エピソード6 スポーツドリンク

 それは、まだ4月だと言うのに25℃を超えた、5時間目の体育の時間。


 俺「…まじか…」


 膝に手を当て、ポタポタと黒くなるアスファルトを眺めながら俺は…。


 先生「おい、大丈夫か?」


 俺 「…ちょっと、ヤバイです…」


 そのまま、身体に力が入らなくなった。



  ?分後


 俺「んー…頭いてぇ」


 四方をカーテンで仕切られた天井を見上げて目が覚めた。


 頭が痛くて喉もカラカラ。そのせいで窓からカーテンをサラリと揺らす風も、大して気持ちよく感じない。


 はぁ、とため息を吐くと枕元のスマホに手を伸ばす。


 画面には13:50と表示してあった。


 倒れたのが大体13:20分頃。俺はそれから30分近く寝ていたらしい。


 運動不足かもな…


 はぁ、ともう一回ため息をついた。


 ?「…起きた?」


 ピクリとして、顔を横に向ける。


 よく見ると白いカーテン越しにスラッとした影が見える。


 その人影は、今までもよく見慣れた幼馴染み、雨谷あまやだ。


 確かめるようにカーテンの隙間から顔を覗かせると、何も言わずに雨谷はふふっと鼻を鳴らした。


 俺 「…なんだよ」


 雨谷「いや、別に…大丈夫かなーって」


 俺 「…まぁ、大丈夫だけど…とりあえずかっこ悪いなって思うわ」


 そう、みんな同じことをやっていて、俺だけが倒れた。


 コイツでさえまだピンピンしているのに。


 そんなことを考えるたびにズキズキと痛む頭を右手で押さえた。

 

 すると、


 雨谷「んー、そうかなー」


 俺 「いや、御託はいいから、一言カッコ悪いって言ってくれよ」


 その言葉に雨谷は首を横に振る。


 雨谷「ううん…だってさ、みんなふざけて走ってるのに、一番真面目に走ってたじゃん」


 俺 「…え?」


 雨谷「だから、別にカッコ悪いなんて思ってないし、少なくとも私は思ってないよ」


 そこまで言い切ると、にひひーと、白い歯を見せて笑った。


 雨谷「あ、そうだ」


 何かを思い出すように呟き、カバンからスポーツドリンクのペットボトルを取り出すと、布団の上に投げた。


雨谷「それあげる。じゃーねー」


 手をひらひらと振ってカーテンを閉める。


 少し遅れてガラガラとドアが閉まる音がした。


 …。


 若干の熱を帯びた頬、ぼんやりとする頭。


 脳裏に浮かぶ雨谷の声と笑顔。


 ハッとして、俺は頭を振った。


 俺「いや違う…絶対に違う」


 そう、雨谷はただの幼馴染み。それ以上でも以下でもない。


 そうだ、せっかく貰ったんだ、落ち着くために飲もう。


 スポーツドリンクのキャップに手をかける。


 俺「ん? なんか書いて…」



『一生懸命に走ってるとこ、カッコよかったよ』


 俺は一気にスポーツドリンクを飲み干した。

 


 



 


 





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