第17話 vsワイバーン3

 生きていた。

 俺は生きていた。


 起きるとすぐにルビーが泣きだす。


『もう!もう!もう少し考えて戦ってよ!僕の気持ちになってよ!僕は君を守れないんだよ!』

「悪い、ルビー。俺はどのくらい寝てた?」

『30分くらいだよ!』

「運がよかった。もっと寝てたら食われてたな。」


 慌てて周りを警戒する。

 探知魔法を使えるほど魔力は回復していない。目視や音の情報だと、少なくとも周りに人間サイズ以上の生き物はいないようだった。

 師匠に指摘されて以来、エルフの耳を活用するようになった。この耳はとても性能が良い。目で入ってくる情報は奥行きのある平面だが、耳の情報は立体なのだ。音の反響で周囲の様子が立体的に感じることができる。


「たぶん、ワイバーンが直前まで暴れていたから他の魔物は避難していたんだな。」


『そうみたいだね。』

 ルビーが周囲をきょろきょろと見ながら話す。


 ナハトは静かに羽を整えている。


「……ナハト、お前って師匠よりもスパルタかもな。」


 死にそうな場面がいくつかあったのに、こいつは結局俺をフォローすることはなかった。


「まぁ、そっちの方が助かるけども。」


 なんとなく。なんとなく先ほどのワイバーンとの戦いは自分の中で崇高なものになった気がして、誰にも邪魔されたくなかった。


「切り替えよう。周囲の魔物がワイバーンの敗北を確信し始めるころだ。解体して、持ち帰れるものは持ち帰る。」


 うかうかしていると死肉あさり、横取りを得意とする魔物が寄ってくるころだ。

 ふと気づくと、力が体中からみなぎる感じがする。体の中で魔力の奔流が渦巻いている感覚。体中の血管の直径が1センチほどになったのかと錯覚するほど、体内を巨大なエネルギーが回る感覚がする。


「これが、ワイバーンの力か。魔力の塊と呼ばれる魔物の力。」


 死した魔物から取り込まれる魔力は、あくまでもほんの一部だ。それでこの全能感。

 ドラゴンスレイヤーとなった冒険者たちが、貴族のお抱えになるのを断るのもわかる気がする。確かにこれはジャンキーになりそうだ。


「こんなにはっきりと存在の力を感じたのは赤子の時にバトルウルフを殺した時と、初めてアーマーベアを討伐した一年前かな。」

 俺はナイフでワイバーンの爪を剝ぎ取りながら独り言をする。


 赤子の時は不思議に思っていた。

 バトルウルフに食べられそうになったあの日。俺はなんとか逃げおおせたが、魔力をほぼ全て使ってしまっていた。だが、川に流されて漂流した後、火魔法で体を温めて延命できた。

