えぴそーど7 シーブリーズ

 それは、ゴールデンウィークが明けて、『昨日のこの時間、何やってたんだろうなー』って空の雲を見上げる4時間目。


 昼休み前の体育は妙に気怠くて、左手のグローブは手汗でベタベタしていて、気持ち悪かった。


 俺「早く終わんねぇーかな」


 カキン…と乾いた音が校庭に響いた…


 

 20分後。


 ソフトボールが終わり昼休みに突入した教室は、少し騒がしかった。


 購買行こうぜ!と、ドアを乱雑に開ける男子生徒や、わざと胸元を開けて、「暑ーい、さいあくー」とうちわで仰ぐ女子。


 窓から吹き込む風は鼻がツーンとする制汗剤の匂いがした。


 俺もカバンから制汗剤を取り出す。


 よくCMで見る、爽やかな水色のボトルのシーブリーズだ。


 他にもいろんな匂いがあるけど、俺はシンプルにこの匂いが1番好きだっだ。


 手の平に数滴垂らすと、首元に薄く伸ばす。


 ひんやりとした感覚が気持ちいい。


 ?「ねぇ、それ私にも貸して」


 そう隣から手を伸ばすのは、幼馴染みにして隣の席、雨谷あまやだ。


 蓋を閉めて、俺は言った。


 俺 「なんでだよ、お前も持ってんだろ」


 雨谷「持ってるけど、今日は家に置いてきた」


 俺 「何してんだよ…まぁ、いいや、ほら使えよ」


 そう言ってボトルを雨谷に渡すと嬉しそうに、「やったー。センキュー」とシーブリーズを手に垂らした。


 白い首元に薄く塗りつける。


 雨谷「うん。スッキリした」


 俺 「おう、そんじゃそれ返せ」


 雨谷「あ、その前にちょっと待って」


 と言うと雨谷はカバンを漁り、取り出したのはオレンジ色のボトルのシーブリーズ。


 石鹸の香りのやつだ。


 二つのキャップを外すと、それぞれのキャップを付け替える。


 これでよし。 と呟くと雨谷は俺にボトルを渡した。


 雨谷「ありがとう」


 俺 「…やっぱり持ってんじゃねーかよ」


 雨谷「にひひー、久しぶりにそっちの香りをつけたくなったの」


 そう言い切ると、雨谷は弁当を持って席を立つ。


 雨谷「それじゃ『あきちゃん』待たせてるからバイバーイ」


 俺 「ん、いってら」


 はーい、と返事をして教室を出て行った。


 俺「…」


 俺は手元のボトルを見つめた。


 水色の本体に、オレンジ色のキャップ。ぱっと見物凄くミスマッチだ。

 

 俺は小さくため息をつく。


 そして、小さく笑った。


 俺「なんだよ、キャップ交換したければそう言えよ」


 蓋を開けて数滴手に垂らす。


 薄く首に伸ばすと、ほんのりと石鹸の香りがした。




 

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