エピソード17 お泊り

 5月が明けた。


 って言っても、特に変わったことはなく、強いて言うなら気温と湿度が上がったぐらいだろう。


 そして今日。


 ?「あ、思い出した」


 下校途中、ポンと手を打ったのは、隣の席の、そして幼馴染みの雨谷あまやだ。

 

 俺 「なに、また厄介ごと?」


 雨谷「違うし、てか厄介ごとってなに?」


 ぷくーっと頬を膨らませた。


 雨谷「そうじゃなくて、今日さ、うちに誰も居なくてさ、それに明日創立記念日で学校、休みじゃん?」


 俺 「うん」


 雨谷「だからさ、今日泊めてよ」


 俺 「うん…は?」


 雨谷「だからさ、今日泊め」


 俺 「二度も言わなくていいわ…てか、急だな」


 雨谷「うん、だってさっき思いついたし」


 俺 「いや、お前さっき思い出したって…」


 雨谷「今日、夕方頃に行くから、部屋片付けといてね」


 俺の顔を覗き込むように見上げると、にこりと笑う。


 黒い髪がサラリと揺れた。



 そして夕方の5時半を過ぎた頃だろうか。


 窓から音がする。


 俺はため息を吐きながらも窓を開けた。


 雨谷「お邪魔しまーす」


 ポンと床の上に着地した。


 俺 「お前な…こう言う時ぐらい玄関から入ってこいよな」


 雨谷「え、ここ私たちの玄関じゃないの?」

 

 俺 「人の部屋の窓を勝手に玄関にするな」


 雨谷「えー…あ、とりあえずお母さんに挨拶してくるね」


 俺 「あ、こっちも今日は誰も居ねーよ」


 するとそれを聞いた瞬間、え?みたいな顔をした。


 雨谷「そう…なんだ」


 俺 「あぁ、両親とも今日は仕事」


 雨谷「ふーん、それなら、わがまま言えるね」


 そして、小さく微笑むと雨谷は、


 雨谷「お腹減ったから、何か作って」


 何故か偉そうに言うのだった。



 雨谷「ご馳走様でした」


 手を合わせると、雨谷は席を立ち「先お風呂入るねー」とドアノブに手をかける。


 俺 「ふざけんな、お前も洗うの手伝え」


 雨谷「えー、私お客さんだしー?」


 俺 「勝手に来たんだろ」


 雨谷「にししー。とりあえずお風呂入ってくるね、あと、別に覗いてもいいけど責任は取ってね」


 俺 「誰が覗くか!」


 いたずらな笑みを残して廊下に消えていく雨谷。


 俺はため息を吐くと、スポンジに洗剤をかけた。


 俺 「覗くかっての」 


 だけど、ほんの一瞬だけ雨谷の裸を想像してしまい、不覚にも悶々とするのであった。


 

 その後は、雨谷の次にお風呂に入り、リビングでクイズ番組を見ながら、時間を過ごした。


 雨谷「あ、これ知ってる! オバマ!」


 俺 「知ってたんだ、意外だわ」


 雨谷「まぁ、私、天才ですから?」


 俺 「は?」

 

 みたいな感じで、いつも通りだった。


 そして時刻は夜の12時が過ぎた頃。


 ふと雨谷の方に目を向けると、眠気のせいかコクコクと頭が動いていた。


 そんな雨谷の肩を揺らす。


 俺 「眠いなら寝だ方がいいぞ」


 雨谷「…うん」


 うなずくと、雨谷は腕を広げた。


 雨谷「抱っこ」


 俺 「歩け」


 雨谷「あはは、冗談。」


 のそりと立ち上がり、階段登る。


 そして俺の部屋に入ると、問答無用で俺のベットに倒れ込んだ。


 俺 「お前の布団は用意してあるからそっちで寝ろって」


 雨谷「えー、私ベットがいいー」


 俺 「お前な…」はぁとため息を吐く。


 すると、ふふっと雨谷は笑った。


 雨谷「もー、仕方ないから、電気消したらそっちで寝てあげる」


 俺 「本当だな?」


 雨谷「まじ、おおまじ」


 と言ったので、渋々俺は部屋の電気を消した。


 部屋が一瞬で暗闇に飲み込まれる。


 俺はゆっくりとベットの方へ歩き出した。


 俺 「ほら消したぞ…って雨谷?」


 そして次の瞬間。俺はベットへと引きずり込まれた。


 俺 「わっ、お前馬鹿やめろ!」


 雨谷「えー、いいじゃん昔みたいに一緒に寝よ?」


 俺 「ふざけんなって、それに俺たちはもう高校生なんだぞ」


 雨谷「あまり暴れないで…んっ…それとそこ、私の胸だから」


 俺は反射的に手を引っ込める。


 一方雨谷は、クスクスと笑っていた。


 もう、本当になんなんだよ…。


 俺が背中を向けると、雨谷はぴったりと体を密着させる。


 雨谷の暖かい体温が背中から伝わってきた。


 はぁーと、温かい息がうなじにかかり、体がぞくりと震える。


 雨谷「…小さい頃は、こうやって同じベッドで寝てたのにね。なんで大人になると恥ずかしくなるんだろ」


 さらに体を近づける雨谷。華奢な腕が俺の胸元にだらりと垂れる。


 雨谷「もしかして、緊張してる?」


 その問いに、「ふざけんな」と反射的に言いそうになって、俺は口を閉じた。


 …なんだか恥ずかしくて、声も出せなかった。


 雨谷「…私はすごく緊張してる」


 はぁ、と甘い吐息が耳にかかる。


 その度に心臓がドクドクと全身に血を巡らせていった。


 雨谷の熱、甘い香り、体の柔らかさ。そのどれもが、あの頃にはなかった要素で、魅力的な色気だった。


 雨谷「…でさ、私でエッチな事とか考えた事ないの?」


 その瞬間、顔がカッと暑くなって、心拍数も上がった。


 俺はボソリと返す。


 俺 「…ねぇよ」


 雨谷「ふふ…そっか」


 すると体をギュッと密着させ、静かに呟く。


 雨谷「じゃあさ、試しにエッチしない?」


 ハッと息を飲む。


 心臓がありえないスピードで脈打っていた。その上、だいぶ前から反応していたあそこも、もう完璧に仕上がっている。


 …したい。


 雨谷を抱いてみたい。


 柔らかい体に手を伸ばし、触って、愛でたい。


 脳内でそんな欲望が暴れ回る。


 だけど…。


 だけど、俺の体はそこから動く事はなかった。


 そして、少し経って。


 雨谷「嘘、冗談。おやすみー」


 そう言って雨谷も背中を向ける。


 雨谷の背中は、少しだけ震えていた。


 

 

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