 結果、マギサ師匠に拾われることとなった。

 あれはバトルウルフの魔力を取り込んでいたのだ。喉を紅蓮線グレンラインで焼き殺したあのバトルウルフだ。


『この分なら、帰りは大丈夫かも。』

「ワイバーンの魔力を少し取り込んだからな。」


 この世界では倒した相手の魔力、つまりは存在の力を取り込むことができる。魔力の天井が上がると考えればいい。

 俺は30分ほど気絶していたので、魔力が10パーセントほど回復した。ワイバーンの魔力を取り込んだので、俺の元の魔力が100だとすれば今は130ほどだろう。

 ほんの一部をもらっただけで魔力が3割も増えるのだ。命を賭けたかいがある。

 絶対値が増えたので回復した魔力は10パーセントではなく、実質13パーセントなのだ。この3パーセントは大きい。


 俺は改めてワイバーンの亡骸と向き合う。


「ありがとう。」


 俺を敵として認めてくれて。

 俺の糧となってくれて。


「鮮度があるうちにさばかないと。ただでさえ龍種は固いんだから、死後硬直したら身体強化ストレングスをかけないとさばけない。」


 父親のカイムに感謝しなければ。

 彼が渡してくれたナイフはかなりの業物らしい。

 マギサ師匠が「付与魔法つき装備に片足突っ込んでるね。」と評していたほどだ。

 持ち主の魔力が浸透し、付与魔法つき装備と同等の業物になる装備はまれにあるらしい。

 今世の父親は、どうやらエルフとして誇れる男のようだった。

 これがなければ俺の細い腕でワイバーンの鱗を割くなんてできない。


 ぽつぽつと、雨が降り始める。

 黒い雲があっという間に上空を覆いつくし、曇天になる。


「げ、急がないと。」


 雨風関係なく、ここ2年は魔物の住む森に挑んできた。

それでもここは魔物たちのホームなのだ。雨天での戦闘はここの森の住人の方が俺よりも得意としている。

 俺は翼の解体に取り掛かる。


「鱗は全部剥ぎ取りたいけど、時間がないよなぁ。」


 あと肉も食べたい。ワイバーンステーキというものを食べてみたい。せっかく異世界にきたんだ。異世界でしかできない食事というものをしてみたい。


『フィオって、変なところ豪胆だよね。』

「そうか?」

 どちらかというと、考えなしなだけだと思うが。


 俺は亜空間ポケットというリュックに剥ぎ取った素材を放り込んでいく。

 中身が空間魔法という、闇魔法の中でもレアな魔法で作られた空間になっている。俺のリュックはちょっとした家一軒分は容量がある。肉も腐らずに保存ができる優れものだ。

 高位の魔法使いでも一生のうちに片手で数えるくらいしか作れない高級品らしい。

 マギサ師匠から借りているものだ。

 「買えばいくらですか。」と尋ねたことがある。「人の一生を3人分くらい買える。」と返された。それを聞いて以来、俺はこのリュックを背にして後ろ受け身をとらないようになった。

 さっきのワイバーン戦? 命がかかってたからセーフ。


 遠くで雷が鳴った。かなり大きいやつだ。

 この世界は樹木も川も大きいが、雷も大きい。

 一瞬、ワイバーンの鱗を剝いでいる手元が真っ白になる。

 見ると、遠くで見たことがないくらい太い雷が落ちていた。


「えげつないな。」

 独り言をしながら、ワイバーンの肉を割く。


『フィオ。』

 ルビーが短く俺に注意を促す。


 周りを見ると、ブラックドリルホーネットやタイラントヴァルチャー、フォレストハイエナがこちらの様子をうかがっている。

 この森のスカベンジャーたちだ。

 彼らが考えているのは、他のスカベンジャーとの三すくみになるか。それとも俺を含めての四すくみの戦闘になるかだろう。

 一番体格が大きいのはタイラントヴァルチャーだ。ハゲワシみたいな鳥で、体長は3メートルほどもある。木の間から顔をのぞかせている。ブラックドリルホーネットは、ドリルホーネットの中でも死肉あさりに特化した個体。フォレストハイエナは群れで行動するはずだ。木陰から俺を見つめているのは先遣隊だろう。


