もかなり強くなったはずなんだけどなぁ。


「トウツさん。」

「ぐへへへ。ポニテのフィルたんかわええ。」

「トウツさん。」

「かんざしなんて女の子っぽいものつけてさ。誘ってんのか?」

「トウツさん。」

「すうううううううううう。」

「おい、嗅いでいいから聞けや。」

「はああああああああああ。え、なぁに?」


「トウツさんは何か意見はないんですか?」

 だめもとで聞いてみる。


 最近、この人に敬語を使うのも疲れてきた。


「ん~。一つだけある、かな。」


「本当ですか!教えてください!お願いします!」

 何でもはしないけど!


「ん。これ。」

 トウツさんはベッドに置いてあった自分の亜空間ポーチから小瓶を取り出す。


 机に置かれた小瓶を俺たちは眺める。机に顎を乗せてぼへ~っと眺める。両隣では瑠璃、ルビー、ジェンド、ナハトも同じポーズになって小瓶を眺めている。小瓶は元の世界で見たブランド物の香水入れみたいに綺麗なガラス細工だ。どす黒い紫色のポーションだが、光に反射して宝石のようにも見えなくもない。


「何ですか、これ。うわ。魔素の色がどす黒い。闇魔法ですかね? ちょっと風魔法も混じってるのか。でも無機質な感じもあるからポーションには変わりないのかな。」


「一目でそれだけわかるなんて、便利な目だね~。」

 トウツさんがしみじみと言う。


「これ、もしかして俺が飲むんですか?」

「そうなるねぇ。」

「どんな薬ですか?」

「不老。」

「は!?」


 何だそれ!師匠のポーションのカタログで見たぞ!国に一つあるかないかの激レアポーションじゃないか!これ一本で貴族が住むような家が何軒も建つぞ!? というかむしろ、町ごと買える値段がつくことすらある。


「こんなもの、どうやって手に入れたんですか!?」

「とある筋を使ったんだよね~。大変だったよ。お金もかなり積んだからね。」

「待ってください。そのお金の出どころってどこですか?」


 買ったところもどこだよ。普通に怖いわ。


「ちゃんとポケットマネーだよ?」

 トウツさんはすました顔で言う。


 だが、正直信頼できない。この人はあっけらかんとした顔で窃盗してそうな雰囲気があるのだ。ハポンからも追放されてここにいるようだし、油断がならない。


「そんな疑わなくてもいいじゃないか。パートナーだろ~?」

「パーティーメンバーです。」

「二人しかいないパーティーだからパートナーでいいじゃないか。」

「瑠璃とルビーがいます。」

「妖精ちゃんは見えないし、瑠璃ちゃんは使い魔としてギルドに登録したじゃないか。パーティーメンバーとは言えないなぁ。」


 ぐぬぬ。


「僕は今はそんなにお金ないけどさ、ひと昔前はお金持ちだったんだよ。ソロでB級まであがったからね~。ソロの利点、フィルたんならわかるだろう?」

「……儲けを分配する必要がない。」

「そう、その通り。こと稼ぎに限っていえば、ほとんどのA級よりも僕は稼いでいたんだよ?」

「その稼ぎのほとんどをこの不老ポーションに使ったと?」

「ほとんどというか、全部だね。」

「全部!?」

「これ買った日は野宿したな~。」


 たはは、とトウツさんが頭をかく。


「トウツさんがどうこうされるとは思えませんけど、一応女性なんだから身辺には気を付けてください。」

「心配してくれるのかい?」

「一応、女性ですから。」

「嬉しいねぇ。年上の功というやつかな。」

 トウツさんが俺のうなじに頬を擦り付ける。それを恨めしそうに眺めるルビー。


 そうなのだ。トウツさんは年下だった。今年で18歳らしい。この歳で、しかもソロでB級まで成り上がる人はこの国でも両手で数えられるしかいなかったらしい。本当、俺の周りはチートだらけである。

 エルフであることがばれてしまったため、俺は転生者であることも彼女に話した。彼女が俺を年上と言ったのはそういうことである。パーティーメンバーにした以上、変な隠し事はそのうちばれる。

 というか、トウツさん相手だとばれるのは時間の問題なので、自分から明かすことにしたのだ。

 反応はあっけないものだった。むしろ喜ばれた。「合法だ!合法のショタだ!」と狂喜乱舞していた。あの時ほど身の危険を感じたことはない。彼女こそ俺のラスボスではないだろうか。いや、マジで。


