えぴそーど4 傘

 それはとある日の放課後、さっきまで晴天だった空から落ちてきた雨粒がアスファルトを濡らした。


 俺「…まじか」


 はぁ、と吐いたため息が、雨の匂いに溶けていく。


 今日の朝の天気予報では雨なんて一言も言ってなかった。それ故に、傘なんて持ってきてない。


 でもこの雨の中、傘もささずに帰ろうものなら、確実にリュックの中は水浸しになり、風邪をひくだろう。

 

 だって、まだ4月だもん、普通に寒い。


 俺「…どうすっかな〜」


  困ったように独り言を発し、頭を掻いた。


 そんな時、「傘ないの?」と声をかけてきたコイツは、俺の幼馴染みにして隣の席、雨谷あまやだ。


 ぴょこんと横から顔を出す。


 そして、しっかりとレインコートを着ていた雨谷を見て俺はまた、ため息を吐いた。


 俺 「逆になんで持ってんだよ」


 雨谷「ん? だって朝の天気予報で、にわか雨に注意って言ってたから」


 俺 「まじか、俺の見てる番組は、傘は必要ないでしょうって…ちなみにどこの番組だ?」


 天谷「z○p」


 俺 「俺もこれからはz○pにするわ」


 心の底からそう思った。


 雨谷「ふーん、それじゃ」


 俺 「え、帰るの? 俺は?」


 雨谷「ん? 帰ればいいじゃん…ってあー、そっかー」


 すると、ふふっと煽るように笑い、「バイバーイ、風邪ひかないでねー♪」、雨谷は雨の中を歩き出す。


 ポツポツと、雨を弾く緑色のレインコートの背中が少しずつ遠くなって行くのを、ただ見つめる事しかできなかった。


 俺「…は?うぜぇ」


 そして、どうしようもなくスマホをいじり、10分が過ぎた頃。


 雨谷「はい、これ」


 頭上から聞こえた雨谷の声に顔を上げる。


 その手にはビニール傘が握られていた。


 俺 「え?」


 雨谷「ほら、寒くて死にそうだから早く帰ろ」


 俺 「いや、帰ったんじゃないのか?」

 

 すると雨谷は、ぷいっと顔を逸らし、くるりと背を向け、


 雨谷「…帰る」 

 

 と、歩き出した。


 俺 「ありがとございます雨谷さん! なのでその傘をください!」


 雨谷「ふふ…さーて、今日は何を買ってもらおうかなー」


 傘をポイと渡される。


 振り向いたレインコートの中から、優しい笑みが覗かせた。




 

  



 


 

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