第34話 初めてのクエスト3

「トウツ君、アスピドケロンについては?」


「資料はある程度ロベリアさんに見せてもらったから大丈夫。けったいな生き物だねぇ、これ。」

 俺をあすなろ抱きしながらトウツさんが話す。


「わかった。戦い方のすり合わせをしよう。私は見ての通り、斧使いだ。前衛。その気になればショートレンジの魔法も使えるが、それをするくらいなら近づいて斧で切りかかった方が早い。手前味噌だがね、近接での火力ならばこの中で一番の自信がある。斧に付与効果を付け加えることもできる。才能がなくてね。火魔法しか使えないが、それを斧にのせて敵を焼き切ることができる。」

 ウォバルさんが話す。


「私も火魔法が一番得意。あと、雷魔法も出来る。かなり、レアだと思う。長距離の火力は自信がある。もちろん後衛。」

 シャティさんが自己紹介する。


 雷魔法。彼女が言う通り、レアな魔法だ。

 学院をかなり良い成績で卒業したと聞いただけあって、特別のようだ。

 この世界では原理が不明とされている魔法だ。だが、要はプラスイオンとマイナスイオンの摩擦を操作できればいいのだろう。水魔法と風魔法の融合だと俺は考えている。

 ということは、本人に自覚がないだけでシャティさんは三属性使えることになる。

 エイブリー姫が聞いたら全力でスカウトしそうだ。


「俺は弓兵だ。後衛だな。風魔法が使えるから、矢の軌道をある程度操作できる。火力は低いが命中精度に自信がある。今回は相手に毒耐性があるっぽいが、毒矢も一応ある。」

 ライオさんが続く。


「僕は剣士だね。火魔法と風魔法を使える。大型の魔物を風圧でけん制できるし、切り刻むこともできる。けど、今回は活躍が難しいだろうね。相手が大きすぎる。ただ、剣技には自信がある。使っている剣は魔剣だ。斬ったものを爆破できる。普段は身体強化ストレングスを使って前衛をしている。」

 ロットンさんが話す。


「えっと。後衛。回復役ヒーラーです。」

 ミロワさんが小さい声で話す。


 ロットンさんの裾をつまんでいるのが、机の上からでもわかった。可愛いの権化かよ。


「僕もぜんえーい。」

 俺の頭に顎を乗せてトウツさんが話す。やめてほしい。


 心なしか、頭にかかる息が荒くなっている気がする。怖い。

 ルビーも頬を膨らませるんじゃない。君は俺の何なんだ。


「この刀でね。敵をすぱーっと斬るやつができるよ~。あ、これ刀って言うんだけど、よく斬れるやつ。その代り使い方が下手だと簡単に折れるけど。僕の国の特産品ね~。対人戦は得意だけど、魔物相手はそこそこかなぁ。魔物の血って、刀がすぐ駄目になるから困るんだよねぇ。得意魔法は風魔法。こと切断に関しては一日の長があるよ~。」

 トウツさんが話終わる。


 周囲の目線が俺に集まる。ゴンザさんは特に期待の色をにじませていた。

 さて、どこまで話したものだろうか。


「えっと。前衛もある程度できるけど、後衛になると思います。使える属性は火・水・風・土の四属性です。」


「ほう。」

 とウォバルさん。

「む。」

 とシャティさん。

「マジかよ。」

 とライオさん。


 トウツさんが俺を抱く力が強まる。怖いよぉ。


「その齢で四属性か。将来が怖いね。」

 ウォバルさんが言う。


「ありがとうございます。火力に関しては、ワイバーンの頭くらいなら消し炭に出来たり切り飛ばしたりできます。ただ、魔力量が皆さんに比べると極端に低いので長期戦は厳しいです。」


 ぼろが出ないように情報を短めに圧縮する。

エイブリー姫との約束以降、かなり鍛えたのだ。ワイバーンとの勝負なら、もう危なげなく勝つはずだ。


「どうして俺らの魔力量がわかるんだ?」

 ライオさんが呟く。


 あ、ぼろが出てましたわ。


「えっと、空気中の魔素と皆さんの体表にある魔力の混じり具合を見ると、大まかには。でもそこまで詳細はわからないんですよ?」


「魔力が見える!?」

 ロットンさんが声を荒げる。


 やべえ。どんどん墓穴掘ってる。

 え、というか皆見えないの!?