「で、どうする~? 飲む?」

 トウツさんが小瓶を持ち上げて、左右にふる。


 俺たちは右に左にその小瓶を追って首が揺り動く。欲しい。滅茶苦茶欲しい。これを飲めば俺の成長は止まる。つまり、七歳にならずに済むのだ。ルビーともずっと話すことができる。

 だが、問題点がある。


「トウツさん。」

「なんだい?」

「これは不老であって、不死ではないですよね?」

「そりゃそうだよ~。不死効果も含まれたポーションなんて、出回るわけないでしょ。」


 その言葉に俺は安堵する。

不死に憧れる人はいるだろうが、俺はその限りではない。終わりが見えないと、人は頑張れないと思うんだよね。特に俺は冷めやすい人間だし。

 懸念の一つはクリアした。


「もう一つ、何でこんなものをトウツさんは手に入れたんですか?」

「………………。」

「絶対何か理由がありますよね。」

「さぁ~?」

「気に入った男の子の成長を止めるとか。」

「……………。」


 トウツさんと目が合わない。


「おい。」

 語気が荒くなる。


「でも、フィルたんにはこれが必要だろ~?」

 小瓶の中で紫の液体がちゃぷんと音をたてる。


「ぐぬぬ。」

「いいのかな~? 大事な大事なルビーちゃんと会えなくなるよぉ~?」


 悪魔だ。ここに悪魔がいる。兎だけども。


『卑怯者!僕を妖精質にとるなんて!』

 横でルビーがきゃんきゃんわめくが、トウツさんには聞こえない。


 トウツさんが俺の目の前に不老ポーションをのぞかせる。俺は誘惑に負けきれず、手を伸ばす。

 大丈夫だ。俺が我慢しさえすればいい。そうしたらずっとルビーと一緒にいられるんだ。大人になったらなくなるはずだったトウツさんのセクハラが延長されるだけじゃないか。それは一生かもしれない。でもこれ以外に今は選択肢がない。

 そもそも何で俺は躊躇しているんだ。変態であることに目をつむれば、トウツさんは優良物件だ。ソロでB級冒険者まで上り詰めた実力者だ。稼ぎは確実にある。それに美人だ。冒険者とは思えないほど透き通った肌。鍛えられたことで引き締まっているが、出るところは出ているプロポーション。胸や尻が大きいのは兎人の女性に共通する特徴だそうだ。鼻筋の通った顔。チャームポイントの垂れた兎耳。たれ目で力が抜けそうだがコケティッシュな赤い瞳。

ギルド内では変態であることが周知されているため、パーティーには今まで入ってこれなかった。だが、常に男たちの視線を独り占めするほどの美貌が彼女にはある。

 ギルドで一緒に過ごしていることで気づいた。男たちはよくトウツさんを見ている。彼女はそれに気づいて放置しているようだった。特に胸や尻を無遠慮に見てくる男たちも多くいた。俺も時々見るから文句は言えないけど。

 あれ? 俺は何で彼女から逃げているんだろう。もう彼女でいいんじゃないかな。

 俺の手がポーションをつかむ。トウツさんがほほ笑む。ハッピーエンドだ。


『やめて!フィオ、別の方法探そうよ!まだ一年近くあるよ!?』

『そうだ、わが友。時期尚早だ!』

 ルビーと瑠璃が横でわめく。


 その声に俺は目が覚める。

 そうだ。トウツさんはこれを買うのに全財産を投入したと言っていた。何の条件もなしに、俺にこれを渡すか?


