第21話 変わらない関係?

「そもそも、日本人がクリスマスを祝うのよ、クリスチャンでもあるまいし。」

 クリスマスイブに、宵谷の親戚の別荘でのクリスマス会で、目菜が、わざとらしく文句を言った。続いて、戸奈が、

「大体、明日、キリストが生まれるのに、前の日に盛り上がってるるのよ?」

「それはだな。」

 田蛇が割って入った。

「叔母さんの受け売りだけど24日の夜が、25日だからだよ。」

「はぁ~?」

「当時は、日が暮れると、翌日なんだってさ。それにさ、日本人は、多神教徒なんだから、新しい神を受け入れて、その祝日を祝ってもおかしいことはないんじゃないか?」

「あ~、そう言えば、中南米に勤務していた叔父さんが、この日は教会に集まったりして、静かにキリストの生誕を祈って、日が変わるとともに、大騒ぎをはじめると行ってたわ。」

 目菜が相づちをうつように応じた。4組のカップル、他の3組の部屋で二人っきりでというパワーをひしひしと感じてならない目菜だった。一緒にいるからといって、必ずしも、彼らがセックスに及ぶとも思えなかった。大体、童貞・処女カップルが自分達だけではなさそうだとも感じていた。しかし、そこまで行ってもいいかなという思いがある彼女らと自分は、何か随分違うように思われてならなかった。田蛇が性欲を、自分を見て感じるのは理解はできるし、嫌悪感までは感じないが、あの時の恐怖、嫌悪感を少し思い出して、鳥肌が少したってしまう。キスもした、抱き締め合ってもいる。寄り添う、腰に手をまわされ、並んで歩いてもいる。添い寝もしている。しかし、それ以上を、と考えると拒否反応とまではいかないが、求められたら、突き放すだろう自分を感じる。信頼できる女友達に何となく相談しても、

「う~ん。」

とうなり、

「無理しなくていいんじゃないかな。分かっていてくれているよ。」

 気は楽になるものの、気が完全に晴れるわけではない。両親は、割と正面から答える。

「男というのはな、色々、変な情報に迷わされているからな…。正直に内心を伝えて、彼の本心を理解してあげろ。その上で嫌なものは、嫌だと言えばいいと思うぞ。」

 田蛇の両親も、

「嫌なことを嫌だと正直に言って、理解しないなら息子が悪い。振ってしまって結構だよ。君が悪いと思う必要はないよ、君は被害者なんだから。」

とは、言ってくれている。

 男が性欲を感じて、それを我慢する方法は?と目菜に訊ねられた田蛇は正直に説明した、何でも正直に言うとの約束だったから。一応理解したが、自分を妄想して…、というのには嫌悪感を感じた。違うのは分かっていたが、奴らを思い出してしまうからだ。

 年末年始も二人で過ごし、何処へでも、手をつないで、寄り添って行く二人のことは、仲の良いカップルを通り越して、バカップルしているようにも見られていたが。それぞれの手にあるソフトクリームを味見しあったり、年始の神社で一杯の甘酒を二人で飲んでいれば、当然のことではある。そんな変わらない日常を過ごしているうちに、

「今度こそ、インポになったのではと、本気に心配したよ。」

と田蛇が安心したように、目菜に言う事態が発生した。

 ことのおこりは、高校の同窓会だった。流石に二人でとはいかなかったので、目菜は一人で出席した、それが当然なことだったが。

 彼女は、色々な点で注目された。色々な目で、話しかけられた。覚悟していたし、それは嫌なことであり、できれば欠席したかったが、それでは負けたような気がしたのと、こういうことは今後も続く、乗り越えねばと思ったからである。仲の良かった同級生達に会いたい、話をしたいという気持ちもあったが。

 仲の良かった、最後まで味方だった面々と近況について話が盛り上がり、田蛇との付き合いが続いていることを、盛んに冷やかされている中に、本来いるはずもない、来るべきではない男が声をかけてきた。金谷だった。

「久しぶりだな。ちゃんと元気にやっているか?」

 親しげに話しかけられた目菜は、引きつりそうな表情を抑えるのに必死だった。

「彼女は、彼氏とラブラブで、リア充全開、幸せ一杯。しかも、2人揃って、卒業単位も、もうばっちりクリアー、しかも全優で。」

「俺なんか、彼女無し年=年齢で、単位は危ない上に、良が半分以上でさ。」

「あんたのなんか誰も聞いてないよ。」

「ひでえな~。ちなみにお前はどうなんだよ~?」

「私…、それこそ誰も聞いていないよ!」

 気をきかせて、漫才のようなやり取りを、周りがしてくれた。

「そうか、お前も苦労しているんだな。無理しなくていいんだぞ。あいつがまた、纏わり付いてきたら、俺にまた相談すればいいんだから、そんなことしなくていいんだ。昔のように、俺に頼っていいんだから、遠慮しなくていいんだぞ。お前のご両親も分かってくれている。あの時と同様、守ってやるからな。」

と彼女の肩を叩いて、他のグループの方に立ち去った。

「何なの、あいつ?」

「て言うか、誰が呼んだんだよ?幹事は誰だっけ?」

 一人が、頭をかいて、

「俺のせいもありそうだ、悪い…。」

 彼の話だと、同窓会の幹事は誰だ、と問い合わせる電話を金谷から受けたというのだ。

「それで、教えたのか?」

「すまん。」

「仕方ないわよ。それに、聴いた話だと、あいつ、他の同窓会にも出ているらしいよ。」

「?」

「まあ、心配…。」

 目菜が、今にも倒れそうなくらい顔色が、悪くなっているのに気が付いて、皆が慌てた。

「兎に角、座って、楽にして、落ち着いて。」

と女達が手を引いた。

「彼氏に電話をかけて、来てもらったほうがいいよ。」

「俺、知っているから、連絡してやるよ。」

 男達も心配してくれた。

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