えぴそーど10 あきちゃん その3

 翌日の朝、教室にて。


 ?「なんで昨日スタバで待っててくれなかったの…」


 ブゥーと頬を膨らませる隣の席の雨谷あまや。どうやらご立腹らしい。


 俺 「少なくとも昨日のライン的に、追試に合格するお前のビジョンが見えなかったからだよ」


 雨谷「なにそれ…まぁ、事実なんだけど…」


 ボソリと呟く雨谷。その表情には幾分余裕は感じられなかった。


 詰まるところ、切迫詰まってるらしい。


 俺 「次の追試はいつなんだよ」


 雨谷「…来週の月曜」


 俺 「ってことはあと猶予は4日か」


 うちの高校では追試に2回以上落ちると成績表に2が付く。別にそれだけなら少し評定が下がるだけでなんのダメージもないのだが、その代わり二ヶ月間に及ぶ補修授業と宿題が課される。


 そう、今を全力で楽しむ高校生にはまさに拷問そのものだ。


 はぁ…とため息を吐き、俺は続けた。


 俺 「お前、土日空いてる?」


 雨谷「ん、まぁ、予定は入ってないよ」


 俺 「りょ、それじゃ土曜と日曜、朝9時に家に来い。追試科目教えるわ」


 雨谷「え、いいよせっかくの休日だし、なんか悪いしさ」


 遠慮気味な顔をして首を横に振る。


 そんな雨谷対して俺は、「あのなぁ…」と言葉を続けた。


 俺 「他に勉強教えてくれそうな奴いんのか?」


 雨谷「いないことはないけど、みんな部活やってる」


 俺 「だろ? なら遠慮すんなって。それに俺からしたらお前に貸して作れてラッキーなんだよ」


 そう言って、なんか恥ずかしくなって視線を逸らすと、後頭部をカリカリと掻く。


 すると、ふふっと雨谷は笑った。


 雨谷「スタバでいい?」


 俺 「受かってからだろ、バカ」


 ふふっと雨谷が笑うと、チャイムが鳴る。


 なんの変哲もなく、今日が始まっていった。


 

 そしてその日の放課後。


 今日も雨谷とは帰らず、俺は体育館へ向かっていた。


 今日は全部活が休みの曜日で、誰もいない体育館にボールが弾む音が響く。


 ダンダン、ダン。キュッ…ストン。


 リングに綺麗に収まったボールは、ストンと床に落ちる。


 体操服のあきちゃんは、ふぅ、と息を吐いて額の汗を手で拭った。


 俺 「ナイスシュート」


 秋乃「え、わっ! ありがとうございます!」


 ギョッとしたようにこちらに顔を向けるあきちゃん。


 俺は思わず吹き出した。


 俺 「何その驚き方。てか、そこまで驚かなくても良くない?」


 すると、顔を伏せながら口を開く。その頬は少しだけ赤くなってるようにも感じた。


 秋乃「確かにそうかも、ごめんなさい」


 俺 「謝らなくていいって、むしろごめん練習の邪魔しちゃってさ」


 秋乃「ううん。いいの気にしないで」


 小さく笑みを浮かべた。


 俺 「ね、俺も練習付き合っていい?」


 秋乃「え、いいけど、バスケやったことあるの?」


 俺 「…ボール借りていい?」


 そう、疑問の表情を向けるあきちゃんからボールを受け取ると、ドリブルをしてゴールへと走っていく。


 ボールを手に持ち、トントンと大きく飛び、レイアップを決めて見せた。


 あきちゃんの表情は驚きを隠せないと言った顔をしていた。


 秋乃「すごい…」


 俺 「少なくとも、昔からアイツの相手してるから、そこそこは自信あるよ」


 ボールを秋乃に渡すと、それに、と続ける。


 俺 「相手いた方が練習になるでしょ?」


 秋乃「うん…。でも、さすがにそれは悪いかな…」


 遠慮がちに視線をボールへ逸らす秋乃。

 

 たぶん自分のことで時間を取らせるのは申し訳ないんだろう。


 はぁ、と小さくため息を吐いた。


 俺 「アイツといい、あきちゃんといい、遠慮しすぎだっての」


 秋乃「今、なんて?」


 俺 「気が向かなかったらいいよ。でも、もし練習相手になって欲しかったら遠慮しないで、俺めっちゃ暇だもん。」


 にこりと笑って見せる。


 そして、ほんの少しだけ間を開けて、あきちゃんは口を開いた。


 秋乃「本当にいいの?」


 俺 「うん、俺からしたら暇をつぶせて運動もできてWIN-WIN」


 秋乃「ふふ…それじゃ、時間貰ってもいい? 私、雨谷ちゃんに勝ちたい」


 俺 「だと思った」


 にこりと笑う秋乃の目の奥に、確かな強い意志が感じられた。




 

 


 


 


 


 



 


 

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