第40話 初めてのクエスト9
ギルドに戻った俺たちはすぐに査定を始めてもらった。アーマーベアが2体。コボルトが23体。ゴブリンが巣穴ごと潰したので34体。魔猿は木々を跳び回っていたので捕まえづらかった。なので7体に留まった。
魔猿を追いかけまわす間に俺の魔力が心もとなくなってきたので中断という運びになった。
査定所に魔物たちを亜空間リュックからぶちまけて並べたところ、アキネさんからは「多すぎます!ブラック労働反対!」と小言を頂戴した。
申し訳ない。
時間がかかるとのことで、褒賞金の受け渡しは後日となった。
「解体を自分でしないだけで、これだけ魔物と戦えるんですね。他の冒険者さんが解体をしないのもわかる気がします。」
「ね~。」
俺の独り言ともつかない言葉にトウツさんが返事する。
「いい時間だし、一緒に夕飯でも食べていくかい?もちろん、デザートはフィルたんだね。いや、この場合はおかずかなぁ。」
「師匠に夕飯作らないとだから、帰りますね。」
俺は爽やかな笑顔で帰路に就く。
お面で顔は見えないかもだけど。
「うそうそうそ。ごめ~んね。許して。一緒に食べよおよぉ。」
トウツさんが俺の腰にまとわりつく。
俺の体躯が小さいので、トウツさんが地面にうつ伏せになり引きずられる。
「
俺は残り少ない魔力を振り絞って力強く歩みを進める。
「え、嘘。そこまで嫌!?」
ズルズルとトウツさんを引きずる。
幼児に成人女性は引きずられる変な絵面になってしまった。
ギルド内の人たちが思わず俺たちを見てくる。
が、「何だあの兎人か。」とすぐに目をそらす。
あんた普段どんだけ素行が悪いんだよ。
「真面目な話、連携の反省とかしとかないとウォバルおじさんたちに迷惑かけちゃうからさ~。一緒にご飯食べようよ~。」
俺の歩みが止まる。
「それなら最初からそう言ってくださいよ。」
俺はため息をつく。
本気で逃げに徹するところだった。
俺は近場のテーブルを見つけ、椅子に腰かける。体が小さいので、飛び乗る形で座る。
「え、お師匠様はい~の? 誘ったのは僕だけどさ~。」
トウツさんが横に腰かける。
俺は無言で対面に移動する。
「あの人は研究が出来ればそれでいいですから。俺が食事を作らなければその時間分、研究の時間が増えるくらいにしか思ってないですよ。」
「何それ妖怪じゃん。」
「俺もそう思います。」
珍しく俺たちの意見が一致する。
「おい坊主。」
よく響く低い声が俺を呼んだ。
その方向を見ると、ゴンザさんとロベリアさんが夕食をとっていた。
「気持ちは痛いほどわかるが、ギルド内で魔法は使うな。」
「あ、はい。」
スイマセンシタ。
俺たちはそのままゴンザさんたちと夕食を共にすることになった。テーブルを移動するさい、さり気なくトウツさんに隣を陣取られてしまった。ぬかった。
「おい。フィル坊にはノータッチだぞ。」
「えへえ。」
ゴンザさんに釘を刺されたトウツさんが変な声を出す。
「ゴンザさん、ギルドマスターでいてくれて有難うございます。」
俺は頭を下げる。
「俺はこんなことするためにギルドマスターになったわけじゃないんだがなぁ」
ゴンザさんがたくましい髭を太い指でなぞる。
「フィル君、お肉を食べなさいな。身体を早く大きくしないと。」
ロベリアさんが俺の皿に肉をよそう。
俺もトウツさんもまだ注文してないんだけど。
「いえ、ちゃんと注文します。すいませーん!」
「はーい。」
パタパタと、ギルドの食堂職員が駆け寄ってくる。
「何で成長する必要があるかなぁ。小さいままでいいんだけど。」
隣で真剣な顔しているトウツさんは放っておく。
「このAセットをお願いします。」
俺は肉が多めのセットを頼む。
たぶん成人男性用の、しかも冒険者用のメニューだ。俺は色んな意味で体を早く成長させたいので、最近は無理してこのメニューを完食している。
「へぇ。結構食うじゃねえか。」
ゴンザさんがガハハハッと笑う。
「暑苦しいマッチョに成長しないでね?」
隣でトウツさんが潤んだ目で俺を見る。
「俄然やる気が出ました。」
「どうして~。」
トウツさんがうなだれる。
「トウツさんはどうします?」
「僕は華奢だからねぇ。野菜が多いCセットにするよ。」
トウツさんは女性向けのメニューを頼む。
ここのギルドはちゃんとした栄養士を雇っているらしく、ニーズに合ったメニューが豊富らしい。
ゴンザさん曰く、「ただでさえ田舎なんだから飯くらい美味しくないと冒険者が寄り付かんわ!」とのこと。
「胸の辺りは華奢じゃないがな!ガハハハッ!」
ゴンザさんが笑う。
