えぴそーど13 嫉妬

 パッとゴールへ振り向く。


 だけどそこにはボールはなくて、ワンテンポ遅れてドリブルの音が聞こえた。


 そして、


 「やった…勝てたー!」


 あきちゃんの嬉しそうな声。


 私、負けたんだ。


 悔しさがどっと押し寄せてくる。だけど何よりも悔しいのは、さっきあきちゃんが使ったフェイント。


 あれはよくアイツが私に使ってたフェイントなんだ。


 それをあきちゃんが使ったってことは、2人で練習してたということ。


 ただ、それだけなのに、私はなぜか悔しくて、胸が苦しくて堪らなかった。


 こんな感覚は、産まれて初めてだ。


 …でも、だけどそんなことで、この場の空気も壊したくないし。


 たから、自分の感情を押し殺すように息を吐く。


 大丈夫…大丈夫…。


 とりあえず、アイツを冷やかしてから帰ろう、「あきちゃんになに吹き込んだの」って。


 いつも通りの、笑顔で、声色で。


 …。


 だけど、アイツの顔を見た瞬間。足に力が入らなくなって、冷やかしに行こうなんて勇気もなくなって、私はただ、引きつった笑みしか見せられなかった。


 秋乃「私どうだった? 上手くできてた?」


   「あぁ、完璧だった」


 そう言ってにこりと微笑むアイツを見て、さらに胸がキュッと苦しくなる。


 あの2人から、幸せそうな空気が漂ってきて、だからこそ、私は本当の意味で空気になってしまった。


 ダメ、ここにいると苦しい…。


 あきちゃんの勝利を、特訓の成果を喜び合う2人を背に、私はそっと体育館を後にした。


 …。


 自分の中の、嫉妬に気付いてしまう前に。


 


 


 




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る