えぴそーど14 考えすぎると腹が減る。

 あれから、3日が過ぎた。


 もうじき終わる5月の空模様は、しっかりと梅雨の色になっていて、今日もまた雨が降っている。


 ジメジメした教室で俺は口を開いた。

 

 俺 「なんか暑いな」


 雨谷「…そだねー」


 頬杖を突き、つまらなそうに返す雨谷。


 あの日からずっとこんな感じだ。


 まぁ、理由はなんとなく分かってる。

 

 恐らく、バスケで負けたことじゃない。俺と『あきちゃん』のことだろう。


 少なくとも、あのフェイントをやった時点で俺と2人で練習していたことは察していると思う。


 たぶんそのことに関して、何かしら思うところがあったのだろう。


 でも、普段はそんなこと気にしないんだけどな…。


 と、そんなことを考えていると、数学の先生が資料を持って教室に入ってきた。


 とりあえず教科書とノートを出す。


 とりあえず、このままって訳にもいかねーよな…。


 チャイムが鳴る。無表情の雨谷の横顔を見て、そう思った。



 ?「今日、ちょっと付き合ってもらっていい?」


 そう帰る支度をする俺に話しかけてきたのは、雨谷の友人で、あきちゃんこと秋乃あきの


 俺は小首を傾げて言葉を返した。


 俺 「いいけど、どうしたの?」


 すると周りをキョロキョロとして、小声で話す。


 秋乃「…ちょっと雨谷ちゃんのことで話したいことがあるんだけど…」


 そう言って、視線を下に向ける。秋乃もあの試合以降、雨谷の態度が気になっていたのだろう。


 俺だけの問題じゃない。


 そう思った俺は、首を縦に振った。


 俺 「分かった」


 秋乃「ごめん、ありがとう」


 そして俺たちは教室を後にした。



 場所が変わって、俺たちはとあるスタバにいた。


 いつも雨谷と入っている方ではなく、あえて通学路とは逆方向の店だ。


 ここなら確実に雨谷はいない。


 いつもと違う違和感を抱きながらも、とりあえずソイラテと、ダークモカチップフラペチーノを頼み、席は座った。


 秋乃「ごめんね、付き合わせちゃって」


 俺 「いいって、それにこの話し合いは必要だと思うし」

 

 秋乃「そうだね…」


 そう言ってストローに口をつける。


 口に含んでから、「うん、美味しい」と呟き、はぁ…と息を吐いた。


 秋乃「私、雨谷ちゃんに嫌われちゃったのかな」


 俺 「なんでそう思うの?」


 秋乃「最近話しかけても無関心っていうか、なんかすごい詰まらなそうだから」


 俺「なるほどね…」


 正直俺は驚いている。俺にだけならともかく、あきちゃんにもそうだったとは思わなかったからだ。


 秋乃「やっぱり、あの時だよね」


 俺 「え?」


 秋乃が顔を上げる。瞼にはうっすらと涙が溜まっており、今にも溢れてしまいそうだった。


 秋乃「私、雨谷ちゃんに勝てたこと嬉しくて、喜び過ぎちゃった…。たぶんあれが雨谷ちゃんを傷つけたんだよね」


 そんな秋乃を見て、なんで返せばいいのか分からない俺は、首を横に振り優しく微笑む。


 俺 「ううん、あきちゃんのせいじゃないよ」


 秋乃「違う、私のせいなの。私が…」


 とうとう、その瞳から涙が落ちる。


 テーブルの上に落ちたそれは、徐々に数を増やしていった。


 俺「ごめんちょっと待ってて」


 席を立つ。そして、レジに向かうと、ブルーベリースコーンを注文した。


 お皿を受け取り、席へ戻る。


 秋乃の前に、コトリと置いた。


 秋乃「え、これ…」


 俺 「お腹減ったでしょ、俺からの奢り」


 カップに口をつける。大豆とミルクの香ばしい香りを口の中でたしかめると、俺は続けた。


 俺 「考えすぎるとお腹すくよね、てか甘い物食べたくならない?」


 一方、秋乃はまだ状況がよく分かってないみたいな顔をしていて、スコーンに手をつけない。


 俺 「まぁ、なんていうかさ、相談してくれてありがとう。俺もやるべきこと分かったよ」


 秋乃「え、でも…」

 

 俺 「大丈夫、俺が解決するから。だから、明日からも雨谷と接してあげて」


 にこりと微笑む。


 すると、秋乃も目元を拭い、小さく微笑む。


 秋乃「ありがとう」


 フォークでスコーンを口に運ぶ。


 秋乃「これ、美味しいね」


 秋乃は満足そうな笑顔を見せた。


 


 

 

 

 

 


 


 

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