第25話 初めてのお使い5

「お待たせしました!こちらが褒賞金です!」

 アキネさんが他のギルド職員と共に大量の金貨と銀貨をもってきた。


ウォバルさんやアークさんと共に、袋の中の金額を確認する。俺はこの世界の単価をよくわかっていないので、一瞥いちべつして亜空間リュックに詰め込んだ。


「ちゃんと確認しなくてよいのですか?」

 アキネさんが尋ねる。


「わからないので師匠に見てもらいます。」

「ああ、そうだね。そうした方がいいだろう。」

 隣でロットンさんも頷く。


「さぁ、さっさと帰ろうか。途中で僕のパーティーメンバーとも合流していいかい?」


「いいですよ。」

 断る理由もない。


「森の入り口近くまでは私も同行するよ。いいかい?」

 ウォバルさんも話しかける。


「いいんですか? ありがとうございます!」

 一度にこの村のA級冒険者のどちらともお近づきになれる。願ってもないことだ。


『ただいまー!フィオ、終わった~?』

 ルビーが解体所の壁から抜けて出てきた。ギルドの見学が終わったのだろう。


『終わったよ。今から帰るところだ。行こう。』

『アイ、サー!』

 元気よくルビーが敬礼する。


「おや?」

「魔素が濃くなった?」

 ウォバルさんとミロワさんが呟く。


「どうかしたのか?」

「何か感じたのかい?ミロワ?」

 ゴンザさんとロットンさんが尋ねる。


「魔素が濃くなったんです。」

 ミロワさんが自信なさげに言葉を紡いだ。


「私も感じたよ。何かがいるね。」

 ウォバルさんも言う。


 それを見てミロワさんがほっとした顔をした。自信がなかったのだろうか。


『ルビー、まずい。撤退。』

『えー!』

 ルビーが空中でくねくねする。何だその動き。


『怪しまれるから。早く!』

『ちぇー。』

 ルビーが壁の向こうへ消える。


「あれ?」

「いなくなったのかな?」

 ミロワさんとウォバルさんがすぐに気づく。


「おいおい何だってんだよ?」

「僕はミロワみたいに感知能力に長けていないからなぁ。」

 ゴンザさんとロットンさんが話しかける。


「たぶん、妖精かなんかかな。ワイバーンの見学にでも来たのかな?」

 ウォバルさんが呟く。


「この感覚、妖精なんですか?」

 ミロワさんが尋ねる。


「確証はないけどね。世の中には妖精に魅入られる人間が稀にいるんだ。そのうち一人と出会ったことがあるよ。西の方で魔物の大規模討伐があったときにね。周りの魔素が輝いて見えた。あの時の感覚に近かった。」


 ドキッとする。

俺以外にも妖精と交流をもつ人間がいる!うまくここで聞き出せば、七歳以降もルビーと会話が出来るかもしれない!


「西の大規模討伐って、例のレギア皇国での大掃討戦ですよね? あの生き残りなんですか!?」

 ロットンさんが目を見開いて驚く。


「大掃討戦?」

 俺がつい、呟く。


「西の方にあるレギア皇国という国でな、魔物の大反乱が起きたのさ。」

 ゴンザさんが説明する。


「最初はどの国も援助なんて出さなかった。国一つ潰れる魔物の反乱なんて、特S級の魔物が出ない限りあり得ないからな。ただ、この時の反乱は普通ではなかった。」


「魔物のランクはA級止まり。ただ、とにかく数が多かった。」

 ロットンさんが言葉を続ける。


「そうさ。物量が圧倒的だったんだよ。最終的な統計では、レギア皇国の国民の5分の1近くの魔物がいたってことらしい。そんな数の魔物がどこに隠れていたかも、なぜそいつらが一度に暴れたのかも不明とされている。レギア皇国が瀕死になって初めて周囲の国も気づいたのさ。対岸の火事じゃないってな。」

