企画書(前半)

○タイトル

『達成率80%』



○形態

短編集(連作短編)



○視点

三人称(神の視点)



○コンセプト

トリックにしか興味のない探偵。犯人や動機には関心がなく、犯行手段だけを解き明かそうとする。



○舞台

北海道



○主要登場人物


桜宮さくらみや鈴香すずか

趣味で探偵事務所を経営している女性。実家が大富豪なので、生活には困っていない。トリックが絡まない事件の依頼は全て断る超変人。犯罪者が仕掛ける複雑怪奇なトリックを解明することに至上の喜びを見出しているが、現実にはトリックを用いた複雑な事件などそうそう起きないため、年中暇を持て余している。



河原木かわらぎしょう

最近、探偵事務所でアルバイトを始めた男子大学生。事務所に押しかける形で、無理やり助手になった。桜宮のことを崇拝しており、彼女のためなら命を捨ててもいいと考えている危険思想の持ち主。



○各話のあらすじと注釈


【第一話 雨上がりの地面に】

3月25日。小樽市の掘っ立て小屋にて、男性の首吊り死体が発見される。前日まで雨が降り続いていたため小屋周辺の地面はぬかるんでおり、濡れた地面には被害者の足跡だけが残されていた。現場の捜査官は、この事件を自殺として処理しようとする。


その矢先、桜宮(探偵)と河原木(助手)が到着。桜宮は現場を一目見ただけで、犯人が用いたトリックを看破する。


犯人は、冬の間にかき集めた大量の落ち葉を雨上がりの地面にまくことで、ぬかるんだ土の上に落ち葉の層を作った。落ち葉が重さを吸収するため、地面に足跡は残らない。犯人は被害者を絞殺した後、被害者の靴を履いて足跡を偽装し、再び落ち葉の上を歩いて、小屋から出ていったのだ。現場周辺に残った落ち葉は業務用の大型扇風機で吹き飛ばし、証拠を隠滅した。


トリックを解明できたので、桜宮と河原木は満足そうに帰っていく。犯人? 動機? そんなものは警察に任せておけばよい。


翌日、河原木は事件の記事を見つける。警察の懸命な捜査により、犯人が捕まったのだとか。ただし、動機はいまだ不明。


新聞を読みながら、河原木は言う。「犯人は岸渡幸助っていうらしいですよ」


桜宮は答える。「誰それ?」


なお、岸渡幸助の名前はこの瞬間まで、読者にも提示されない。




【第二話 傾く、滑る、そして死ぬ】

3月27日。桜宮と河原木のもとに、十階建てのマンションから女性が飛び降りたというニュースが飛びこんでくる。現場に急行する二人。


警察の話によれば、マンションの住民には全員アリバイが成立したらしい。事件が起きた後にマンションから抜け出した者もいない。被害者の部屋のベランダに靴と遺書が残されていたことから、警察はこの事件を飛び降り自殺だと推定して捜査を進めている。


しかし、桜宮は納得しない。マンション内を探索し、犯人が仕組んだトリックに気づいた桜宮は、河原木をつれて事務所に帰る。


「これは遠隔殺人だ」と桜宮は語る。まず犯人は睡眠薬で眠らせた被害者を、マンションの屋上にある追尾式の太陽光パネルに横たえた。それから自殺に見せかけるために、被害者の部屋のベランダに靴と遺書を置いた。これらの作業を終えると、犯人はマンションから立ち去り、仕掛けが作動するのを待った。


追尾式の太陽光パネルは太陽の位置に応じて、角度を変えていく。正午には地面に対して水平の角度を保っていたパネルは、時間が経つにつれて傾きが大きくなり、被害者の体はパネルから滑り落ちた。こうして犯人は、アリバイを作ることに成功した。


河原木が尋ねる。「そのトリックを使った、犯人の正体は?」


桜宮の回答。「知らないよ。北海道に住んでる誰かだろ」


犯人不明。動機不明。




【第三話 回転館の悲劇】

3月29日。盆地にぽつんと建つ一軒家。その名も『回転館』。


ある日、館の主人が隣の家(ただし、数キロ先にある)に住む友人のもとを訪れた。一時間ほど雑談したあと、館の主人は言った。


「たまには遊びにこないか?」


友人は誘いに乗り、館の主人と二人で回転館に向かった。館にたどりつくと、そこには信じられない光景が。出入口の門扉に車が突っ込んでいたのだ。運転席には血まみれの女性。二人は警察に通報する。


警察到着。調査の結果、思いがけない事実が二つ明らかになる。


一つ目。館の正面から一直線上に、雪の地面に刻まれた車の轍。それを辿っていくと、道路の真ん中でいきなりタイヤの跡が途切れてしまうのだ。


雪は二時間前にすでに降りやんでいた。自殺もしくは事故だとすると、女性はなぜか車をいったんとめて、雪がやむのを待ってからアクセルを踏んだことになる。これは不自然だ。


かといって、これが自殺に見せかけた殺人だとするなら、犯人はエンジンを作動させたあと、どうやって足跡をつけずにその場を立ち去ったのかという謎が残る。


二つ目。車内で死んだ女性とは別に、館の裏庭で男が一人死んでいた。死因は後頭部を殴られたことによるショック死。死体の周囲には被害者の足跡があるのみ。被害者を撲殺後、犯人はどこに消えたのか。


しかも、この男と館の主人とは赤の他人同士である。男は一体何者なのだろう。


捜査が行き詰まったところで、桜宮と河原木のコンビ登場。桜宮は指摘する。「この館は回転する」


女性を殺したのは館の主人。雪がやむまえに、犯人は被害者の車を運転して、道路の真ん中に停めておいた。眠らせた被害者を運転席に乗せ、太いロープで車と館を結べば準備完了。


友人の家でアリバイを作り、館の主人はリモコンの遠隔操作で館を回転させた。ロープは高速で巻き取られ、被害者が乗った車は館の門扉に正面から激突する。トリックに使用したロープは警察が到着するまでに、館の主人が回収しておいた。


ちなみに、裏庭で死んでいた男はただの空き巣で、敷地に侵入したタイミングで不幸にも館の回転が始まり、回転する館が後頭部に直撃して命を落とした。


館の主人は逮捕される。被害者の女性とは何の接点もなかったことから、孤独な一人暮らしを続けた結果、気が狂ったのだと認定される。




【第四話 冬の洞爺湖で泳げない】

3月30日。日本百景の一つ、洞爺湖で見つかった、男の溺死死体。被害者の名は金槌かなづちかなめ。泳ぎが苦手な、いわゆる『カナヅチ』であった。


監視カメラを調べた結果、捜査線上に一人の男が浮かび上がる。洞爺湖でボート屋を営む、水水すいすいおよぐである。


だが、水水には鉄壁のアリバイがあった。被害者が殺された時間(深夜)、水水は居酒屋で酒を飲んでいたのだ。


桜宮と河原木の出現と同時に、事件は解決する。水水は被害者を洞爺湖に呼び出すと、刃物で脅しつけて無理矢理ボートに乗せた。それから、湖の中心付近に位置するゼロポイント(岩が湖面に突き出している場所)まで移動すると、岩の上に被害者を降ろして、一人でボート小屋に戻った。被害者は泳げないため、ゼロポイントから動けない。


水水は居酒屋に移動し、あらかじめ湖の岸辺に設置しておいた造波装置を遠隔で起動させる。二メートルを超える大波がゼロポイントに襲いかかり、被害者は湖に転落。こうして水水は完璧なアリバイを手に入れた。


警察は水水を捕まえた。しかし、水水と金槌の関係は依然としてわからないままである。

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