えぴそーど3 教科書

 それはとある日の、現代文の授業の時間。


 ? 「うわ、忘れた…」


 珍しくそんな声をポロリと溢したのは隣の席に座る幼馴染、雨谷あまやだ。


 彼女のカバンを漁る手が止まる。


 何を忘れたのだろう。


 ふと周りを見てから雨谷の机を見ると、彼女の机にだけ、教科書がなかった。


 あぁ、なるほど…忘れたわけか。


 はぁ。とため息を小さく吐き、「ま、されることはないでしょ」とノートだけを開いた。


 20分後。


 先生 「それじゃそこの列、前から順に読んでみろ」


 その言葉に、雨谷は下唇を軽く噛む。


 そう、そこの列とは、運悪く雨谷の列だったのだ。


 雨谷 「さいあく…」


 と、苦笑いを浮かべる。


 そんな雨谷を見た後、俺は教科書に目を移す。


 そして、教科書を手に待つと、小さくため息をついた。


 本当に、俺って損な性格してるわ。


 ふぁー、とあくびをすると、俺は教科書を雨谷の机に投げ、机に突っ伏す。


 小声で続けた。


 俺「まじで眠ぃ…忘れたなら貸してやるよ、おやすみ」


 雨谷「え、でも…」


 先生「どうした、次雨谷だぞ」


 雨谷「あ、はい」


 慌てて教科書を読み上げる雨谷の声を、俺は腕の中の暗闇で聞いていた。


 先生「よし、そしたら次は横に行くぞ…ってお前起きろ」


 先生の声が教室に響く。


 たぶんそのお前って言うのは、俺のことなのだろう。


 なんとなく、クラスの視線が俺に向いているような気がした。


 先生「…次のやつから読んでいけ」


 俺の前のやつが、舌打ちをしてから教科書を読み上げる。


 …うん、とりあえず俺の印象と内心点は確実に下がったな。


 俺は心の中でため息を吐いた。


 ……。


 そして、少しして。


 「ありがとう」


 そんな声が横から聞こえたような気がしてちょっとだけ、「まぁ、いいか」って思った。


 

 

 


 


 


 

 




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