 彼らは戦わずしてワイバーンの死肉をあさりに来たはずだ。俺と争うのは本意ではないはず。

 それはこの森での今までの狩が立証している。

 しかも俺は単体でワイバーンを倒した謎のエルフだ。あいつらは戦いたくないはず。

 彼らは死肉あさりだ。俺と違って腐った肉を食べても平気な頑丈な体をもった生き物だ。数時間くらい待ってくれるだろう。

 俺は堂々とワイバーンの解体を続ける。


『何でそんな変な肝の据わり方してるのさ。』

「あの化け物ばばあ師匠の弟子したら、このくらいにはなるよ。」


 俺は淡々とはがした鱗や肉をリュックに放り込んでいく。手の平が雨に濡れて少しふやけてくる。

 雷の音が少し近くなってきた。急がないといけない。


「とりすぎたらいよいよあいつらと戦闘になるな。美味しい部位だけもらって、あとはくれてやろう。」


 尻尾の先の鱗はサイズこそ小さいが、武器に使うくらいだ。硬度が最も高い鱗である。ここは確実に持って帰らねば。


 しばらく剥ぎ取りを続けていると、フォレストハイエナが他の個体と合流したようだった。しばらく鼻先を突き合わせると、森の奥へと消えていった。


「?」


 俺は最初気にせずに解体を続けていた。

 すると、今度はブラックドリルホーネットもいつの間にか消えていた。

 流石に気になったので手元に集中しながらも、目線はタイラントヴァルチャーの方へと向ける。


 ぴくり、とタイラントヴァルチャーの頭が動いたように見えた。

 すると巨大な怪鳥は突然挙動不審に首をきょろきょろとせわしなく動かせる。巨大樹に捕まり、木の上から周りをうかがい始める。

 次の瞬間、ぱっと木から飛び立ち物凄い速度で南の方角へと消えていった。


 おかしい。

 タイラントヴァルチャーはハゲワシのような姿をした鳥型の魔物だ。

 空気の流れを読んで滑空しながら飛ぶのが彼らの普通の飛び方のはずだ。

 しかし今の姿は何度も羽ばたいて無理して加速する飛び方だった。


「ルビー。」

『うん。何かがおかしいよ。森が静かだ。』


 俺は近くの巨大樹に捕まり、するすると木登りをしていく。ある程度周りが見渡せる枝を見つけると、そこから森を見渡す。


「本当だ。ワイバーンが暴れてたから魔物も動物も消えてたと思ってたけど、この静けさはそれだけじゃない。おかしい。」


 この静けさは俺が森で狩を始めてから2年、一度も見たことがない。


 これはまずい。今の状況は知らない状況だ。「知らない」は森では死を意味する。

 俺は巨大樹から跳び下りる。


「ルビー。帰ろう。できるだけ早く。ナハトはこの森の異変をマギサ師匠に伝えてくれ。」

「ぎい。」

 軽く鳴いた後、ナハトが飛び立つ。


「行こう。ルビー。」

『うん。』


 ————しばらく俺はルビーと共に森を駆けた。強化魔法は使わず、自分の素の体力のみを頼みにして足を運ぶ。


「ルビー。さっきの死肉あさりたち、何がおかしかった?」

『わからないよ。』

「そうか。タイラントヴァルチャーの様子はどうだった?」

『何かに怯えてたように見えたけど……。』

「そうだよな。俺にもそう見えた。」

『だとしたら、問題は誰に怯えてたかだよね。』

「フーダニットか。」

『なにそれ?』

「いや、こっちの話。」


 時々、元の世界出身のカルチャーがこっちで通じないから困る。


「ルビー。フォレストハイエナとブラックドリルホーネットの様子はみてたか?」


『ばっちりだよ。』

 ルビーがサムズアップする。


「フォレストハイエナはどっちに移動してた?」

『南!』

 ルビーが右手で元気よく南を指さす。


「ブラックドリルホーネットは?」

『それも南!』

 今度は両手で指さす。


「タイラントヴァルチャーも南だった。」

 ということは、魔物たちが脅威を感じていたのは北にあるということだ。


「ルビー!南の渓谷ルートを迂回しながらホームに帰る!オーケー!?」

『おーけー!』

 ルビーが空中で回転しながら敬礼する。俺が教えた挨拶だ。