「トウツさん。」

「な~に?」

「俺がこれを飲んだ場合、交換条件がありますよね?」

「ちぇ~。飲んだ後にふっかけるつもりだったのに。」


 あっぶねぇ!無料ただほど怖いものはない。その言葉をこれほど痛感することは今までなかった。飲んだら最後、何をされていたか。

 俺は弾かれるように手を下げる。


「ちなみに、俺がこれを飲んだら何をさせるつもりだったんです?」

「ん~。人には言えないことかなぁ。」

 トウツさんが瑠璃たちを横目で見る。


「じゃあ仕方ないか。」

 彼女はおもむろにポーションを開けた。


「え。」

「だって仕様がないじゃないか。僕はこれをフィルたんに飲んでもらいたくて買ったんだよ? でもフィルたんは欲しくないと言う。全財産をこれにかけたんだよ? だったら僕が飲むしかないねぇ。不死にはならないけど、不老になるからねぇ。冒険者稼業もかなり延長できて稼ぎが安定する。すぐにこのポーションにかけたお金も稼ぎ直すことができるねぇ。」


 あーん、とトウツさんが口を開く。

 ポーションが傾く。ゆっくりと。トウツさんは上を向きながらにやにやと横目で俺を見る。おのれ、この人、わかって煽っている。ポーションの中の液体が傾き始めた。瓶の注ぎ口から雫が落ちそうになる。


「待ってください。」


 ぴたりと、トウツさんの動きが止まる。


「何かな~?」

「今飲むのはもったいないでしょう。やめましょうよ。」

「ちっちっち。わかってないなぁ。フィルたん。二つに一つだよ。今すぐ僕が飲むか、今すぐフィルたんが飲むかだよ?」


 トウツさんは破顔している。赤い目が嗜虐的に煌めく。怖い。


「……条件を。」

「んー?」

「せめて、条件を先に聞かせてください。お金も稼いで返します。必ず。」

「そうだね~。」


 トウツさんが瓶を机におき、人差し指で自分の顎をなぞる。


「フィルたんの本名を教えること。その他人行儀な敬語をやめること、かなぁ。」

「え?」


 意外な条件に俺は驚く。


「何を驚いてるの?えっちなことされると思った? フィルたんも男の子だね~。」


 散々襲ってきたやつが何を言ってるんだ。


「僕もね。わきまえはしているんだよ? 同意もなしに可愛い男の子を手籠めになんてしないさ。」

「本気で言ってます?」


 今までの前科を考えると正気を疑うわ。


「いやいや。正気だよ~? フィルたんだって時々僕の尻とか胸とか胸とか胸見てたじゃない?」

「ぐ。」


 図星で何も言い返せない。

 ルビーと瑠璃の目からハイライトが消える。こええよ。


「満更じゃないのかなって思うじゃない、そういうことされると。だからつい襲っちゃうんだよね~。だから僕だけが非難されるのは癪だなぁ。半分君も同罪だろう?」


 机から乗り出し、トウツさんが下から俺をのぞき込む。

 ばれている。仕様がないじゃない、男の子だもの。綺麗な女の人に言い寄られて本気で拒絶出来るわけがない。


「それにフィルたんは前世も含めればいい歳した大人だし~。むしろ僕よりも年上だし。全然問題ないよねぇ。」


 ぐぬぬ。


「だからね。本気でフィルたんが拒絶しないなら僕は改めて襲うね。本名が知りたいのも、敬語をやめてもらうのも、僕を本気で好きになってもらうための方便だからねぇ。」

「え、トウツさん俺のこと好きなんですか?」

「いや、体だけが目的だよ?」

「意味わっかんねぇよ!」

「僕は君の体だけが目的だけど、君には僕だけを見てほしいんだよねぇ。」

「横暴かよ!?」


 いっそ清々しくて許せるわ!


「そういうわけで、はい。」

 トウツさんが瓶を俺の前に出して、傾ける。


 紫の液体が滑り落ち、口に雫をつくる。このままでは机に落ちてしまう。


「うわわわ!」

 俺は慌ててひな鳥のように口を突き出す。


 舌の上にポーションが乗った。苦い。えぐみのあるえげつない味が舌を蹂躙する。鼻から突き抜けてくる異臭に顔をしかめる。


「うふふふ。苦しみながら僕に餌付けされてるフィルたんかわええ。」


 俺はお前が怖いよ。

 俺は口に入ったポーションを全て嚥下した。喉が小さく鳴る。飲んだ。飲んでしまった。すぐに体がポカポカしだす。頬が上気するのがわかる。


 トウツさんが立ち上がり、後ろに回り込んで俺を抱きすくめる。


「ふふふ。これで君は永遠の六歳児だ。」


 気分は蛇に巻かれた蛙だ。この選択でよかったのだろうか。後悔という二文字が頭の中をぐるぐると回り始めた。


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 次話まで見ていただけると幸いです。

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