えぴそーど20 幼馴染みと俺が付き合うまでの話

  温もりと、柔らかさを感じた。


 すると、頭がぼんやりしてきて、周りの音が聞こえなくなって…。


 でも、不思議と自分のではない、雨谷の心臓の鼓動はずっと聞こえてた。


 雨谷の細い腕がギュッと俺を掴んで離さな

 い。

 

 戸惑いながらも俺は口を開いた。


 俺 「…雨谷?」


 雨谷「…体、こんなに大きくなったんだね」


 俺 「まぁ、飯食ってればな」


 雨谷「うん…だけどここまで筋肉付いてたなんて知らなかった…」


 すると俺の胸元に頭をグリグリと押し込んできた。


 そして、ゆっくりと呼吸をすると、ボソリと呟くように口を開く。


 雨谷「…ごめんなさい…私、もう我慢できない」


 俺 「え?」


 そう呟くと、雨谷はゆっくり顔を上げる。


 綺麗な瞳に、薄っすらと浮かぶ涙。


 上気した頬。


 サラリとした黒髪。


 小刻みな呼吸。


 いつも見ているはずの雨谷なのに、なぜか、魅了されたように目が離せない。


 雨谷「…私、幼馴染みじゃなくなるの…ずっと怖かった…でもね、ずっとなのも辛かったの」


 俺 「…うん」


 雨谷「だからさ、決めて欲しい。このまま幼馴染みでいたいなら、私から離れて…だけど…幼馴染みじゃなくなるかもしれない…それでも私の気持ち聞いてくれるなら、このままいさせて」


 真剣な眼差しが俺を捉えて離さない。


 その瞳の中の透き通るような黒に、どこまでも吸い込まれるような、そんな感覚に陥った。


 幼馴染みじゃなくなるかもしれない…。


 一瞬その言葉に、胸がキュッと締め付けられたけど、でもそれはきっとバッドエンドじゃない。


 なんとなく、そう思ったんだ。


 テストで消しゴムを忘れた時も、ぶっ倒れてスポドリもらった時も、シーブリーズのキャップ交換した時も、泣いている雨谷も、全部愛おしくて、思い出すだけで胸のあたりが熱くなる。


 雨谷「…いいの?」


 俺 「うん」


 数秒の沈黙。


 雨谷と俺、だった数十センチの世界。


 お互いの呼吸が絡み合う。


 コクリと雨谷は喉を鳴らす。


 そして、



 雨谷「…ずっと、好きでした」



 雨谷の声以外の音が世界からパッと消えた。



 雨谷「もし良ければ…これから先もずっと一緒にいてください…」


 

 心臓が早い。


 体が震えた。


 そして何よりも、嬉しかった。


 雨谷の体に腕を回す。


 華奢で細い体がぴくりと動く。


 雨谷の耳元で囁いた。


 俺 「この先、雨谷を絶対に幸せにするから、一緒にいよう」


 にこりと笑う。


 すると雨谷の瞳から大粒の涙が溢れ出した。


 …。


 だけどその表情は笑っていて、


 雨谷「嬉しい…」


 と腕に力を入れる。


 そんな雨谷の頭を軽く撫でると、俺はカノジョの名前を呼んだ。


 俺 「雨谷」


 雨谷「…なに?」


 そして、雨谷の顔が上がった瞬間。薄い唇にキスをした。

 

 柔らかくて、温かい感触が心地良かった。


 俺 「それじゃ、帰ろうぜ」


 体から腕を離す、驚きのあまり固まっている雨谷の手を握って引き寄せる。


 彼女は信じられなさそうに唇に触れると、顔の熱が一気に上昇したらしい、本当にポンと顔が赤くなった。


 雨谷「え、キ、キス…え?」


 俺 「え、なに照れてんの? 俺の水筒には口つけてたくせに?」


 雨谷「ッ!?」


 さらに動揺する雨谷。顔を両手で隠す素振りが、もう可愛すぎて…どうしようもない。


 そして、「あぁぁー!」と叫ぶと顔を、カッと上げた。


 目の端っこの方にはまだ、薄っすらの涙が残っている。


 雨谷「いきなりキス!? フツーにびっくりしたんだけど、バカじゃないの?」


 俺 「まぁまぁ、落ち着けって、ほら周りみんな見てるから…」


 え? と周りをキョロキョロと見回す雨谷。


 そして状況に気づいた雨谷は、恥ずかしさのあまりその場にしゃがみ込んだ。


 雨谷「うわ、まって…めっちゃ恥ずい」


 だけど、それが面白くて、俺も思わず笑ってしまった。


 俺 「あははは。まぁ、とりあえずこのお詫びはフラペチーノで良いか?」


 雨谷「…うん」


 雨谷の手を引く。


 その手は昔みたいに小さくて温かい。幼馴染みだけど、今はじゃない、カノジョの手だった。


 雨谷「…ね?」


 俺 「ん?」


 雨谷「ありがと、大好き」


 思わず、ふふっと笑うと、それに釣られて雨谷もにこりと笑顔になる。


 俺 「俺もずっと好きだったよ、雨谷」


 雨谷「ふふ…知ってる」


 隣の席にして、幼馴染み、プラスαでカノジョになった雨谷あまやは、嬉しそうに微笑むのであった。












 幼馴染みと俺が付き合うまでの話…Fin.



 ここまで読んでくださったあなたに、感謝です。


 あげもち。

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