第20話 合コンは不幸を運んで来る。

 目菜は、穴埋め要因で時々、合コンにかり出される。大抵は断るが、あまり頑なに断ると悪いと思い、たまには承諾して参加する、誘う方も、彼女に恋人がいることで誘わないように配慮していて、如何しても困った時に、頼み込んでくることを知っているからである。

 田蛇の方は、全くない、合コンの誘いは。美人の恋人のいるリア充野郎など、声をかけるはずがない。“リア充かな、俺って?”と疑問に思ってしまうが、目菜の顔を見ると“しかたないか、リア充と思われても。”と納得する繰り返しであった。“それに、実際、彼女といて楽しいしな。”

 目菜が、彼のグラスに北海道のワインをを注いだ。葡萄の味が、はっきり分かる、混ざり気のない、自然な味わいの甘口だった。

「ありがとう。」

 田蛇の部屋で2人は、そのワインを飲んでいた。二十歳になり、酒を飲み始めて、2人とも結構飲める方だと分かった。2人とも、両親ともに酒が強かったので、遺伝である、と自他共に解された。 

 だが、目菜は外で飲むのが怖いと言って、どちらかの部屋で飲むことになってしまった。両親は、どちらも家で飲む派で、日を決めて派、休肝日のほうが長い派であった。

 それは、田蛇が目菜の合コン相手に投げられた件で強くなり、さらに、その後の合コン事件でひどくなった。田蛇が柔道家から投げられた件で、流石に目菜に合コン参加を頼みに来る知り合いはいなくなったが、1人だけ執拗に誘って来る女性がいた。何度も断っていたところが、

「あなたを助けたいのよ!」

と告白した。告白後も当然誘ってきた。そして、遂には男たちまで連れて来たのだ。

“俺よりイケメンであることは確かだったな。”

 田蛇がそう思ったのは、彼の前にその男を連れて、彼女は現れたからである。その男のほうが、田蛇より目菜に相応しい、嫌なら彼と自分の前で勝負しなさいとまで迫ってきた。ついてくる男も男だとは思ったが。

 彼女の言い分は矛盾していたが、兎に角、彼女の頭の中では、田蛇はレイブ犯で、DV野郎で、インポで、二股野郎で、女にもてたことのない、勉強せずにパチンコ店に入りびたる、ホモ野郎ということになっている。白昼、恋人といる目菜に、田蛇が言いがかりをつけていると叫び、警察に通報すると云うことにエスカレートしてしまった。警察に事情聴取までいって、何とか解ってもらって、その後、彼女は目菜の周辺から消えた。まあ、その女は目菜と彼女が全く知らない男前との感動的な愛の物語を滔々と述べたのだが。

「ごめんね。私のせいで。」

 一応終わったが、酒でも飲まなければ、やっていられないというのが、2人の共通した気持だった。

「目菜のせいじゃないさ。」

「まさか、別れたいと思っていないよね?」

「君が、俺に悪いからという口実で、別れようと言い出さないかいかと、何時も不安には思っているよ。」

「馬鹿馬鹿しい。そんなこと、あるはずがないじゃない。」

 グラスを持ったまま、彼女は彼に寄りそった。2人の両親は、

「清純な関係だぞ。」

とは言っていたが、二人の判断に任せているようだった。

「もう大人だからな。自分達で責任をもてるばいい。だがな、無理矢理は駄目だからな。何時までも童貞は、とかいうのでも駄目だぞ。そんなことは、官能小説作家の作り事からな。」

「そうよ。そんなことしたら、目菜ちゃん、たこ殴りにして振っていいんだから。」

“俺の両親は、俺に容赦ないよ、全く。気が楽にはなってるけど。”

「ごめん。私が迷惑ばっかり持ってきて。」

 彼女たちは、酔ってはいたが、かなり深刻な感じになっていた。

「俺のせいだ。今年になって、3回赤十字の献血に行って、災害地のボランティアに行って、ゴミ拾いのボランティアとかも何度も参加しまった。踏切で倒れたおばあさんをまた助けてしまったり、倒れている人を何度も助けた。そのせいだよ。ごめん。」

「また~、もう~、なに言ってるのよ。」

「実際、何かやったら、その後災難が来た。」

「まだ、そんなこと言ってるのよ?」

 彼女が覗き込むように、彼の顔を窺うと、はっきり酔っているが、真剣な表情で、苦しんでいるようでもあった。

「馬鹿馬鹿しい。私も一緒にやったことばかりじゃない。」

 そう言うと、なんか逆に自分が悩むのも馬鹿馬鹿しくなってきた。

「兎に角、一緒に幸せになろう。」

「そうだな。」

 そう言いあって、残りのワインを飲み干した。

 田蛇がワインの瓶を風呂の残り湯で濯いでから、歯を磨いて部屋に戻ると、既に歯を磨き終えて戻っていた目菜が、ベッドに入ってはいた。田蛇が、ベッドの脇にしいてある布団に入ろうとすると、

「添い寝だけ、それだけだとダメ?」

 か細い声で目菜が言った。

「添い寝以上はダメということでちゃんと理解して、我慢するよ。」

 彼が、彼女に寄り添ってベットに入ると、

「幸せ?」

「85点で、幸せ。」

「まあ、高得点ということにしましょう。」

 そのまま、すぐ眠りに落ち、添い寝だけで朝が明けた。

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