「そんなことが出来る人は、よっぽど魔法に秀でているか、精霊に近しい人間だけだねぇ。」

 俺の頭に顎をぐりぐり擦りつけながらトウツさんが言う。


 人と精霊が交わった子孫がエルフだ。

 まずい。感づかれる。

 森のエルフたちにさえばれなければいいのだが、一人にばれた時点で秘密は秘密でなくなるのだ。元いた世界でそれは嫌というほどわからせられている。


「君は何者だい?フィル君。」

 ロットンさんが俺を見やる。


「えっと、俺は師匠が特別なので。」

 秘儀、師匠の七光り発動。


「む、ストレガさんの弟子なら確かにあるいは。」

 シャティさんが呟く。


「あの婆さんなら出来るだろうなぁ。」

 ゴンザさんも頷く。


 良かった。マギサ師匠が俺の師で。ぶっちゃけ今世での俺の運って、あの人の元に流れ着いた時点で使い果たしているのではなかろうか。


「ちなみに、魔力の見方を教えてくれたりは?」

 シャティさんが俺を見る。


 常時仏頂面なのに、珍しくエメラルドの瞳が欲に揺れている。


「すいません。企業秘密なんです。」

「む。仕様がない。魔法の道は自分で切り開くもの。」

 けっこうあっさりと、シャティさんが引いた。


 少し耳が赤い。ぶしつけにコツを聞いたことを恥じているのだろうか。

 彼女、プライドが高そうだし。


「私もフィル君の素性については興味が尽きないがね、詮索はするものじゃないよ。」

「はい。」

「お、おう。」

「はーい。」

 ウォバルさんの忠告に各々が返事をする。


 助かった。持つべきものはダンディなイケおじである。


「一応、戦力のすり合わせは済んだかな。前衛が私、ロットン、トウツの三人。後衛がミロワ、シャティ、ライオ、フィルの四人だ。役割は被ってはいないし、存外バランスもいい。ゴンザの言う通り、このメンバーがいるときにアスピドケロンへ挑めるのは僥倖という他ない。」


「敵をよく知っている風だねぇ。」

 トウツさんが口を挟む。


「実際に、私とゴンザが直接戦っているからね。」

「本当か?」

「本当だとも。あれは中々に大変だった。」

 ライオさんの質問にウォバルさんが答える。


「アスピドケロンという名前をつけたのは、伝説級の魔物にそういうやつがいるからだよ。身体的特徴がそっくりだからね。ただ、今回の敵はあくまでもキメラであって、アスピドケロンはあくまでも通称ということにしてほしい。」


「わかったよ。名前はあることが重要だしね。」

 ロットンさんがミロワさんと一緒に頷く。


「私とゴンザが出向いたのは、いわゆる威力偵察というやつだね。何しろ珍しい魔物なものだから、ギルドとしても、どの難易度の依頼にするのか図り損ねたんだ。」


「結果的には、どのランク?」

 シャティさんが尋ねる。


「Aの中位だね。」

「中位か。厄介だな。」

 ライオさんがうなる。


「あの。Aの中位とは、どのくらいの難易度なんですか?」

 話を切ってしまうことになるが、知らないまま帯同するわけにはいかないので俺は尋ねる。


「そういえば君はまだ素人だったね。魔法の使い手としてはかなりのものだから、うっかりしていたよ。」

 ウォバルさんはほほ笑む。


 ちなみに俺はウォバルさんの前で戦ったことは、当然ない。何故俺の実力が測れているのか。この人も大概怖い。


「君の戦歴だと、ワイバーンだね。ワイバーンは一体を狩る場合はB級だよ。B級は冒険者や傭兵が警護していない村や町をほぼ全て損壊させる程度の危険度だ。そのワイバーンが五体以上集まるとA級扱いされる。冒険者や騎士、傭兵が警護していても壊滅される危険のある強さだ。」

 町を破壊できる、別名災害級と呼ばれるクラスだね、とウォバルさんが付け足す。


「魔物の強さというよりも、危険度なんですね。」


「ああ、そうなる。疫病をまき散らす魔物なんかはA級以上が多いね。場合によってはネズミ型の魔物ですら数が集まればA級指定を受けることがある。」


「病気を運んでくるから?」

「飲み込みが早いね。師がいいのかな?それとも君の才能かな?」

「お師匠のおかげです。」

 謙遜しておく。


「そういうことにしておこう。だからね、A級以上のクエストを私らみたいな荒事専門ばかりが解決するわけではない。治療のスペシャリストや、本人は戦闘能力がなくても人心掌握のみでS級まで上がるやつらだっている。」


 思ったよりも、この世界の冒険者はフレキシブルな組織のようだった。


「そういうわけでね、こいつがA級中位なのはその図体の大きさなのさ。」

「大きさ。」

「そう。甲羅の幅だけで200メートルを超える。通過するだけで村が破壊される。それこそがこいつがA級、つまりは災害級と指定されている最大の原因だよ。」


 俺は想像してみる。確か俺が通っていた高校の校庭の幅が100メートルと少しくらいだった。あれの二倍の大きさの亀が村を襲うのだ。

 喉を唾が通過する。


 初めての正式なクエストは、怪獣大戦争のようだ。

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