えぴそーど9 あきちゃん その2

 翌日の放課後。


 俺のスマホがピコンと鳴った。


 画面を見る。


 雨谷 『ごめーん、今日追試あるから先帰っててー』


 俺はそんなラインにため息をつきながら短く、『りょ』とだけ返信する。


 その後に『絶対に合格するから、安心してスタバで待っててね♡』と、死亡フラグにしか聞こえないそれを鼻で笑うと、俺は歩き出す。


 てか、奢らさせるって分かってて素直に待つかバーカ。


 それに今日はなんか本屋に行きたい気分だ。


 そして10分後。


 通学途中にある行きつけの書店に着いた。


 見た目はそこまで大きくはないが、常に最新の本が置いてあり、古くて棚になくても、店員さんに言えば取り寄せてくれる。


 さらに言うとここの店員さんが書くポップもまた見事で、本物の絵師さんが書くのと同レベルのイラストを見るのもまた、俺の楽しみになっていたりするのだ。


 自動ドアが開く。


 早めにかかったクーラーの冷たい風にのって本の匂いが鼻につく。


 店内へと足を進めた。


 へぇーいろんな本出てんな。お、この漫画とか面白そーじゃん。


 …って、ん?


 次の棚へと移動した時、見覚えのある姿がそこにあった。


 スラリとした八等身。薄茶色の髪の毛に綺麗な横顔。そして同じ高校の制服。


 あきちゃんだ。


 棚の前で本を開き、眉間にシワを寄せている。ちなみに本の表紙には『これを知ればバスケが劇的に上手くなる!』と大きく書かれていた。


 声をかけようか、どうしようか…。


 …。


 俺 「おっす、あきちゃん」


 秋乃「ひゃっ! えっ、あ、こんにちは…」


 俺 「そこまで驚かなくても良くない?」


 秋乃「うん…私もそう思う…」


 あはは…と渇いた笑いを見せると本をそっと後ろに伏せる。


 理由はよく分からないけど、見られたくないらしい。


 秋乃「あ、もうこんな時間、それじゃ私そろそろ行くね」

 

 ぎこちなく、にこりと笑うと、ペコリと頭を下げてレジへ向かっていく。


 あの本、昨日のあきちゃん、雨谷の自主練…。


 …もしかして、あきちゃん。


 ドアの方へ目を向けると、ちょうど店を出たところらしい、秋乃ちゃんの整った髪の毛が背中ではらりと舞った。


 


 



 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る