 ————しばらく走ると、俺の足音に他の生き物の足音が混ざり始めた。エルフの耳がぬかるみを蹴る動物の音を敏感に察知する。

 多い。確認できるだけでも十はくだらない。雨音で聞こえないものも含めれば少なくとも二十はいるだろう。

 横の茂みからいきなり薄茶色の影が飛び出す。

 俺は走るコースを少し曲げてかわす。

 見るとそいつはコボルトだった。コボルトは俺と敵対するわけでもなく南へと全力疾走している。すると、茂みから次々とコボルトが飛び出し、群れで走り抜ける。


『普通この数の差があれば、力の弱いコボルトでも俺に襲い掛かるよな?』

 息が上がっているので、神語でルビーに話しかける。


 その上、俺はまだ5歳で見た目だけなら弱者に映るはずだ。


『それくらい余裕がないみたいだね。上空から見てくる!』

『頼む!』


 ルビーが真上にホバリングしていって、視界から消える。

 今度は横合いからゴブリンの群れが走って出てきた。

 勘弁してくれ!今の状況だと、知能がそれなりに高いゴブリンは相手したくない。こいつらは弱いが、かしこくてしつこい。予断を許さない今の状況でも、勝利のためならば貪欲に持久戦をしかけてくる輩だ。


 しかし、ゴブリンたちも俺を無視して走る。走る。


「よっぽど怖い何かがあるんだな。」

 俺はひとりごちる。


『フィオ!』

『どうだった!?』

 ルビーが降りてきて俺に並走する。いや、飛んでいるから平飛行か。


『北の方でワイバーンたちが暴れてるみたい!あいつら様子がおかしかった!森の動物も魔物も手当たり次第に食べてる!』

「食べてる!?何で!?」


 今は育児の時期だろ!? 何で親ワイバーンが暴食するんだ!?


『わかんない!』

 ルビーが威勢よく返答する。


『うわ!ゴブリンと並走してる!?フィオいつからゴブリンと友達になったの!?』

「なるわけないだろ!」


 正直嫌いな種族だよ!冒険者の女性をあれがあれしてあれする魔物で有名らしいし!ゴブリンと意気投合するエルフなんて聞いたことないわ!


 隣で並走していたゴブリンが突然、持っている石の鎚で俺の頭めがけてスイングした。


「うお!?」

 俺は膝から滑り込むようにしてかわす。


サッカーの外国人選手がよくアピールでやっていたようなポーズになってしまう。


「キキッ。」

 ゴブリンがせせら笑いながら走って逃げる。


「やっぱお前らなんて嫌いだ!知識だけで毛嫌いしてたけど、今確信したね!お前ら!なんか!嫌いだ!」

『フィオ!今そんなことしてる余裕ないよ!』

「わかってる!」


 俺はもう一度大樹を登り始める。ゴブリンがまた襲い掛かってくるくらいなら、樹上ルートに切り替える。こっちはこっちで猿型の魔物が飛び跳ねながら避難している。


 北の方を注視する。

 ワイバーンの群れがかなり近くまで来ているようだった。

 手当たり次第に森を燃やしている。森の動物や魔物を捕まえては暴食する。空中を逃げるタイラントヴァルチャーがかみ殺され、空中でワイバーン2体に噛みつき引っ張られ2つに千切れる。俺を見ていたタイラントヴァルチャーと同じ個体だろうか。地上では逃走するゴブリンの群れのど真ん中にワイバーンが突っ込んで緑色の人影が吹っ飛んでいた。


「どうなってんだあれは。ワイバーンがあんなに取り乱すなんて、普通ありえない。」


 ワイバーンはこの森の主を除けばここの生態系の頂点だ。

 頂点であるがゆえに、自分たちが暴食すれば次の年に食いはぐれるのをよくわかっている。森の資源は無限に見えて、有限。それをあいつらはわかっているはずなのだ。


「ルビー。何か変なところはあるか?」

『……よく見ると食べてるのは雌が多い?』

「本当か!?」


 俺は爬虫類の性別の見分け方なんてわからない。


『ちょっと待って……。やっぱりそうだ。雄雌どっちも魔物を襲ってるけど、食べているのは雌だけだよ。間違いない!』


 俺は必至になって考える。

 雌のみが食べる理由。食べる。食べる。栄養補給?

 じゃあなんで雌だけが栄養をとらないといけないんだ?

 雄じゃあ駄目なのか?

 雌にしかできないこと、それは出産? 子育て?


