解答編

企画書(後半)

【第五話 雪が溶け、春が来る】

3月31日。探偵事務所。桜宮は河原木を告発する。『五重交換殺人』の首謀者として。


そもそも、3月25日から3月30日のわずか六日間で、非現実的なトリックを用いた事件が連続して起きるのはおかしい。「これらのトリックは全て、同じ頭脳から生み出されたものだ」と、桜宮は述べる。そして、その人物こそ助手の河原木であると。


河原木は罪を認める。彼は桜宮に心酔していた。彼女のためなら、命を捨ててもいいと考えていた。桜宮が推理に飢えていることを知った河原木は闇サイトにもぐりこみ、顔も名前も知らない男女に交換殺人を持ちかけ、計画を練る過程で各人にトリックを授けた。桜宮は動機を重視しない。交換殺人は、まさにうってつけのツールだった。警察が動機を突き止められなかったのも、交換殺人だったからだ。


ちなみに、殺したい人間がいなかった河原木は、知り合いの中から適当な人間をターゲットに指名した。それが洞爺湖で殺された金槌かなづちかなめであった。


河原木の告白を聞いた桜宮は言う。


「君は誰を殺す担当だったんだ?」


「あなたですよ。桜宮さん」


河原木は続ける。交換殺人の計画を進めるうちに、偶然にも彼は桜宮の命を狙っている男の存在を知る。二つ目の事件、太陽光パネルを使って女性を殺した人物だ。河原木は桜宮を殺す役目を負うことで、彼女を守ったのだ。


「交換殺人の期日は3月31日。明日になれば、あの男は交換殺人の約束が守られなかったことに気づくでしょう。だから、桜宮さん。あなたは逃げてください」


探偵と助手の別れ。河原木は警察に自首すると言い残し、事務所を去る。桜宮は飛行機を手配し、本州に逃亡する。


後日、桜宮は新聞で、北海道で起きた殺人事件のことを知る。落差30メートルを超える滝の裏側(滝の途中にある崖の窪み)で見つかった男の刺殺体。死体の側には男の靴と遺書。マンションから女性が転落した事件との類似点(靴と遺書)に気づき、桜宮は全てを悟る。河原木が自首する前に、例の男(桜宮の命を狙った人物)を殺したのだと。


北海道の滝の多くは、冬になると凍結する。河原木は被害者を殺したうえで、死体をかついで凍りついた滝を登り、崖の窪みに被害者の死体を隠した。やがて春の訪れとともに氷が溶け、不可解な現場ができあがった。


桜宮は心の中で、河原木に感謝の言葉を述べる。なお、被害者の名前(桜宮を殺そうとした男の名前)は最後まで明らかにされない。

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