ロベリアさんがゴンザさんの二の腕にフォークを突き立てた。
「いってえ!?」
ゴンザさんが叫ぶ。
周囲の冒険者が一瞬こっちを見るが、「何だゴンザさんか。」と呟き自分たちの食事にもどる。
何というか、ギルドマスターを始めとして、ここの人たちは誰もかれもがたくましい。
「痛ぇな、ロベリア。」
ゴンザさんが腕をさする。
さするくらいで済むのか。ロベリアさん、割と本気で刺してたけども。
「旦那が堂々とセクハラすりゃ嫁が怒るのは当然よ。」
猟奇的なことをした割には、涼しい顔をするロベリアさん。
「トウツさんはいいんですか?」
俺はトウツさんに確認する。
「ここで嫌と言えば僕はフィルたんに合法的にセクハラ出来なくなる。それは絶対に嫌だ。」
真剣な顔してトウツさんが言う。
心配して損した。
「真剣な話になるけどよ、お前らの相性は今のところどうなんだよ?」
「最高ですね。ばっちりです。阿吽の呼吸と言えばいいのでしょうか。これはもう一生のパートナーと言っても差し支えないのでは。この相性の良さはまさにそう、夜の相性もばっちりだと確信できる信頼があります。」
「トウツさんが対人に特化しているというのは、戦いを見てよくわかりました。俺はどう頑張っても彼女にタイマンでは勝てないと思うけど、前衛と後衛ではやることが全く違うんですね。安心して援護攻撃が出来ました。」
「俺は真剣な話と言ったんだがなぁ。」
ゴンザさんがトウツさんを見る。
「あなた達、足して二で割った方がいいかもね。」
ロベリアさんが言う。
「足して二で割っても変態になります。」
俺は毒を吐く。
「ちげえねえ!」
ゴンザさんが快活に笑う。
「僕、真剣な話したんだけど。」
トウツさんが真顔で言う。
何だその真顔。怖い。
隣でルビーが『ふー!』とか猫みたいに威嚇している。
「お待たせしました。AセットとCセットです。」
「お、きたきた。い~ただきま~す。」
「頂きます。」
俺とトウツさんが手を合わせる。
「およ?」
不思議そうな目で、トウツさんが隣の俺を見る。
「何ですか?」
「いや、ハポン式の食事の儀式に付き合う人は珍しいなぁと思ってねぇ。」
ドキッとする。
「食事の祈りなのかなと思いまして。信仰もないのに真似するのは迷惑でしたか?」
俺はごまかす。
「いんや~。僕の国の神様仏様はそういうので怒らないと思うからいいと思うよぉ。」
「良かったです。」
危ない。ボロが出ないようにしないと。
「トウツ。フィル坊の魔力はどうだ? 長期戦はいけそうか?」
俺の呼び名、フィル坊で定着したんだな。
「魔力自体は5歳だからやっぱり少ないねぇ。でも、年齢が一桁の人間捕まえてきて、フィルたんほど魔力を持ってる人はいないと思うよ。一桁男児ソムリエの僕が保証する。」
そんな保証要らなかった。
「ただ、魔力の節約の仕方が本当上手だねぇ。あの森で生活していたから、そうせざるをえなかったのかなとも思うけど。何にせよ、今回の戦いではちゃんと戦力として数えられるよ。」
トウツさんが誉め言葉で締めくくる。
俺は少し照れる。
「ほら言っただろう。杞憂だってな?」
ゴンザさんがロベリアさんを見る。
「でもトウツを付けたのは正解でしょう?」
ロベリアさんが言う。
「ん、僕を付けて正解だと思う。今回の敵はやっぱり規模が大きいから。フィジカルに難があるフィルたんは一撃でも食らったら不味いかも。その点、ここの冒険者の中では一番身軽な僕を護衛としてつけるのはベターな選択だと思う。」
そう、トウツさんが締めくくった。
真面目な話も出来るじゃないか。感心したぞ、変態兎。
「よしよし。ウォバルも現役近くまで力を戻しているらしいし、大丈夫そうだな。ちなみに、連携の練習をとる時間はないが、俺も参加するからな。いいか?」
「もちろ~ん。ここだと僕より強いかなって思えるのはウォバルおじさんにゴンザおじさんくらいかなって思うし。」
「ぬかせ。場所を選べば一番強いのはお前だよ。」
「それほどでも~。」
トウツさんが糸のように目を細める。
綺麗な赤目が細い線になる様が、俺には不気味に見えた。
「フィル坊。」
「はい、何でしょう?」
水を向けられたので反応する。
「そろそろ訓練がてらクエストを受けるのはやめておけ。休養と、魔力を蓄える生活にシフトしな。食い物も肉からエネルギーになるのに切り替えろ。アスピドケロン討伐はハードワークになるぞ。」
「はい、分かりました。」
俺の初めてのパーティー攻略が、始まる。
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