第18話 別れろ、切れろと言われても

「お母さん。お嬢さんとその男を別れさせてあげて下さい!男との結婚だけが人生ではありませんよ!」

 カウンセラーの女性は、必死の形相で目菜と母親に、広くもない相談室で、テーブルを挟んだ向かい側で座る二人に迫った。

 彼女は、母親が嫌がる娘に、男性との交際を強要し、セックスまでも押し付けようとしていると思い込んだらしい。何度も、二人の関係を説明したのだが、肝心な部分が耳に入らないらしかった。田蛇の写真を見ると、

「彼は、オタクですね。そして、デートDVをしていますね。」

と断言した。そういう人間の外観ではないし、実際してないと言うと、

「人間を外見で判断するのは誤りです!お母さん、娘さんが可愛くはないのですか?」

と言い切った。

 ここには、目菜は田蛇と一緒に、初めは相談に行ったのだが、互いに悩みや苦しみは共有しようということで、早々に、彼に向かって、

「彼女につきまとうのは止めて下さい!」

と担当者は叫び、2度目は、やめたかったが、二回はどうしてもということを言われ、彼に同性愛を認めている国のリストと同性愛の団体の連絡先のメモを突きつけられた。“真面目な同性愛者に失礼ではないか”ということで、3回目は、行かなかったが、今度は向こうから押しかけてきた。

 何を言っても分からなかったので、とにかく追い出して、所属団体に、抗議したところ、こちらの方は、それで終わってくれた。

「まあ、男が獣なのは、田蛇の部屋にある本を見ると、その通りだと思うけどね。」

 少し悪戯っぽく、少し怒ったように、厳しい視線を向けた。

「まあ、レイプとか酷いものはないからいいけど。」

 機嫌が直った風になり、体をすり寄せた。他には、他の男性、田蛇なんかよりずっといい男性と交際することを強く進めるカウンセラーもいた。まあ、まともなカウンセラーが圧倒的だったのだが、参考になったし、気が楽になったが、残念ながらそこまでだった。根本的に解決策にはならなかった。人によって個人差はあるし、事情は異なるし、そうならざるをえないのは当然といえば当然である。最後は、自分達の努力が必要だということだ。それでも、そこで一歩は前進した。その代わり、何歩も後退しかねないところが幾つかあったが。先に出てきた以外に、政治運動に動員しようとする、自称?イケメン男がそれを説得しようとするところもあったが、そんなところはまだましなほうだった。交際すべきだという男性を紹介しようとするのも同様だった。何と、田蛇の前で、他の男性とセックスすることを勧める、田蛇には、インポであると決めつけ、性転換まで勧める男性カウンセラーもいた。そもそも、どうして男性カウンセラーだったのかが不思議なのだが。雨後の竹の子のように、このようなサービス業が現れて、玉石混交になっているらしい。そんな中で、2人の関係は、衣服ごしに体を寄せ合う関係止まりだった。

「別に、セックスを早く体験しないことが恥ずかしいわけではないのだから、焦ることはないよ。」

 父親もその他周囲の年上の男達は言ってくれるのだが。

「念のため言うけど、性的欲望は、目菜にちゃんと感じてるんだからね。」

 田蛇が半ば真面目な目をして言った。色々なところで、インポだろ、ホモだろうと断言されるので気になって仕方がないのである。また、偏見もあるだろうが、目菜にそれを感じないというのでは傷つけると思っての配慮もあるのだが。

「分かっているよ、馬~鹿。」

と優しく答える。男の性的欲望には、まだまだ嫌悪感を感じてしまうのだが。

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