「いや、どっちもか。」


 俺は思い出す。

マギサ師匠の本棚。その魔物の生体をまとめた図鑑。ワイバーンの索引。ワイバーンが最も栄養を欲するのは産卵期であると。


「ワイバーンの幼龍に何かがあった?」

『もしかして。』

 ルビーが呟く。


「何か気づいたのか?ルビー。」

『さっきの雷…………方角が北だった。』

「————そんなことあり得るのか?ワイバーンの巣だぞ?そこにピンポイントで雷が落ちるって?」

『でも、それなら納得がいくんだ。ほら、フィオ見て。』


 俺はもう一度ワイバーンたちを見る。

 少し焼け焦げた鱗をしたワイバーンが複数いる。よく見ると飛び方がぎこちないものが数体。

 俺は魔力の流れを注視した。さっき俺が戦ったワイバーンは翼の力と魔力の操作を綺麗に融合させて飛んでいた。だが、今空中を飛んでいるワイバーンたちは、ほとんど魔力の力で無理やり飛んでいる。

 中には子連れのワイバーンもいた。幼龍たちはどれもボロボロで死に体だ。いつ死んでもおかしくない。母親のワイバーンたちは幼龍たちに次々と動物や魔物の肉を与えていく。


「……感電したのか。」


 俺は確信する。確率は低いが、全くあり得ないことではない。現に起こらなければ、こんな森のパニックはあり得ない。


 観察していると、一匹の若いワイバーンに矢が刺さった。

その矢は風魔法の付与を受けているのか、ワイバーンの頭蓋を貫通して上空へと消えていく。

 穴あきになったワイバーンは首をもたげながら地へ落ちた。落ちるとすぐに他のワイバーンがその死体を食いちぎり、共食いを始める。


「エルフだ。」

『フィオ?』

「エルフたちがいる……!あそこにいるんだ!」

『フィオ?』

 ルビーが不安な顔で俺を見る。


 エルフたちは森を守護する種族。

 今の事態で動かないわけがないんだ。彼らはきっとワイバーンが沈静化するまで戦うだろう。


「助けないと。」

『駄目だよ!』

 ルビーが俺の正面に躍り出る。


『危険だ!君はまだ5歳だ!魔力もほとんど回復していない!』

「でも、あそこには今世の俺の同族がいるんだ!」

『それでも駄目だ!エルフたちは君にとって大事かもしれないけど、僕にとって一番大切なのは君だ!』

 ルビーの目に涙の粒ができる。


 赤い体色に照らされて宝石のようだ。


「ごめん。あそこにはたぶんカイムが。父さんもいるかもしれないんだ。」


 俺とルビーの視線が空中で交錯する。

ここは譲れない。

 ここでエルフたちを助けなければ、俺は何のために転生したんだ。

 他のエルフは正直、嫌いだ。

 でも、クレアは大事な妹だ。レイアとカイムは、少なくともよき両親に見えた。


『————死にそうになったら逃げるって約束して。』

 ルビーが小指を俺に向ける。


「ああ、もちろんだ。」

『カイムが殺されそうになってもだよ。』

「——ああ、約束する。」

『嘘だね。』

 赤い瞳が俺を射抜く。


 心臓がばくばく動く。


『何年の付き合いだと思ってるのさ。それこそ僕は、君を生まれてからずっと見てるんだよ。嘘つくときの顔くらい、知ってるよ。』

「お前は俺の彼女か。」

 俺は笑う。


『そうかもね。僕は君の最初の友達で、親友で、彼女で、親で、パートナーさ。』

「違いない。」

『行っていいよ。』

「いいのか?」

『どうせ僕は実体がないから、君を止められない。』

「ありがとう。」

 俺は小指をルビーの小さな小指にかけた。


『今更だけど、針千本飲ますってさ、君の出身の世界は修羅道かなにかなの?』

「少なくともここよりは平和だったよ。」


 俺はエルフとワイバーンがいるところへと、駆け出した。

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