 ゴンザさんの隣でウォバルさんが黙している。当時を思い出したのだろうか。


「A級以上の冒険者は大金をつぎ込まれて次々と参戦した。俺たちも参加した。その時に出会ったのさ。妖精つきとな。」

 気づいたのは感知が上手いウォバルとフィンサーだったがな、とゴンザさんが付け足す。


「たまたまだよ。その時はそれが妖精だと気づいていなかったからね。」

 ウォバルさんがほほ笑む。


「その人は、何という名前ですか?」

 怪しまれないように、出来るだけ自然に質問する。


「エイダン。確かエイダン・ワイアットと名乗っていたよ。」


 エイダン。エイダン・ワイアットか。覚えたぞ。

 俺が森を出たら、しばらくはこの人を探す旅に出てもいいかもしれない。今その人の所在を尋ねたら怪しまれる。今度改めて識者に聞いてみよう。


 俺たちは会話をしながら解体所を抜け、気づけば元のギルドホールに来ていた。


 周囲の冒険者たちがざわつく。

 ギルドマスターにA級冒険者、元A級冒険者にお面を被った変な童子だ。目立つ集団なのだろう。


「おい!そこのお面のガキ!俺たちのパーティーに入らないか!」

「何言ってんのよ!私らが先に声かける予定だったのに!」

「早いも遅いもあるか!こっちにこいよ坊や!まだC級だがB級に近いパーティーだぜ!」

「こっちは討伐した魔物の部位選択優先権をやろう!」


 どっと人が押し寄せてくる。


「うわっ。うわっ。」


 人に圧倒されそうになる。

 ホールの高い天井の近くでは、空気を混ぜるファンの横でルビーが心配そうに俺を見つめている。


「この人たち何なんですか!?」

 俺は慌ててロットンさんに尋ねる。


「僕らと同じ、スカウトだろうね。」

 ロットンさんが苦笑いする。


「この子のスカウト優先権はすでに僕らがもらっている!申し訳ないが下がってくれないか!」

 ロットンさんが大声で周囲の人々をたしなめる。


「ふざけんなぼけ!」

「A級だからって横暴だ!」

「お前ここの生まれじゃないだろう!」

「よそ者はすっこんでろ!」

「ここは万年人材不足なんだぞ!」

「イケメンは死ね!」

「ミロワちゃんはおいてけ!」


「あ、あれ?」

 端正な顔に汗をにじませて、ロットンさんが焦る。


A級という肩書で冒険者たちが黙ると思っていたのだろう。

 俺もそう思っていた。この村の人々はかなり押しが強いようだった。


「静まれい!」

 ゴンザさんが大声で周囲の声をかき消す。


 あまりの大声に頭が痛くなる。

 隣では「うお!?」と言いながらロットンさんが耳を塞いだ。ミロワさんも両手で頭を覆う。

 ウォバルさんは優雅に片耳を閉じていた。流石にゴンザさんとの年季が長いのか。

 見ると、周りの冒険者たちもあらかじめ耳を塞いでいた。ここではゴンザさんの声量対策は必須項目なのだろうか。


「こいつの年齢はまだ五歳だ!」

 ゴンザさんが続ける。


「五歳!?」

「嘘だろう?」

「小さいとは思っていたが。」

小人族ハーフリングじゃないのか?」

「馬鹿。さっき捨て子だと言ってただろう。」

「五歳で魔法の才能なんてわかるのか?」

 また周囲がざわつき始める。


「知っての通り、冒険者登録は14歳からだ!こいつはその条件を満たしていない!ロックスのはスカウトというよりも、つばつけとくようなもんだ!わかったら解散!」


「え~。」

「スカウトじゃないにしても繋がりは残したいよな。」

「あの婆さんの弟子だぜ?」

「将来有望だ。」

「あのお面気になる。」

「あのジェノサイドばばあの弟子とか即戦力じゃん。」


 ジェノサイドばばあって何だ。気になる。


「何だ、ロットン。その子と今日は過ごすのか?」

 人込みの間から二人の男女が近づいてきた。


 一人は赤くて長い髪を一つ結びにした男性。顔は整っているが、野性味がある男だ。齢は少しロットンさんよりも上だろうか。

 もう一人は水色の髪をした女性。目元がきりっとしていて、鋭い。赤髪の男は弓を背負っている。後衛か。水色の髪の女性は動きやすい短めのローブにロッド。


「やぁ、待たせたね。紹介するよ。こっちの赤いのがライオ。青いのがシャティだ。」

 ロットンさんが紹介する。


「説明が雑。」

 シャティさんが眉をひそめる。


「はは!そのくらいいいだろ!」

 ライオさんが豪快に笑う。


「そしてこの子はフィルだ。フィル・ストレガ。正真正銘あのストレガ氏のお弟子さんさ。」


「マジか。」

「む。」

 ライオさんが口をあんぐりと開ける。

 シャティさんが俺を見る目が変わる。同じ魔法使いとして思うところがあるのだろうか。


「積もる話は歩きながらしようか。ここは人が多い。」


 みんなで連れ立って歩き出す。


 ロックスさんのパーティーに不満を叫ぶ人たちをゴンザさんが一喝する声を後ろに聞きながら、俺たちはギルドを後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る