第9話 作戦準備2
『というわけで、まずは魔力が何なのかを知ろう。』
『よろしくお願いします!せんせー!』
俺がちゃちゃを入れる。
『ふむ。くるしゅーない。』
ベビーベッドの柵の上で、ルビーがふんぞり返る。
『まず、魔力は二種類あります。体内にある魔力と、世界に滞留している魔力です。魔法というものは、自身の魔力を触媒にして滞留する魔力に働きかけ事象を引き起こす行為を示します。』
『ふむふむ。』
『ちなみに、君の両親の魔力はかなり高い方です。人間たちの里に下りればAランク冒険者は固いでしょう。』
いるのか。冒険者という職業が。気になりはしたが、今はそれどころではないので俺は別の質問をする。
『せんせー、質問!』
『はいフィオ君!』
ビシッと擬音が聞こえそうなくらい、勢いよくルビーが俺を指さす。
『自身の魔力は触媒でしかないんですよね。呼び水みたいな。それが大きいことってメリットなんですかね?』
今のルビーの説明を聞くと、あくまでも事象を引き起こすのは滞留している世界の魔力だ。
魔力が多くとも意味がないように感じた。
『いい質問だね。君の言う通り、魔力がゼロでない限りこの世界では誰もが魔法を使える。ちなみに君は天才だ。全ての種族を含めても数年に一人しか現れないレベルだろう。両親に感謝だね。だが、もちろん触媒が多ければ多いほど——。』
『動かせる事象も大きい。』
『その通り!ただしかし、魔法は学問なので魔力が大きければ優れた魔法使いになれるわけではない。』
『どういうことですか?』
『滞留している魔力はね、流動的に変わっているんだ。正確にいえば魔力じゃなくて魔素なんだけども。例えば、火水水風闇光火光といった具合に、ばらばらの割合で点在している。君がもし火魔法を使いたければ、他の属性の魔素に惑わされずに火の属性の魔素だけに自分の魔力を通さなければいけない。そのために滞留する魔素を感知する力と演算する力が必要になる。だからこそ、学問なんだよ。』
『空気中の粒を一つ一つ数えるってこと? 無理じゃないか? それ。』
『不規則に見えて、ちゃんと規則的に流れているのさ。その規則にさえ気づけば、ただの粒の隊列さ。それに気づき、先に演算できたものが先に魔法を行使できる。つまり、命の取り合いをする場合は魔力が大きい人よりも演算が早い人の方が有利ということだね。』
『なるほどなぁ。』
完璧に理解できたわけではないが、なんとなく返事をする。
『ま、これは見た方が早いかな。僕は妖精だから君には直接干渉できないけど、魔素には干渉できるからね。見やすくしてあげる。』
ルビーが指をぱちんと鳴らす。
世界が色づいて見えた。
赤、青、白、黒、黄色、黄金色、銀、黒。ありとあらゆる光の粒が俺の目に飛び込んできて眩しい。
だがその眩しさは不快感などなく温かみしか感じなかった。
自分がちっぽけな蟻になったかのような力とエネルギーの奔流。その渦の中に自分が引き込まれて同化しそうになる。
俺は思わず手をかざす。
それと同時に気づく。空中に滞留する魔素に比べると頼りないが、間違いなく俺の生命を動かしている力を体の中に感じる。
俺はそれを手のひらに集めた。イメージしたのは絵画教室。その絵具。絵具の赤が水に滲んで進行し、体積を増やすさま。
赤。————そう、赤だ。俺が火魔法を使うために必要な色。
イメージする。
今、空中にきらびやかに輝く赤い魔素が自分の体内にあることを。それをポンプのようにひねり出し、手のひらに集める。すると、ばらばらの彩りで集まっていた魔素が、赤一色に塗り替わり始める。
『————天才だね。』
いつの間にか僕の頬の隣に来ていたルビーが呟く。
赤い魔素の光に当てられて、ただでさえ赤いのに更に深紅に輝いている。
俺の魔力に限界が来たのか、手のひらの魔素が霧散する。
『上々かな?』
疲れた声で俺は言う。
といっても、神語なので口は動かしていないのだが。
『上々なんてもんじゃない。普通は魔素の情報量に頭が追いつけずに、体調を崩すのが関の山だよ。』
『え、なのに俺に見せたの?』
『頼んだのは君じゃないか。それに僕らには二日しかない。』
愛すべき我が友人は中々にスパルタだった。
『君は間違いなく天才だけど、時間的にはぎりぎりだよ。魔法を覚える才能はある。でも君は赤子だ。絶対的にもっている魔力が少ない。命を削ることにもなるかも。やめるかい?』
『……やめてほしいのか?』
『正直言うと。』
当たり前のように、ルビーはうなずく。
『申し訳ないけど、続けるよ。大事な妹のためだからね。』
俺は、隣ですやすやと眠る妹を見やる。
『わかったよ。はぁーあ。』
ルビーがため息をつく。
『なんにせよ。手のひらに魔力を固めることができたんだ。しかも同じ色のね。見たところ9割以上が火の魔素だった。かなりの高い密度だよ。質のいい魔法が打てるね。』
強力な魔法、ではなく質のいい魔法か。不思議な表現だ。
『後は手のひらから放出して空中の魔素に繋げて反応させていけばいい。そうしたら火球(ファイアーボール)の完成だ。』
『火の玉が飛んでいく魔法ってことか。』
『そうなるね。』
『ルビー。たぶんさ。今の手ごたえなら俺は火の玉(ファイアーボール)はできると思うんだ。』
『おそらくね。』
『少し、アレンジを加えたいんだ。』
『アレンジ?』
『そう。エルフって火事が嫌いなんだろう? だったら、引火しやすい魔法はないか?』
ルビーが怪訝な顔をして俺を見た。
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