エピソード18 かんせつキス

 ドアを開ける。


 するとひんやりとした空気が、制汗剤の匂いを乗せて肌を撫でた。


 梅雨が明けると気温は一気に30℃を超え始め、もう、日本には初夏なんてものはないのかもしれない。と思った今日この頃。


 そして、とある7月の朝。俺は熱疲労と失った水分による体の怠さを感じながら、自分の席に座った。

 

 ? 「ん、おっはー」


 横の黒髪の女子がこちらに可愛い顔を向け、ニヤリと笑う。


 言わずとしても知れる、隣の席にして幼馴染みの雨谷あまやだ。


 このクソ暑い中、雨谷はいつも通り雨谷をしていた。


 つまるところ、


 俺 「暑すぎんだろ…まじで」


 雨谷「うん、私も日焼け止めクリーム塗りたくってきた」


 俺 「日焼け止めクリームって、お前女だったの?」


 雨谷「ん? 殴るよ♪」


 えいっ♪と可愛い声とは似つかない威力のパンチが飛んできた。


 素直に痛い。


 雨谷「とりあえず、傷ついたからジュース買ってきて」


 俺 「え、今俺殴られたっすけど雨谷さん?」


 なんて、冗談をかましていると異様に喉の渇きを覚えた。


 俺はリュックから白い水筒を取り出し、蓋を開ける。


 ステンレス製の水筒の中で氷がカランカランと涼しい音を立てた。


 口をつけて、流し込む。


 俺 「あー、生き返ったわ」


 雨谷「それ、冷たい?」


 俺 「キンキンに冷えてる」


 雨谷「へぇー…ねぇ、一口ちょーだい?」


 俺 「別にいいけど、コップ持ってんのか?」


 雨谷「いらないでしょ、そんなの」


 そう言い、俺の手から水筒を奪い取ると水筒に口をつけた。


 コクコクと喉が動く。


 その白い首元が妙に色っぽかった。


 雨谷「ふぅ、ありがと」


 俺 「おう…。」


 水筒を返すと、雨谷はいたずらな笑みを浮かべる。


 ワンテンポ早く心臓が跳ね、顔に熱を帯びるのを感じた。


 雨谷「もしかして、とか気にしちゃったりしてる?」


 俺 「…してねーよ」


 …。


 嘘だ。


 めっちゃくちゃ気にしてるし、てか、次飲むときのことを考えるとめちゃくちゃ緊張する…。


 そんな俺の反応を見て、何か察したのだろう、さらにニヤリと笑う。


 雨谷「へぇー…あ、やっぱりもう一口ちょーだい」


 そう言って半ば強引に水筒を奪い取り、また、水筒に口をつけた。


 コクコクと喉が動いて、小さな水音と、細い糸を引きながら、水筒から口を離す。


 その一つ一つの動作に色気を感じて、目が離せなかった。


 そして、何故か脳裏に浮かんできたのは、この前の雨谷だった。


 夜の暗い部屋の中、ぼんやりと浮かび上がる雨谷の白い肌、柔らかい体、甘い息遣い。


 — 試しにエッチしてみない?


 顔が熱くなって、身体中に血が巡る。

 

 いつの間にか、男の部分が反応していて、慌てて治めた。


 何考えてんだ…俺。


 雨谷「顔…真っ赤だよ?」


 そう言われて、意識が現実に戻ってくるのを感じると、雨谷はクスクスと鼻を鳴らす。


 そして、水筒の蓋を閉めて俺に渡すと、ニコリと笑った。


 人差し指を口の前で立て、ウインクをする。


 雨谷「ドキドキしちゃ、ダメだからね?」


 囁くような声で、雨谷はクスリと笑った。


 


 


 


 



 

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